14 / 134
第一章
13歳の言い間違いか?
しおりを挟む
平穏とは程遠くなってしまった学校生活初日。
なんとか乗り切り、食堂のドタバタのあとは平和そのものだった。
エラルド、ネルスの2人と広い校内を歩いて探検したり、お互いの家の話や夢の話をしたりしていた。
「俺の婚約者、3歳の女の子でさー。懐いてくれててかわいいんだ」
校内の芝生に腰を下ろして暖かな日に当たっている時の、エラルドの発言で空気が凍るまでは。
いやまて3歳?3
歳ってまだ赤ちゃんに毛が生えたようなちいちゃい子のこと?
隣でのんびり胡座をかいて笑っているエラルドを凝視してしまう。
私を挟んでエラルドと反対側に座るネルスが、
「13歳の言い間違いか?」
と笑った時は、
(それだー!! もうエラルドのおっちょこちょい!)
と、内心ほっとしてしまった。
が、
「いや、3歳だ。結婚できるの18からだから早くても俺30まで結婚出来ないなぁ」
とヘラヘラと笑っている。
笑い事なわけがあるか。
この世界の貴族は――現実世界でもそんなイメージだが――さまざまな家の事情で勝手に結婚相手を決められることがしばしばある。
というかそっちの方が一般的だ。
「こちらの息子さんとそちらの娘さん歳が釣り合いますね。身分もいい感じですし取り持ちましょうか?」
というようなお節介なお見合いおじさんおばさんが重宝されることもあるが、大抵は家の都合で決まる。
分かってはいる。
分かってはいるが15歳と3歳はさすがに珍しい。
そして私の感覚では双方が可哀想としか思えない。
本人たちが自分で愛し合ったならいいよ?
30歳と18歳が出会って愛し合ったなら10歳や20歳の差、他人がとやかく言うわけにはいかないけどさぁ!
と、内心モヤモヤしていると、
「お前、良いのかそれで……」
ネルスまでもがドン引き顔でエラルドを見上げた。
「んー?いや、俺は30過ぎて若いお嫁さん貰えるんだから良いかもしれないけどなぁ……」
流石に全然良くなさそうな困り笑顔で頭を掻く。
頭よしよししてあげたい。
本人が嫌なら本当に可哀想。
「あの子が可哀想だよな。あんなに可愛いのに年頃になったらおじさんと結婚が決まってるなんて」
「それもそうだが。18歳の女性と出逢ったならまだしも3歳から知っていて、その子と子どもを作ろうと思えないな僕なら」
言うまでもないがこの世界の結婚は、イコール子孫繁栄である。
いきなりそこに話が飛んでいくのはさすがお家一番のネルスだが、圧倒的それな、というやつだ。
私なら無理だ。
世の中には色んな人がいるがおそらく一般的に、私やネルスの考え方の人が多いのではなかろうか。
源氏物語の紫の上でさえ10歳くらいだ。
確かそうだ。しかも当時ではあと2、3年で結婚適齢期になる子のはずだ。たぶん。
いやしかし、3歳だったあの子が18歳になって30歳のエラルドに
「私、もう子どもじゃないのよ」
という展開もありはありなのか。よく見た気がする。
30歳のエラルド、きっと身体も今より大きくて心も広くて笑顔が明るくて、でも経験値が高くなっててとにかく素敵に違いない。
まだまだ若い。
18歳相手でも違和感ない、ことはないな。
18歳からしたら30歳はおじさんだな。
表情は変えない私の、ぐるぐる高速で回る思考など勿論つゆ知らず。
当のエラルドは目から鱗、という顔をして口元を手で覆っていた。
「か、考えたことなかった!確かに……え、と……うわ、ベッドで土下座するかもしれない……」
「そうだろう? どう考えても3歳からの姿が頭を過ぎってどうにも」
「おっと急にガチリアルなそっちの話に持ち込むなティーンエイジャー。アラサーの夢が壊れる」
「なんて?」
過剰な反応かもしれないが、真剣にベッドの上でのことについて話し始めそうな15歳男子たちの話を思わず遮ってしまった。
ここ、学校な。学校。
お空、明るい。
私たち、初対面。
「いや、すまない。しかしなんでまた、3歳の女の子なんだ?」
心底不可解そうな2人を見て咳払いしながら、話の軌道を戻そうとエラルドに投げかけた。
ここで私は予想した。
王道でいくと、ユリオプス家は由緒ある伯爵家だが経済力が無い。
そこに付け込んだ成金で貴族と繋がりを持ちたい豪商などが幼い長女を貴族の跡取りと結婚させようと企てた。
この優秀な頭脳の記憶を掘り返したところ。
3年前、宮殿での招集帰りの私の父、デルフィニウム公爵が言っていたことを思い出した。
現在のユリオプス伯爵、つまりエラルドの父親は、領民思いで本人はとても信用出来るが、お人好しすぎると。
経済力があった方が領民のためになるとかそういうアプローチを受けたのではないだろうか。
それでも息子を犠牲にするなんてと迷う父親にエラルドは話を受けよう、という。
更にはここの学費も援助してもらっている。
(とか、どうだ!!)
頭の中でよくある物語を完璧に完成させ、芝生を握りしめてエラルドの言葉を待っていると、
「うちの伯爵領、不作が続いたりもして火の車でさ。去年、支援してくれるって言ってくれる豪商がいたんだよ。その条件が伯爵家の跡取りと自分の孫娘の結婚だったってわけだ」
ほぼドンピシャだった。
「大事な孫娘の婿にはこの学校を出て欲しい、金は払うって言われてここに入学できたんだよ」
口元を緩めながら頬を指で掻く、少し抜けた仕種が逆にキマッている。
ここまでくると怖い。王道すぎて怖い。
思わず握った芝生をそのまま千切ってしまった。
なんとか乗り切り、食堂のドタバタのあとは平和そのものだった。
エラルド、ネルスの2人と広い校内を歩いて探検したり、お互いの家の話や夢の話をしたりしていた。
「俺の婚約者、3歳の女の子でさー。懐いてくれててかわいいんだ」
校内の芝生に腰を下ろして暖かな日に当たっている時の、エラルドの発言で空気が凍るまでは。
いやまて3歳?3
歳ってまだ赤ちゃんに毛が生えたようなちいちゃい子のこと?
隣でのんびり胡座をかいて笑っているエラルドを凝視してしまう。
私を挟んでエラルドと反対側に座るネルスが、
「13歳の言い間違いか?」
と笑った時は、
(それだー!! もうエラルドのおっちょこちょい!)
と、内心ほっとしてしまった。
が、
「いや、3歳だ。結婚できるの18からだから早くても俺30まで結婚出来ないなぁ」
とヘラヘラと笑っている。
笑い事なわけがあるか。
この世界の貴族は――現実世界でもそんなイメージだが――さまざまな家の事情で勝手に結婚相手を決められることがしばしばある。
というかそっちの方が一般的だ。
「こちらの息子さんとそちらの娘さん歳が釣り合いますね。身分もいい感じですし取り持ちましょうか?」
というようなお節介なお見合いおじさんおばさんが重宝されることもあるが、大抵は家の都合で決まる。
分かってはいる。
分かってはいるが15歳と3歳はさすがに珍しい。
そして私の感覚では双方が可哀想としか思えない。
本人たちが自分で愛し合ったならいいよ?
30歳と18歳が出会って愛し合ったなら10歳や20歳の差、他人がとやかく言うわけにはいかないけどさぁ!
と、内心モヤモヤしていると、
「お前、良いのかそれで……」
ネルスまでもがドン引き顔でエラルドを見上げた。
「んー?いや、俺は30過ぎて若いお嫁さん貰えるんだから良いかもしれないけどなぁ……」
流石に全然良くなさそうな困り笑顔で頭を掻く。
頭よしよししてあげたい。
本人が嫌なら本当に可哀想。
「あの子が可哀想だよな。あんなに可愛いのに年頃になったらおじさんと結婚が決まってるなんて」
「それもそうだが。18歳の女性と出逢ったならまだしも3歳から知っていて、その子と子どもを作ろうと思えないな僕なら」
言うまでもないがこの世界の結婚は、イコール子孫繁栄である。
いきなりそこに話が飛んでいくのはさすがお家一番のネルスだが、圧倒的それな、というやつだ。
私なら無理だ。
世の中には色んな人がいるがおそらく一般的に、私やネルスの考え方の人が多いのではなかろうか。
源氏物語の紫の上でさえ10歳くらいだ。
確かそうだ。しかも当時ではあと2、3年で結婚適齢期になる子のはずだ。たぶん。
いやしかし、3歳だったあの子が18歳になって30歳のエラルドに
「私、もう子どもじゃないのよ」
という展開もありはありなのか。よく見た気がする。
30歳のエラルド、きっと身体も今より大きくて心も広くて笑顔が明るくて、でも経験値が高くなっててとにかく素敵に違いない。
まだまだ若い。
18歳相手でも違和感ない、ことはないな。
18歳からしたら30歳はおじさんだな。
表情は変えない私の、ぐるぐる高速で回る思考など勿論つゆ知らず。
当のエラルドは目から鱗、という顔をして口元を手で覆っていた。
「か、考えたことなかった!確かに……え、と……うわ、ベッドで土下座するかもしれない……」
「そうだろう? どう考えても3歳からの姿が頭を過ぎってどうにも」
「おっと急にガチリアルなそっちの話に持ち込むなティーンエイジャー。アラサーの夢が壊れる」
「なんて?」
過剰な反応かもしれないが、真剣にベッドの上でのことについて話し始めそうな15歳男子たちの話を思わず遮ってしまった。
ここ、学校な。学校。
お空、明るい。
私たち、初対面。
「いや、すまない。しかしなんでまた、3歳の女の子なんだ?」
心底不可解そうな2人を見て咳払いしながら、話の軌道を戻そうとエラルドに投げかけた。
ここで私は予想した。
王道でいくと、ユリオプス家は由緒ある伯爵家だが経済力が無い。
そこに付け込んだ成金で貴族と繋がりを持ちたい豪商などが幼い長女を貴族の跡取りと結婚させようと企てた。
この優秀な頭脳の記憶を掘り返したところ。
3年前、宮殿での招集帰りの私の父、デルフィニウム公爵が言っていたことを思い出した。
現在のユリオプス伯爵、つまりエラルドの父親は、領民思いで本人はとても信用出来るが、お人好しすぎると。
経済力があった方が領民のためになるとかそういうアプローチを受けたのではないだろうか。
それでも息子を犠牲にするなんてと迷う父親にエラルドは話を受けよう、という。
更にはここの学費も援助してもらっている。
(とか、どうだ!!)
頭の中でよくある物語を完璧に完成させ、芝生を握りしめてエラルドの言葉を待っていると、
「うちの伯爵領、不作が続いたりもして火の車でさ。去年、支援してくれるって言ってくれる豪商がいたんだよ。その条件が伯爵家の跡取りと自分の孫娘の結婚だったってわけだ」
ほぼドンピシャだった。
「大事な孫娘の婿にはこの学校を出て欲しい、金は払うって言われてここに入学できたんだよ」
口元を緩めながら頬を指で掻く、少し抜けた仕種が逆にキマッている。
ここまでくると怖い。王道すぎて怖い。
思わず握った芝生をそのまま千切ってしまった。
14
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる