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光安と桃野の場合
十七話
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「桃野って、男が好きらしいぞ」
昼休み、桃野を誘ってちゃんと伝えようと意気込んでいたのだが。
梅木が久しぶりに4人でご飯を食べようと声をかけてきた。
そして屋上に俺たちしかいないことを確認して、開口一番にそう言ったのだ。
俺は全身の血の気が引いた。
「え? そうなのか?」
「なんか、噂になってる」
早速弁当を広げようとしていた桜田が目を丸くして固まると、まだ食べる準備もしていない梅木が神妙な顔で頷いた。
俺はみんなとは違う意味で息を飲んだ。
どうしてそんなことが噂になっているのか。
せっかく、桃野は転校までしてきたというのに。
パンを袋に戻した杏山は顔を引き攣らせて俺の方を見た。
「光安、知ってたか?」
「……いや? ……桃野が女子をフリまくってるから誰かが腹いせに噂を撒いたんじゃないか?」
俺はなんでもないように笑って肩を竦めた。そんな噂、これ以上広めないようにしないと。
「それなら水坂や土居なんかとっくにそんな噂が乱立してるだろ」
梅木が冷静に「多分、何か根拠があるんだよ」と手をパタパタと左右に振った。
確かに、顔が良くてモテる人間は桃野1人だけではない。
杏山が告白した野球部主将の土居と、梅木が告白させられた生徒会長の水坂は1年生の時から女子に大人気だった。
肩書きがもうモテそうだし。
2人とも誰とも付き合っていないことで有名だが、ゲイの噂は聞いたことがない。
桃野が前に通っていた学校に知り合いがいるやつでもいたんだろうか。最悪だ。
「……真偽はともかく、まじめに謝ろう光安! 今すぐ! 俺も行くから!」
「俺も! 言い出したの俺だし! ていうか全部俺がやらかしたようなもんだし……!」
「止めなかったから俺らは共犯だよ。全員で行くぞ」
杏山、桜田、梅木が口々に言いながら立ち上がる。完全に出遅れた俺は皆を見上げながら、気がついた。
謝らないといけない相手は桃野だけではないはずだ。
「……謝るのってお前らもなんじゃ……」
そう言った瞬間、何故か3人とも口を閉じ、気まずそうに目を逸らした。
なんだその反応は。
どうかしたんだろうか。
いやそんなことよりも。みんなで謝るのはまた今度にしてもらわないと。
このままだと桃野にちゃんと告白する機会が失われてしまう。
俺は出来るだけ真面目な声で言う。
「……あのさ、俺、1人でちゃんと謝るよ。そのつもりで来たし、今から行ってくる」
「いや、謝りたいから俺たちも……」
どうしても気になってしまうのか、杏山が食い下がろうとした時、
「あれ? 桃野くんどうしたのー?」
屋上の入り口の方から女子の弾む声が聞こえた。
「え……!」
俺たちは一斉にそちらを見る。
よく見ると、扉はほんの少しだけ開いていた。
気がつかなかった。
女子が声をかけたせいか、ゆっくり動く扉から、真っ青な顔をして佇む桃野が見えた。
「……あ……すまない、動けなくて……聞くつもりは……」
視線を泳がせながら小さく呟いた桃野はそのまま言葉を切ると、後ずさる。
一体どこから聞いていたんだろう。
俺がきちんと話さないと、と思って立ち上がる。すると持っていた弁当を落として背中を向け、走り出してしまった。
「桃野!!」
俺は声を上げ、思い切り床を蹴って、驚いている女子の横を駆け抜ける。
階段を駆け降りる音が二重になって耳に響く。
廊下に出ても、桃野は生徒たちの合間を縫いながら恐ろしい速さで走る。
俺は周りに謝りながら追いかけた。
昼休み、桃野を誘ってちゃんと伝えようと意気込んでいたのだが。
梅木が久しぶりに4人でご飯を食べようと声をかけてきた。
そして屋上に俺たちしかいないことを確認して、開口一番にそう言ったのだ。
俺は全身の血の気が引いた。
「え? そうなのか?」
「なんか、噂になってる」
早速弁当を広げようとしていた桜田が目を丸くして固まると、まだ食べる準備もしていない梅木が神妙な顔で頷いた。
俺はみんなとは違う意味で息を飲んだ。
どうしてそんなことが噂になっているのか。
せっかく、桃野は転校までしてきたというのに。
パンを袋に戻した杏山は顔を引き攣らせて俺の方を見た。
「光安、知ってたか?」
「……いや? ……桃野が女子をフリまくってるから誰かが腹いせに噂を撒いたんじゃないか?」
俺はなんでもないように笑って肩を竦めた。そんな噂、これ以上広めないようにしないと。
「それなら水坂や土居なんかとっくにそんな噂が乱立してるだろ」
梅木が冷静に「多分、何か根拠があるんだよ」と手をパタパタと左右に振った。
確かに、顔が良くてモテる人間は桃野1人だけではない。
杏山が告白した野球部主将の土居と、梅木が告白させられた生徒会長の水坂は1年生の時から女子に大人気だった。
肩書きがもうモテそうだし。
2人とも誰とも付き合っていないことで有名だが、ゲイの噂は聞いたことがない。
桃野が前に通っていた学校に知り合いがいるやつでもいたんだろうか。最悪だ。
「……真偽はともかく、まじめに謝ろう光安! 今すぐ! 俺も行くから!」
「俺も! 言い出したの俺だし! ていうか全部俺がやらかしたようなもんだし……!」
「止めなかったから俺らは共犯だよ。全員で行くぞ」
杏山、桜田、梅木が口々に言いながら立ち上がる。完全に出遅れた俺は皆を見上げながら、気がついた。
謝らないといけない相手は桃野だけではないはずだ。
「……謝るのってお前らもなんじゃ……」
そう言った瞬間、何故か3人とも口を閉じ、気まずそうに目を逸らした。
なんだその反応は。
どうかしたんだろうか。
いやそんなことよりも。みんなで謝るのはまた今度にしてもらわないと。
このままだと桃野にちゃんと告白する機会が失われてしまう。
俺は出来るだけ真面目な声で言う。
「……あのさ、俺、1人でちゃんと謝るよ。そのつもりで来たし、今から行ってくる」
「いや、謝りたいから俺たちも……」
どうしても気になってしまうのか、杏山が食い下がろうとした時、
「あれ? 桃野くんどうしたのー?」
屋上の入り口の方から女子の弾む声が聞こえた。
「え……!」
俺たちは一斉にそちらを見る。
よく見ると、扉はほんの少しだけ開いていた。
気がつかなかった。
女子が声をかけたせいか、ゆっくり動く扉から、真っ青な顔をして佇む桃野が見えた。
「……あ……すまない、動けなくて……聞くつもりは……」
視線を泳がせながら小さく呟いた桃野はそのまま言葉を切ると、後ずさる。
一体どこから聞いていたんだろう。
俺がきちんと話さないと、と思って立ち上がる。すると持っていた弁当を落として背中を向け、走り出してしまった。
「桃野!!」
俺は声を上げ、思い切り床を蹴って、驚いている女子の横を駆け抜ける。
階段を駆け降りる音が二重になって耳に響く。
廊下に出ても、桃野は生徒たちの合間を縫いながら恐ろしい速さで走る。
俺は周りに謝りながら追いかけた。
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