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第一章

ぱらぱらめくる感じ

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 おそらく勉強するであろうネルスに声を掛けるのは止めて、気になった本を選ぶ。
 本を読んだり勉強するために机と椅子が色んなところに並んでいるのがありがたい。

 私は大人数用の大きな机の端の席に座って、灰色のしっかりとした表紙の分厚い本を開く。

(この、ぱらぱらめくる感じよいー)

 紙質を指先で感じながら本を読み始める。

 世界を乱す魔王を倒すため、ある国の王子様が仲間と共に討伐に行く、というよくある話だ。
 驚きなのは、これが実話を元にした有名な歴史物小説なところである。

 どこまで本当かは分かったものではないが。
 新撰組や三国志のように、登場人物の名前は同じだが、作者によって主人公が違ったり性格や容姿が微妙に違ったりと色々アレンジされている物語である。
 そういう話が、元の世界にいた時からとても好きなので何種類も読んでいる。
 
 
 物語の世界に耽っていたが、キリのいいところで一息つく。
 エラルドとの約束もあるため、時間を確認しようと目線を上げて時計を探した。

(あ、アンネ……)

 あの辺りは政治学関連の本のスペースだったか。
 この2週間で仲良くなったおさげちゃんは、梯子に登って高いところにある本をとろうとしていた。

(見ててヒヤヒヤするよなー……)

 目に入ってしまうと気になる。
 ついでにスカートで梯子に登るのもめちゃくちゃ気になる。
 万が一の時に助けられるようにそばにいようと立ち上がった、ちょうどその時。

 恐れていた事態が起きた。
 
 下を通った生徒が梯子に足を引っ掛けて転けた。
 その拍子に梯子もバランスを崩した。

「うわぁあ!!」
「きゃーっ!!」
(ほらみろー!!)
 
 梯子が倒れて行く様子、手を離してしまったアンネが落ちて行く様子がスローモーションのように見える。
 そして偶然にもアレハンドロがその下にいて、見上げているのが見えた。

(なんでいるんだアレハンドロ!いやでもグッドタイミング!アンネは任せた!!)
 
 私は既にアレハンドロが受け止める姿勢になっているのを見ると、転けた生徒の上に迫っていた重い梯子を止める魔術に集中した。

 今までは「魔術出来ますアピール」のためにわざわざキラキラピカピカさせていたが、緊急事態のためそのサービスは無しだ。
 
 アレハンドロは落ちてきたアンネをお姫様抱っこでナイスキャッチ。
 梯子も倒さず元の位置に戻せたので、転けた生徒も無事。
 
 私は息を吐いて椅子に座り直し、机に突っ伏した。

(間に合ったぁ……!)
「助かった……」
「なんで梯子が元に戻ったんだ?」
「で、殿下!?」
「大丈夫か?」

 等々、ざわめきが聞こえる中、

「……よく落ちてくる女だな。」
「1度ならず2度までも!申し訳ございません……!」

 アレハンドロとアンネの少女漫画が始まりそうな声が聞こえて、脱力していた顔をなんとか上げる。

「しかし、これは何か対策せねばならんな」

 忌々しそうに眉を顰め、梯子と本棚を見上げて呟くアレハンドロ。
 うん、私もそう思う。
 そうしている内に、頬を染めたアンネが遠慮がちに声を掛けた。

「あ、あの……」
「なんだ」
「お、重いですよね……」

 アレハンドロは筋力がありそうな方だが、重いは重いだろう。
 10kg台の幼児でもずっと抱いてるのはしんどいのだから。

「そういえば、前回より重いな」

 ニヤリ、と笑いながら意地悪い言葉を紡ぐ。
 速度を落とす魔術の助けもなく、落下するアンネを直で抱き留めた上にずっと抱いているのだ。
 そう感じるのは当たり前である。

 そのくせ、降ろさないのはなんなのか。

 アンネが困っているのを見て楽しんでいるようだ、あの幼児。
 アンネもアンネで、なんで顔が赤いんだ。
 私なら入学式のことを思い出して顔真っ青だわ。
 
 面白いなと思って見ていると、アンネと目が合った。

「あ、シン様!」

 その声に反応して、アレハンドロやその他数人の目線がこっちに来る。
 ある程度楽しんだらしれっと退散するつもりだったというのに。

 私と目を合わせると、アンネを降ろしたアレハンドロがこちらに近づいてくる。
 
 周りが今度はどうなるとピリつくのを感じた。

「貴様の魔術ならあの高さの本を取るのも簡単だろう。取れ」

 いやそこはお前が取る流れだろ。
 
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