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第一章

一番の楽しみ

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 断るとアンネが寂しそうな顔してしまったので、結局そのまま3人でお茶をすることになった。
 周りの視線が痛い。

 一番痛いのは「貴様早くどっか行け」と言わんばかりのアレハンドロの視線だが。
 いやそんな顔するなら最初から2人で座れるところに移動すれば良かっただろ。

 しかし私は優しいのでさっさと食べて退散してあげよう。

 2人の分のケーキセットが運ばれてきた。
 アンネは瞳をキラキラ輝かせている。

「美味しそうー! ラズベリーがピカピカ!」

 両頬に手を添えて声を弾ませるアンネに、深く頷いた。

「本当に美味しいぞ。土台の部分がチョコレートクッキーなのが私のお気に入りだ。ザクザクとした食感がいい」
「そうなんですね!?いただきます!」

 アンネは手を合わせてからすぐにケーキにフォークを刺した。
 土台までしっかり掬ってパクリ。
 目を閉じてゆっくりと口を動かしている様子に、分かる分かるとニコニコしてしまう。

 そういえば、いつも一緒にくるエラルドも、何回か一緒になったネルスも、よく私に

「欲しかったらいるか?」

 と聞いてくるくらいケーキにそこまで頓着しない。

 こんなに美味しいのにスナック菓子か、というくらい雑に食べ終わってしまうのだ。
 2人とも育ちがいいので食べ方は美しいのだが、なんだか物足りない。

 好きに食べればいいんだけど、昼食のメインを褒める時みたいにもう少し何か欲しい。
 美味しいね、美味しいねと言いながらケーキ食べたい。
 完全に私の個人的な欲求だ。

「美味しい!優しい甘さとこのチョコレートの少しの苦味が合う……食堂のおやついつも美味しい……幸せ……」

 敬語が抜けてる。
 かわいい。
 これこれ。

 うっとりと次は緑のムース部分だけを口に運ぶ様子に、分かる分かると頷く。

「アンネは丁寧に味わうんだな。見ていて楽しいよ」

 お茶が揃うのを待っていた私は、エラルドが残していった半分のケーキを自分の目の前に持ってきた。
 やっぱり美味しい。

「丁寧に食べないとバチが当たります!街のカフェでもなかなかお目にかかれないようなケーキですよ!あー……贅沢ぅ……」
「アンネは勉強を頑張っているから甘いもので疲れをとらないとな」
「はい!私の一番の楽しみなんです。これも美味しいですが、一昨日の……」

 ここでのスイーツがいかに美味しいか、今まででどれが気に入ったかなどの話で盛り上がる。

 アンネはチョコレートがとにかく好きなんだそうだ。
 分かる。
 私は生クリーム系が好きだと言ったら意外だと目を丸くされた。

「シン様、エラルド様とよくいらしてるの見かけるんですけど……皆んなでエラルド様が甘いものが好きなんだろうって噂してたんですよー」

 エラルドは私に付き合ってくれているのだが、周りにはどうやら逆に見えていたらしい。
 一体私への周りのイメージはどうなっているんだろう。

「そうなのか? 嫌いじゃないとは思うが、エラルドが好きなのは肉だ肉」

 男子が好きな食事と聞いてイメージする食べ物代表、みたいなものが好きなのだ。
 他のものもきちんと食べるが、褒めているのはメインにくるものばかりな気がする。
 ちなみに魚が出てもがっかりしたりはしない。

「そうなんですね!じゃあ甘いものをお贈りするのは止めた方がいいですかね?」
「贈り物だと?」

 ずっとだんまりつまらなそうにお茶を飲みながら私を睨んで話を聞いていたアレハンドロが、急に話に入ってきた。
 びっくりしたー!

 声がとても不機嫌だ。
 私とアンネだけで盛り上がってしまったのは本当に申し訳なかった。
 が、それだけではなく「贈り物」にえらく反応を示した。

「はい。クラスメイトにエラルドさまに贈り物がしたいと言っている方がいて」
「……貴様じゃないのか」

 それだけ聞くとまたティーカップを持ち上げるアレハンドロ。
 いや、分かりやすすぎ。

 アンネは本当にキョトンとしている。
 いやいや鈍すぎる。
 
 エラルドにプレゼントとは。

(恋なのかな?ファンかな?詳しく聞きたいなぁ……分かるよすっごくかっこいいもんねぇ)

 しかし3歳の婚約者が居ることは知らない方が良さそうだ。
 口がムズムズするけど黙っておこう。

「エラルドは女子生徒に人気があるんだな」

 と、言うにとどめた。
 そういう話はまたアレハンドロがいないときにアンネに聞こう。
 若い子との女子会トーク、楽しそうだ。
 
 そうこうしている内にネルスに貰ったケーキまで食べ終えた私は席を立った。

「もう少し話していたいが、食べ終わったから私はもう行くとしよう」
「そうですか……残念です」

 言葉通りの表情のアンネと「さっさと行け」という表情のアレハンドロ。

 アンネの頭をふわりと撫でる。

「楽しかったよ。また一緒にお茶をしよう」
「はい!是非!」

 にっこりと笑い合った後アレハンドロにドヤ顔で目線を送る。
 今にも舌打ちしそうな顔の坊やをスルーして手を振った。
 
 少し離れると、背後から

「やる」
「ええ!? いいんですか!?」

 と声が聞こえた。
 
 
 あ――!
 今――!?
 いやそりゃそうかー!
 振り向いて顔が見たいー!! 
 
 
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