64 / 65
番外編
クリスマスの光安と桃野(桃野視点)
しおりを挟む
街灯でほのかに照らされた夜道を恋人とふたりで歩く。
冷たい風が素肌の部分を刺してきて、首元の防寒もしておけば良かったと後悔する。
隣を歩く光安も、ポケットに手を入れて肩を縮こまらせていた。
今日は、クリスマスパーティをした。
光安と仲のいいクラスメイト4人と、その恋人たちも来て全員で8人。
正直初めは、恋人とふたりで過ごしてみたいという気持ちも強かった。でも、誘ってくれた時に光安が、
「それで、その後、泊まりに行っても良いか?」
と、はにかみながら言うものだから。
首を縦に振るしかないだろう。
クリスマスパーティを友人とする、という機会も初めてだったから、それはそれで楽しみなイベントとなった。
実際、賑やかな空間で食事したりケーキを食べたり、プレゼント交換をするのはとても楽しくて。俺は、あの時「行く」と言って良かったと心から思う。
感謝の気持ちを込めて、鼻が赤くなった横顔をじっと見つめる。すると、にっこり笑った光安が俺の手をとって、再びダウンコートのポケットの中に入れる。
そういうつもりじゃなかったけど、暖かくて嬉しい。
俺は横に一歩、光安に近づいて歩くことにした。
見上げた先の耳が赤いのは、寒さのせいだろうか?
◆
風がないからマシなものの、留守にしていた室内はやはり寒い。
すぐに暖房と風呂のスイッチを押す。
「外、寒かったな~!」
光安はアウターを脱ぎ、笑顔だったけれど。
時間になったら湯が沸くようにしておけば良かった。部屋が寒いのも、俺の不手際だ。
「すまない、体が冷えているだろう? 何か温かい飲み物……、光安?」
俺はまだ寒くて、コートを脱がないままキッチンへと向かおうとした。しかし、腕をしっかり掴んで止められた。
不思議に思いながら振り返ると、熱を持った瞳で見つめられる。
鼓動が、少しずつ早くなり始めた。
男らしい眉と優しい目、バランスの良い大きさの鼻や口。初めて見た時から、ずっと好きだった顔が目の前にあるのは、未だに夢じゃないかと思うことがある。
光安はいつも「桃野は綺麗だな」「髪、黒くて艶々で肌も白くてまつ毛も長いしすごいな」と俺を褒めてくれるけど。
光安以外の人にも、小さい頃から言われてきたことではあるけれど。
俺からすると、光安の格好良い顔や親しみやすい性格の方が何倍も好感が持てる。
なにも言えないでただ見惚れていた俺の頬を、大きな両手が包んだ。
ポケットに入れていたからだろうか。
それとも俺の肌が冷たすぎたのか。
手を繋げなかった方も、予想より温かい。
その温もりが心地よくて目を閉じる。
それが合図だったかのように、柔らかい唇が俺のそれに重なる。
ボリュームのある髪が、瞼に触れた。
幸福感が頭にも胸にも溢れてきて、背中に腕を回しセーターに触れた時に。
キスが終わってしまった。
(……早い……)
物足りなくて、もう一度して良いだろうかと光安の様子を伺う。
向こうも同じようにこちらを見ていた。俺の視線をどう受け取ったのだろう。
口元を緩めた光安が、俺の好きな安心感のある声で言葉を紡ぐ。
「……こうしたらあったかく……なったりしないかな~ってな」
その笑顔に、一際大きく、胸が鳴る。
照れてしまったのか、最後はふざけているかのような響きに変わっていった。
そういうところも、愛しい。
血の巡りが良くなって、本当に指の先まで熱くなりそうだ。
「ならない」
「ははは。だよな~」
光安は残念そうに両手を離してヒラヒラと振った。
我ながら、あまりにも感情の乗らない自分の声に溜息が出そうだった。
もっと可愛らしい表情や声が出せれば良いのに。
でも、俺は背に回した腕は離さなかった。
こんなことならすぐコートを脱げばよかった。
いつもの体温をあまり感じられない。
軽く背伸びをして、今度は俺から光安の唇を奪う。
抱き締めている体が、固まったのが分かった。
すぐに唇を離すと、見開かれた目に向かって微笑みかける。
「1回じゃ、全然暖かくならない」
みるみるうちに首まで真っ赤になっていく。
分かりやすくころころ変わる表情が可愛い。
(大好きだ)
顔を再び近づける。
「桃野、好きだ」
唇が触れ合う直前の甘い声。
俺も、と言えないまま飲み込まれていった。
冷たい風が素肌の部分を刺してきて、首元の防寒もしておけば良かったと後悔する。
隣を歩く光安も、ポケットに手を入れて肩を縮こまらせていた。
今日は、クリスマスパーティをした。
光安と仲のいいクラスメイト4人と、その恋人たちも来て全員で8人。
正直初めは、恋人とふたりで過ごしてみたいという気持ちも強かった。でも、誘ってくれた時に光安が、
「それで、その後、泊まりに行っても良いか?」
と、はにかみながら言うものだから。
首を縦に振るしかないだろう。
クリスマスパーティを友人とする、という機会も初めてだったから、それはそれで楽しみなイベントとなった。
実際、賑やかな空間で食事したりケーキを食べたり、プレゼント交換をするのはとても楽しくて。俺は、あの時「行く」と言って良かったと心から思う。
感謝の気持ちを込めて、鼻が赤くなった横顔をじっと見つめる。すると、にっこり笑った光安が俺の手をとって、再びダウンコートのポケットの中に入れる。
そういうつもりじゃなかったけど、暖かくて嬉しい。
俺は横に一歩、光安に近づいて歩くことにした。
見上げた先の耳が赤いのは、寒さのせいだろうか?
◆
風がないからマシなものの、留守にしていた室内はやはり寒い。
すぐに暖房と風呂のスイッチを押す。
「外、寒かったな~!」
光安はアウターを脱ぎ、笑顔だったけれど。
時間になったら湯が沸くようにしておけば良かった。部屋が寒いのも、俺の不手際だ。
「すまない、体が冷えているだろう? 何か温かい飲み物……、光安?」
俺はまだ寒くて、コートを脱がないままキッチンへと向かおうとした。しかし、腕をしっかり掴んで止められた。
不思議に思いながら振り返ると、熱を持った瞳で見つめられる。
鼓動が、少しずつ早くなり始めた。
男らしい眉と優しい目、バランスの良い大きさの鼻や口。初めて見た時から、ずっと好きだった顔が目の前にあるのは、未だに夢じゃないかと思うことがある。
光安はいつも「桃野は綺麗だな」「髪、黒くて艶々で肌も白くてまつ毛も長いしすごいな」と俺を褒めてくれるけど。
光安以外の人にも、小さい頃から言われてきたことではあるけれど。
俺からすると、光安の格好良い顔や親しみやすい性格の方が何倍も好感が持てる。
なにも言えないでただ見惚れていた俺の頬を、大きな両手が包んだ。
ポケットに入れていたからだろうか。
それとも俺の肌が冷たすぎたのか。
手を繋げなかった方も、予想より温かい。
その温もりが心地よくて目を閉じる。
それが合図だったかのように、柔らかい唇が俺のそれに重なる。
ボリュームのある髪が、瞼に触れた。
幸福感が頭にも胸にも溢れてきて、背中に腕を回しセーターに触れた時に。
キスが終わってしまった。
(……早い……)
物足りなくて、もう一度して良いだろうかと光安の様子を伺う。
向こうも同じようにこちらを見ていた。俺の視線をどう受け取ったのだろう。
口元を緩めた光安が、俺の好きな安心感のある声で言葉を紡ぐ。
「……こうしたらあったかく……なったりしないかな~ってな」
その笑顔に、一際大きく、胸が鳴る。
照れてしまったのか、最後はふざけているかのような響きに変わっていった。
そういうところも、愛しい。
血の巡りが良くなって、本当に指の先まで熱くなりそうだ。
「ならない」
「ははは。だよな~」
光安は残念そうに両手を離してヒラヒラと振った。
我ながら、あまりにも感情の乗らない自分の声に溜息が出そうだった。
もっと可愛らしい表情や声が出せれば良いのに。
でも、俺は背に回した腕は離さなかった。
こんなことならすぐコートを脱げばよかった。
いつもの体温をあまり感じられない。
軽く背伸びをして、今度は俺から光安の唇を奪う。
抱き締めている体が、固まったのが分かった。
すぐに唇を離すと、見開かれた目に向かって微笑みかける。
「1回じゃ、全然暖かくならない」
みるみるうちに首まで真っ赤になっていく。
分かりやすくころころ変わる表情が可愛い。
(大好きだ)
顔を再び近づける。
「桃野、好きだ」
唇が触れ合う直前の甘い声。
俺も、と言えないまま飲み込まれていった。
24
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
その空を映して
hamapito
BL
――お迎えにあがりました。マイプリンセス。
柔らかな夏前の風に乗って落とされた声。目の前で跪いているのは、俺の手をとっているのは……あの『陸上界のプリンス』――朝見凛だった。
過去のある出来事により走高跳を辞めてしまった遼平。高校でも陸上部に入ったものの、今までのような「上を目指す」空気は感じられない。これでよかったのだと自分を納得させていた遼平だったが、五年前に姿を消したはずの『陸上界のプリンス』朝見凛が現れて――?
※表紙絵ははじめさま(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/830680097)よりいただいております。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる