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桜田と空の場合

二話

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 部活が終わって、もう暗い時間。
 人と人との肩が触れ合う電車内。

 俺、  桜田恵冬さくらだけいとは運転席が見える壁にもたれながらスマートフォンに親指を滑らせる。
 サッカー部に所属している俺は、体が疲れ切っている上に頭は大混乱中。
 言いたいことが色々ありすぎたけど、なんとか簡潔な文章を作った。
 
『告白、OKされたどうしよう』
 
 頭を抱えるスタンプと共に送信した。
 すぐに既読が付き、次々と返信がくる。
 
『え、俺も』
『俺もなんだけど! 助けてくれ!』
『全員!? そんなことあるか!?』
 
 公共の場で叫び声を上げそうになって口を押さえる。
 そんなことがあってたまるか。
 信じられなくて何度も読み返した。
 
 
 ことの発端は、昼休み。
 
「そういえばお前たちくらいのころ、告白ゲームとかしてたな」

 屋上で仲の良い3人と昼飯を食っている時だった。
 高校最後の年だし、なんか変わったことしたいなぁとぼやいていたんだ。その時、見回りに来た隣のクラスの担任が軽い調子で言ったのだ。

 先生は冗談のつもりだったかもしれないが、それは男子高校生の、主に俺の好奇心を駆り立てた。

「告白ゲーム」とは。
 何かの罰ゲームとして同性に告白する、というものだった。
 そのまんっまだよな。
 中学の時にやってたやつもいた気がする。
 ただし、誰でも良いわけじゃない。
 あまり親しくない相手に、という縛りがあった。
 親しくないって言ったって、同じ学年のヤツを対象にしたらだいたい顔は知ってるんだからそんなに怖いことでもない。
 
 だから先生がいなくなった後、みんなに言った。
「やろうぜ! 次の英語の単語テストでビリだったやつがそらに告白な!」

 そう、俺が言い出したのだ。
 
 杏山あんずは乗り気だったし、光安つばさはみんながやるならやるかって感じで。梅木ウメだけ止めたけど、最終的には好奇心には勝てなかったみたいだった。
 
 そして、俺が負けた。
 
 今考えてみると、英語はそんなに得意ではないし特に勉強もしてこなかったのに、なんでこれを勝負の題材にしてしまったのかは自分でも謎だ。
 負けたものは仕方がないから、空に告白はするけれど。

 悔しすぎたから俺はみっともなくごねた。
 本当はそんなに嫌なわけでもなかったんだけども。その場のノリというか。「俺だけはやだー!」ってついつい大袈裟に言っちゃったんだよな。
 そしたら3人とも優しいもんだから、じゃあもう一勝負くらいするか? となって。

 それはそれでおもしろいだろ?
 
 次の授業は体育でマラソンをする日だった。帰宅部の3人とは違ってサッカー部に所属し、日々走り回っている俺は絶対負けない自信があった。
 光安つばさも運動神経がすごく良いし、杏山あんずはいつも真ん中くらい。勉強はできるけど運動が苦手な梅木ウメが負けるのは分かっていたことだったけど、それで勝負するという、我ながらフェアじゃないことをした。

 その後は漢字テストがあって、光安つばさが全問不正解だったのが面白すぎて、告白ゲームに巻き込んで。
 ここまで来たら4人ともやろうって杏山あんずに言ったら「しょーがねーなー!」って楽しそうな返事をされた。
 
 告白相手は空を含め、女子の人気を四分割してるイケメンたち。
 あんだけ選り取り見取りなら、男に罰ゲーム告白されたところで痛くも痒くもないだろう。
 
 俺たちは、全員が放課後に告白して、帰ってから結果報告しよう! と、別れたのだ。
 
 全員が告白成功するなんてこと、誰が想像するんだよ。
 
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