上 下
74 / 83
三章

73話 ベッドの上⭐︎

しおりを挟む
「は、ぅ……ぁっ」

 荒い呼吸音の合間に混ざる高い声。
 それが自分のものだと認めるのに時間がかかった。
 でも、自分以外あり得ない。
 この部屋にはティーグレとピングしかいない。

「ぁあっ! ……も、そこだめ……!」

 執拗に耳をねぶっているティーグレは声を出せないのだから、ピングの声に違いないのだ。

 体を這い上がる快感をやり過ごそうと動く足がシーツを乱す。

 2人分の衣服は全てカーペットに落ちていて、体温を直接触れ合わせて。
 ティーグレの舌に翻弄されて腰をくねらせ、ベッドを軋ませているなんて。
 絶対に誰にも知られてはならない姿だ。

「寮は意外と声響くで」

 と、ローボから渡された小さく赤い立方体を思い出す。防音魔法具がうまく稼働していることを祈るしかない。

「そこばっか……っやめてくれ、てぃーぐれぇ」

 力の入らない指で筋肉質な肩を引っ掻く。
 耳から水音が止まらない。唾液でドロドロになるほど執拗に愛撫を受けてずっと限界だ。

 逃げようとしても、白く細いピングの力では覆い被さるティーグレに叶わない。反対の耳もくすぐられて、ひたすら身悶えるしかなかった。

「気持ちよさそうだけどな」

 ティーグレは腰をグッと押し付けてくる。猛ったものがピングの兆した熱に触れて、小さな足が跳ねた。

「ゃ、だぁ……ぁ、ぅ……っ」

 驚いた。
 このままだと、ほとんど耳しか触れられてないのに達してしまいそうだ。それほど気持ちが良かった。
 でも実際には耳だけで達することなどできない。限界を迎えられそうで迎えられない、ギリギリのところを彷徨っていた。

 自分の弱点は前に聞いたことがあったし、実感したこともあった。でも、これほどまでとは思っていなかった。

「てぃ、ぐれぇ……おねが、一回、いきたい……!」

 ピングはあえかな声を出し続け、何度目になるか分からない懇願をする。
 恥ずかしいのに、少しでも直接的な快感を得たくて腰を擦り付けてしまう。

「出し過ぎるとしんどいから良い子に我慢、な」

 艶っぽい声が吐息たっぷりに耳元で話してきて、心がドロドロにとろけそうだ。でも、ティーグレはずっと優しくそう言ってピングを味わっている。
 眩暈がするほど可愛がられて、ピングの空色の瞳から涙が零れ落ちた。

「むり、だって……も、もう……ひ!」

 胸からも刺激を受けて声が高くなる。顔を上げたティーグレは、濡れた頬に舌を這わせて満足そうに唇に弧を描いた。
 紫の双眸の奥は燃えるように熱く、獲物を逃がさないと獰猛に語る。

「かぁわいい声。たまんねぇ」
「ゃっぁあ」

 これは、本当にティーグレなのだろうか。
 なんだかんだといつもピングに合わせてくれる幼なじみとは思えない。
 でも嫌とは感じず、本気で抵抗せずに体を預けてしまう自分もいた。
 それほど、好きな人の体温は心地良かった。

 好き勝手に動く手に翻弄されていると、耳に触れていた手が首筋に降りていく。鎖骨を通り胸の突起を撫でて、脇から腹へと滑っていった。

「ふ、ぅぅ」

 手の動きに合わせてじわじわと背筋を上っていく電流に唇を噛む。
 手のひらで縁を描くように、汗ばんだ腹をゆったりと撫でられる。
 もっと下を触って欲しいと腰をそらしていると、ようやく耳が解放された。

 上半身が空気に触れる。ティーグレが体を起こし、腹に口付け始めたのだ。
 期待した刺激はまだ得られない。
 焦らされすぎて、どこもかしこも快感を拾ってしまう。
 主張しているのに放っておかれる中心がせつなくて、ピングは膝を擦り合わせた。

「もっと、下……」
「下、か」
「わ……っ」

 なんの前触れもなく、足を持ち上げられて左右に割り開かれる。突然ティーグレに全てを曝け出す格好にされて、ピングは両腕で顔を覆った。羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。

 でも、期待もしてしまう。
 ようやくティーグレはピングの言葉に耳を貸してくれたのだと。
 与えられるであろう刺激を待っていると、膝に唇が触れた。

「んっ」

 軽く吸い上げられ、歯を立ててくる。思っていた場所と違うと文句を言いたいのに、じんわりと脳髄が痺れて声が止まらない。

「な、なに……っぁ!」

 ふと閃いて、ピングは目を見開く。
 腹も膝も、ティーグレの弱点はどこかという問題で答えた場所だ。
 何となく皮膚の薄い場所を選んでいたピングだったが、どうやら性感帯としてはあながち間違いではなかったらしい。
 耳ほどではないが、刺激を受けると足の指が丸まってしまう。

 ピングが思い出したことに気がついたようだ。
 ティーグレは顔を上げて唇を舐めた。赤い舌の動きが艶かしくて、ピングは思わず唾を飲み込んでしまう。

「あとは……手の指、だっけ?」
「ゃ……っ、あれは」

 当然、自分が責められると想定していたわけではない。ピングは思わず、グッと手を握りしめて指を護ろうとした。

「隠さないで」

 ティーグレはお構いなしにその手を取り、手のひらを親指でくすぐってくる。指の形を辿り手首を摩り、舌で隙間に入り込もうとし。
 もどかしいけれども確実に追い立てられる。何よりもティーグレの目が、必ず目的をやり遂げるとギラついている。

 初めは耐えていたピングの手は、次第に緩く開いていってしまった。

「んんっ」

 神経が集まり繊細な指先を濡れた舌が舐める。
 ピングの目の前で見せつけるように咥えられ、唾液を絡められて、胸の昂りが止まらない。
 下半身に直接的な刺激がなくともこんなにも感じ入ることができるのだと初めて教えられた。

 愛し方が丁寧すぎて、熱を持て余した体がベッドに溶けていきそうだ。
 でも、与えられっぱなしでいるわけにはいかない。

「……っ」

 ピングは懸命に手を伸ばしてティーグレの内腿に触れる。ティーグレの動きが止まった。分かりやすく眉間に皺がよる。

「……ピング……、っ」

 膝がシーツに落ちてベッドが揺れ、指から口が離れていった。

『触れられるだけで猫ちゃんになる場所』

 そう、本人が言っていたのを思い出す。直接肌に触れているからだろうか。以前触れた時よりも、反応がいい。
 内腿を撫でる手に合わせてベッドについた手が震え、熱を持っていた頬がさらに色味を増した。

「ティーグレにも、気持ちよくなってもらわないとな……!」
「……く……ぅ」

 歯の隙間から荒い息を吐くのが聞こえる。
 ピングは芸術的な筋肉筋に沿って腿を撫で上げ、足の付け根を揉む。

 ティーグレの腰が痙攣するのが伝わってきて気分がいい。見下ろしてくる瞳の余裕がどんどんなくなっていくのを見ると、自分には縁がないと思っていた支配欲が顔をちらつかせた。

「ピング……っ、一回止まっ……!」
「こんなに、気持ちよさそうなのに、か?」

 好きな人の感じている顔とは、なぜこんなに胸が昂るのだろう。
 両方の腿を愛撫し始めると、腕の力が抜けたティーグレの体が胸に落ちてきた。

 ピングは興奮した目尻を下げる。
 しかし。

「ひゃああっ」

 次に矯声を響かせたのはピングだった。
 倒れ込んできたティーグレが、耳に噛みついてきたのだ。強い刺激を急に受け、ピングは内腿から手を離してしまう。

 湿った呼吸が耳に入り込んできて、再び熱が体内で暴れ出す。

「ぁっ……ぁっ……」
「ちゃんと、触っててくれよ? 気持ちよくしてくれるんだろ?」
「やっぱ、だめ……も、私……っ」

 何かが腹から上がってくる。
 体がこわばってうまく動けない。ティーグレは耳を甘噛みしながら胸の飾りを引っ張った。

「何が、だめ? こんなに気持ちよさそうなのに」
「はな、して……ごめ、ごめんなさ……ぁ、んんっ!」

 頭の中で快感が弾けた。ピングの足の指がピンと伸び、全身が痙攣する。

「……ぁ……?」

 脳がジンと痺れて、何か起こったのか分からない。
 高揚感と満足感で呆けていると、唾液の溢れるピングの唇にティーグレが口付けてきた。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...