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梅木と水坂の場合

十三話

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 先生たちに知られていたという事実は、あまりにも恥ずかしすぎた。
 だって、見てたら分かるってことは他の先生たちも気づいている可能性があるってことだ。

 嫌すぎる。

 俺は授業中は水坂を見ないように徹底した。
 休み時間は、水坂が声を掛けてくる前に光安たちのところに話しかけに行った。
 他の人と話していると、水坂はわざわざ割り込んで来ることはなかったからだ。

 でも、杏山りょうの恋人になった土居どいは遠慮なく教室に入ってきて話に混ざる。
 桜田サクの恋人の空なんか、やってきたときには問答無用で桜田サクを連れていく。

 そんな時は、俺と水坂は本当にごっこ遊びなんだななんて感じてしまう。
 ちょっと寂しい。

(もう少し強引にきても……いや、良くない。恥ずかしい)

 心の中でため息を吐きながら、光安と桃野が並んで教室を出て行くのを見送った。
 一緒に下校出来るのが羨ましい。
 水坂は放課後だけは時間が合わない。
 逃げる必要もなく、ほっと一息つけるはずのこの時間が、だんだんつまらない時間に変わってきていた。

 それがどうしてかなんて、自問自答することすらバカバカしい。

「……今日は待ってみようかな……」

 特にイベントごとがない日は1時間ほどで生徒会は終わるはずだ。
 俺はカバンの中から、明日が提出期限の宿題プリントを机に広げた。


 
 なんとなく足音を忍ばせて生徒会室に向かう。
 丁度、部屋から生徒会役員が出てくるところだった。
 二次元みたいな華やかさはないけれど、やっぱりみんな陽のオーラを放っている気がする。

「じゃあ鍵はよろしくな水坂!」

 そういって部屋に手を振っている男子生徒を見て、水坂はまだ生徒会室にいるのだと分かった。
 ひとりで残っているのだとしたら、俺は運がいい。
 生徒会役員が立ち去るのを見計らって、足早に部屋の前に立った。

 しかし、ノックをしようとしたところで手が止まる。

(なんて言おう? 一緒に帰ろう、とか? もしまだやることがあるんだったら邪魔だよな……)

 いつも向こうから話しかけてくれるもんだから、自分からというのが気恥ずかしい。
 やっぱりやめて帰ろうか、などと考えていると目の前の引き戸がガラっと開いた。

「わ……!」
「あっ、ごめん」

 戸を開けるのとほぼ同時に一歩踏み出したらしい水坂と、体がぶつかり合う。
 咄嗟にバランスをとろうと水坂の服にしがみつくと、素早く腰を支えられた。

「ま、真守?」

 俺の顔を確認すると、長いまつげに縁どられた目が瞬く。

「や、あの、その! 違う、間違えました失礼しました!」
「いや待て待て!」

 焦った俺は意味不明なことを口走りながら体を離した。そのまま背を向けようとしたけど、あっさりと捕まってしまう。

「俺に用なんだろ? 入れよ」

 一緒に帰ろうとしただけだから生徒会室に入る必要はなかったけど、それを伝えることが出来なかった。

 水坂は入り口を静かに閉めると、唇の片端を上げた。
 俺を揶揄ってやろうっていうのが見え見えだ。
 そうはいくか。

「で? ようやく告白を受ける気になったか?」
「うん」
「え?」

 自分で聞いたくせに、間髪入れずに答えてやると面白いくらいに水坂の目が見開かれた。
 俺は俺で、予定にないことを口走った自分に驚いていた。
 なんで肯定してるんだ。

 混乱したけれど、自分の気持ちもわかってるし、先生たちには筒抜けらしいし、勢いも大事なんじゃないかって。
 俺は急に開き直った。
 スッと大きく息を吸う。
 改めて言葉にするのは緊張するけど、嘘の告白をした時の嫌なドキドキはなかった。

「水坂、俺」
「待て」
「……!?」

 水坂の手が、ようやく形にしようとした言葉を阻んだ。
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