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31話
しおりを挟む「ミナト!?」
防御の魔術が突破される感覚に、カズユキは飛び起きる。
その反動で鳴るけたたましい音に構わずリビングに出たが、そこには誰もいなかった。
部屋を見渡したが、入り口が開いていること以外に変わったことはない。
争った形跡も魔獣が侵入した痕跡も何もなかった。
カズユキは呆然と立ち尽くす。
昨夜、女児が自分から守りの外に出てしまったことを受けて、内側からもミナトは出られないようにしていた筈だった。
それが破られているということは、相手が相当な魔術の使い手かもしくは。
(…俺の魔術が弱くなってた…? 怪我のせいか? いや…)
思い当たる節に足元から崩れ落ちそうになる。なんとか耐えてテーブルに両手を置いた。
「嘘だろ、そんなに、メンタルやられてたのか…」
魔術は使用者の健康状態や精神状態に大きく左右される。
カズユキには信じたくないことではあったが、ミナトとの会話で本人が思う以上に心が掻き乱されていたのだ。
まずは冷静になろうと深呼吸を繰り返す。
しかしそれすらままならない。
仕事をしていて失敗をすることはあれど、護衛している依頼人を連れ去られるなどという失態は初めて犯した。
「…なんで開いてるんだ?」
そうしていると、ようやく帰ってきたコウがドアの前に立った。
魔獣の血に塗れた姿をしていても、カズユキにとっては一番安心する相手だ。
「コウ! ミナトが…! っ、俺が…!」
珍しく眉を下げて取り乱した声を出し、要領を得ないことを言うカズユキ。しかしコウは室内を見渡し、まだ色濃く残る魔術の気配で状況を把握した。
「クソ! なんで同じ部屋に居なかったんだ…!」
感情的になって拳を振り上げる。
テーブルに叩きつけようとした手をコウが受け止めた。
「カズユキ、落ち着け。」
深く静かな声と共に、そのまま腕を引き寄せてカズユキの体を抱き締めた。背を撫でられながらカズユキは唇を噛む。
「…っ、」
「急げば間に合う。ミナトが今どこにいるか分かるか?」
耳元で柔らかいコウの声が聞こえる。強張っていた体が温もりに溶かされていく。
カズユキは目を閉じて、改めてゆっくりと呼吸をした。
その状態のまま追跡魔術を行う。
ミナトには万が一のために魔術道具を持たせておいたのだ。追跡と、防御に使うことが出来る。しばらくは大丈夫なはずだと思い出す。
(使うつもりはなかったのに…)
不甲斐なさに嫌気が差す。
しかし、落ち込んでいる暇もない。
カズユキの脳内にミナトの居場所の情報が写真や地図のように流れ込んできた。
最近、訪れた場所だった。
「分かった。」
コウを見上げると、青い瞳が続きを促すように見つめてくる。
ミナトの現在地は、この街の地下闘技場。
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