22 / 65
桜田と空の場合
三話
しおりを挟む
俺が告白したのは空凪。
隣のクラスの、いわゆる不良。
短い金髪で耳にはピアス、シャツのボタンはいつも開いてて中から派手な色のTシャツが見えている。
金髪が違和感ないくらい似合ってて、冷たい目と高い鼻、小さい顔に長い足の長身イケメン。
同じくらいの短髪なのに、なんの変哲もない黒髪で、低身長童顔の俺とはえらい違いだ。
毎日喧嘩してるとか、恋人が日替わりだとか、他校に舎弟が百人いるとか中学の時に周辺の不良を全員シメたとか。
どう考えても不良漫画読み過ぎな奴らが流した噂を一身に受けてるやつだった。
ファッションであの格好してんじゃないかなと俺は思っている。
校則違反だから不良は不良だけど。
そういうわけで、俺は放課後に隣のクラスに行った。
教室に残ってたやつに空の居場所を聞くのに「罰ゲームだ」とだけ伝えると「勇者かよ」と笑われた。
俺が言うのもなんだけど、空の扱いが酷い。
不良なんてほとんど居ない治安の良い学校だから完全に魔物扱いだな。
そして、最後の授業の前に保健室に寝に行ったとの情報を入手する。
先生が外出中の保健室で、カーテンの閉まっているベッドがひとつあった。
体調が悪いわけではなく、ただのサボりだとは思うけど起こすのは可哀想だ。
(寝てるなら、仕方ないから明日にして部活に行くかなー)
ちょっと緊張してきてしまったのもあって、自分に言い訳して帰りたくなる。
大丈夫だろうけど、もし噂通りの鬼みたいな奴だったらどうしよう?
今更ビビって立ち往生してしまう。
だが、そんなことは言っていられなくなった。
ジャッとカーテンが開く音がしたのだ。
俺は思わず姿勢を正した。
「……」
「あ、えーと、空……?」
「……なんだお前」
ベッドに腰掛けたままの、まだ眠そうな、気怠げな目がこちらを見た。
トーンは低いけれど、どこか涼やかな耳心地のいい声だ。
会話なんてしたこどがない俺がわざわざ声を掛けたから、物凄い怪訝な表情をしている。
悩んでいてもしょうがない。
なんせ、俺が言い出したんだし!
男らしくいけ!
というわけで、俺はそのまま思いっきり告白したわけだ。
そして、OKされた。
なんでだよ。
え?
なんでだよ。
ちゃんと嘘だって伝えたのに。
俺はびっくりしすぎて笑えてきた。
「ね、寝ぼけてらっしゃる?」
「いや……ああ、ちょっと待て」
ズボンからスマートフォンを取り出すと、何やら入力している。
そして、手招きされた。
「なに…、え! 嘘だろ!?」
近づいて、こちらに向けられている画面に思わず叫んだ。
『別れる』
と一言。
連絡用のアプリの、送信先は明らかに女子の名前だった。
即座に既読がついたかと思うと電話の画面に切り替わる。
着信音が、俺たち以外は誰もいない部屋に響き渡った。
「で、出なくていいんですか」
「もう関係ない女からだ」
あんまりな出来事に敬語になってしまう。
しかし、返ってきた心底興味なさそうな声。俺は無遠慮にスマートフォンごと手を掴んでぐいぐいと押しつけた。
「正気か!? え!? なんで!? 落ち着け! 彼女だろ!? 今ならまだ間に合う!!」
「お前が落ち着けよ……」
空は溜息を吐きながら人差し指を左耳に突っ込んで、右手でスマートフォンの画面を弄る。
部屋は静寂を取り戻した。
恋人からの電話に出もせずに切りやがった。
そのまま立ち上がって、俺を見下ろしてくる。
背が高い。
俺は成長期がこれからだからまだ165㎝なんだけど、多分こいつは15㎝くらい高い。ヘディングしやすそう。
「よろしく」
右手を掴んだ状態のまま現実逃避していると、そのまま引き寄せられた。慣れた仕草で、長い指が顎を持ち上げる。
何かを考える間もなく、空の顔が近づいて。
放心した俺を置いて保健室を出て行ってしまった。
(俺のファーストキス……!)
思い出したら泣きたくなってきた。
電車の中で。
空が何を考えているかはさっぱりだが、俺の自業自得なのは間違いない。
悪ふざけのせいで急に恋人にそっけなくフラれた女子がいるのも間違いない。
いやそこは何かの間違いであってくれ可哀想だ。
とにかく、付き合うことになってしまったからにはちゃんと別れないと。
もう一回、イタズラだったことを説明し直そう。
他の皆には何があったかは言えなかったし、皆も詳しく言わなかった。
とにかく、明日にはそれぞれ謝ろうということで話は終わった。
タイミングよく電車が俺の家の最寄り駅をアナウンスする。
スマートフォンを慌ててカバンに突っ込むと、人の流れに乗ってドアへ向かった。
よし! 明日の昼休みに捕まえるぞ! ちゃんと話そう!
隣のクラスの、いわゆる不良。
短い金髪で耳にはピアス、シャツのボタンはいつも開いてて中から派手な色のTシャツが見えている。
金髪が違和感ないくらい似合ってて、冷たい目と高い鼻、小さい顔に長い足の長身イケメン。
同じくらいの短髪なのに、なんの変哲もない黒髪で、低身長童顔の俺とはえらい違いだ。
毎日喧嘩してるとか、恋人が日替わりだとか、他校に舎弟が百人いるとか中学の時に周辺の不良を全員シメたとか。
どう考えても不良漫画読み過ぎな奴らが流した噂を一身に受けてるやつだった。
ファッションであの格好してんじゃないかなと俺は思っている。
校則違反だから不良は不良だけど。
そういうわけで、俺は放課後に隣のクラスに行った。
教室に残ってたやつに空の居場所を聞くのに「罰ゲームだ」とだけ伝えると「勇者かよ」と笑われた。
俺が言うのもなんだけど、空の扱いが酷い。
不良なんてほとんど居ない治安の良い学校だから完全に魔物扱いだな。
そして、最後の授業の前に保健室に寝に行ったとの情報を入手する。
先生が外出中の保健室で、カーテンの閉まっているベッドがひとつあった。
体調が悪いわけではなく、ただのサボりだとは思うけど起こすのは可哀想だ。
(寝てるなら、仕方ないから明日にして部活に行くかなー)
ちょっと緊張してきてしまったのもあって、自分に言い訳して帰りたくなる。
大丈夫だろうけど、もし噂通りの鬼みたいな奴だったらどうしよう?
今更ビビって立ち往生してしまう。
だが、そんなことは言っていられなくなった。
ジャッとカーテンが開く音がしたのだ。
俺は思わず姿勢を正した。
「……」
「あ、えーと、空……?」
「……なんだお前」
ベッドに腰掛けたままの、まだ眠そうな、気怠げな目がこちらを見た。
トーンは低いけれど、どこか涼やかな耳心地のいい声だ。
会話なんてしたこどがない俺がわざわざ声を掛けたから、物凄い怪訝な表情をしている。
悩んでいてもしょうがない。
なんせ、俺が言い出したんだし!
男らしくいけ!
というわけで、俺はそのまま思いっきり告白したわけだ。
そして、OKされた。
なんでだよ。
え?
なんでだよ。
ちゃんと嘘だって伝えたのに。
俺はびっくりしすぎて笑えてきた。
「ね、寝ぼけてらっしゃる?」
「いや……ああ、ちょっと待て」
ズボンからスマートフォンを取り出すと、何やら入力している。
そして、手招きされた。
「なに…、え! 嘘だろ!?」
近づいて、こちらに向けられている画面に思わず叫んだ。
『別れる』
と一言。
連絡用のアプリの、送信先は明らかに女子の名前だった。
即座に既読がついたかと思うと電話の画面に切り替わる。
着信音が、俺たち以外は誰もいない部屋に響き渡った。
「で、出なくていいんですか」
「もう関係ない女からだ」
あんまりな出来事に敬語になってしまう。
しかし、返ってきた心底興味なさそうな声。俺は無遠慮にスマートフォンごと手を掴んでぐいぐいと押しつけた。
「正気か!? え!? なんで!? 落ち着け! 彼女だろ!? 今ならまだ間に合う!!」
「お前が落ち着けよ……」
空は溜息を吐きながら人差し指を左耳に突っ込んで、右手でスマートフォンの画面を弄る。
部屋は静寂を取り戻した。
恋人からの電話に出もせずに切りやがった。
そのまま立ち上がって、俺を見下ろしてくる。
背が高い。
俺は成長期がこれからだからまだ165㎝なんだけど、多分こいつは15㎝くらい高い。ヘディングしやすそう。
「よろしく」
右手を掴んだ状態のまま現実逃避していると、そのまま引き寄せられた。慣れた仕草で、長い指が顎を持ち上げる。
何かを考える間もなく、空の顔が近づいて。
放心した俺を置いて保健室を出て行ってしまった。
(俺のファーストキス……!)
思い出したら泣きたくなってきた。
電車の中で。
空が何を考えているかはさっぱりだが、俺の自業自得なのは間違いない。
悪ふざけのせいで急に恋人にそっけなくフラれた女子がいるのも間違いない。
いやそこは何かの間違いであってくれ可哀想だ。
とにかく、付き合うことになってしまったからにはちゃんと別れないと。
もう一回、イタズラだったことを説明し直そう。
他の皆には何があったかは言えなかったし、皆も詳しく言わなかった。
とにかく、明日にはそれぞれ謝ろうということで話は終わった。
タイミングよく電車が俺の家の最寄り駅をアナウンスする。
スマートフォンを慌ててカバンに突っ込むと、人の流れに乗ってドアへ向かった。
よし! 明日の昼休みに捕まえるぞ! ちゃんと話そう!
15
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
その空を映して
hamapito
BL
――お迎えにあがりました。マイプリンセス。
柔らかな夏前の風に乗って落とされた声。目の前で跪いているのは、俺の手をとっているのは……あの『陸上界のプリンス』――朝見凛だった。
過去のある出来事により走高跳を辞めてしまった遼平。高校でも陸上部に入ったものの、今までのような「上を目指す」空気は感じられない。これでよかったのだと自分を納得させていた遼平だったが、五年前に姿を消したはずの『陸上界のプリンス』朝見凛が現れて――?
※表紙絵ははじめさま(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/830680097)よりいただいております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる