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杏山と土居の場合

二話

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 学校から電車で2駅先にある大きい駅の近くのカラオケボックスの一部屋。
 友だちのひとりが失恋歌を歌ってガチ泣きしているのをみんなで囃し立てている中、スマートフォンの画面にメッセージが表示された。
 俺、杏山諒きょうやまりょうは目を見開いて画面を見つめる。
 大きな声を出すのを飲み込みながら、みんなに背を向けた。
 
『告白、OKされたどうしよう』
 
 メッセージアプリを改めて開くと、そう書いてある。
 見間違いではなかったらしい。
 俺はその文への既読メッセージの数字が増えるのを確認しながら、画面をタップする。

『え、俺も』

 すると、

『俺もなんだけど! 助けてくれ!』
『全員!? そんなことあるか!?』

 と、想定外の文章が連続で送られてきた。
 さっきまでノリノリで聞いていた、失恋歌にしてはテンポの軽い流行り曲が、どんどん遠くなっていく気がした。
 
(どうしてこうなった)
 
 
 事の発端は、昼休み。
 
「そういえばお前たちくらいのころ、告白ゲームとかしてたな。」
 
 俺含め4人で学校の屋上で昼飯を囲んでいる時だった。
 なんか、卒業までに楽しいことしたいなって話をしていたんだった気がする。
 そうしたら、偶然それを聞いてた隣のクラスの担任の口から出たのが「告白ゲーム」だった。
 先生の前では「なんだそれ最低じゃねー?」と笑っていた俺たちだったが。
 いやー。面白そうだよな?
 
「告白ゲーム」とは。
 何かの罰ゲームとして同性に告白する、というものだ。

 分かりやすいよな。
 女の子にそれやられてすっげぇガッカリしたことあるぞ俺。
 今回のターゲットは同性。
 しかも、あまり親しくない相手に、という条件付きだ。
 仲良かったら罰ゲームになんねぇしな。すぐバレるだろうし。
 
 先生が爆弾を落として出ていった後、4人の中で一番そういう遊びが好きな桜田サクが童顔を輝かせて元気いっぱいに口を開いた。

「やろうぜ! 次の英語の単語テストでビリだったやつがそらに告白な!」
「それスリル満点すぎだろ~! 殺されたらどうすんだよ!」

 俺は思わず笑ってしまった。
 空とは隣のクラスにいる不良だ。
 金髪の似合うイケメンで、気がつくと隣にいる女の子が変わっている目つきの悪い怖そうな男。
 そんな奴をターゲットにするなんて、桜田サクの頭のネジは飛んでるに違いない。

 俺の幼なじみの梅木まもるは止めたけど、残りのひとりの光安みつやすが「みんながやるならやるか」って軽いノリで言ってきたので多数決で決まった。
 
 結果としては言い出しっぺの桜田サクが単語テストで最下位だった。
 もう、腹筋が痛くなるほど爆笑してしまった。
 せめて勝算がある賭けに出ようぜ。
 しかも 桜田サクは、

「俺だけは嫌だ!」

 と、往生際悪く泣き言を言い出した。その膨れっ面に少し親心みたいなのが出てきて。
 皆で仕方ないからもうひと勝負するかとなった。
 
 最終的に、マラソンでビリだった梅木まもると漢字テストで0点だった光安も巻き込むことになる。
 4人中3人が、最早罰ゲームと言っていいのかわからない嘘告白をすることになったわけだ。
 そうなったら当然。

「こうなったらみんなでやろうぜ! な、杏山あんず!」

 案の定、桜田様サクの鶴の一声で俺もお祭りに参加することになったってわけだ。

「しょうがねぇなー!」

 楽しそうだからいいか、と、この時は思っていたんだが。
 
 告白の相手は、全員同級生のイケメンたち。
 3年生男子の中でモテる男ベスト4って感じのやつらだ。
 告白なんてされ慣れていると予想できる上、空以外の3人はどんな女の子が告白しても靡かないと有名だった。もったいない。
 格下男子の告白くらいなら、流してくれると信じよう。
 
 俺たちは、全員が放課後に告白して、帰ってから結果報告しよう!
 と決めて別れた。
 
 まさか、全員が告白成功するなんて。
 神様でも予想出来なかっただろ。
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