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二章

どうしてこうなった

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(ど、どうしてこうなった……!)

 藤ヶ谷は眼前に広がる桃色の空間とは対照的に顔を真っ青にする。

 ピンクのソファ、絨毯、ベッド。壁にはたくさんの造花が飾られている。
 大人の男性が2人は余裕で寝られそうなベッドがある反対側には、浴室に繋がる扉がある。

 ハートとピンクのツリーの周りに親子連れがいなかったはずだ。
 あそこは恋人たちが集まるホテル街の入り口。
 藤ヶ谷が雨宿りのために杉野を連れ込んだ場所は、ラブホテルであった。

(は、初めて入った……!)

 場所そのものの空気に呑まれ、藤ヶ谷はソワソワと部屋を見渡した。
 目の前で濡れたダウンコートとズボンを脱ぎながら、杉野が藤ヶ谷へと視線をやる。

「藤ヶ谷さんも早く脱いでください」
「あ。うん」
「脱ぎにくかったら手伝いますよ」
「大丈夫だよ!」

 水の滴る髪を掻き上げながら言ってくる姿は妙に色気があり、手袋を握って反論しつつも目を逸らす。

 厚手のコートに守られてセーターは無事だった。
 ピッタリとしたジーンズは張り付いて脱ぎにくかったが、ソファに座ってなんとか足から引き抜く。
 藤ヶ谷がジーンズに苦戦している間に、棚を漁っていた杉野がタオルを見つけてくれた。
 それをふわりと頭にかけられる。

 礼を言おうと視線を上げると、深緑の襟付きシャツから黒いボクサーパンツが覗いていた。
 下着の盛り上がりと、筋肉質な長い足に目が釘付けになってしまう。

(い、色々……色々逞しいっていうか……)

 藤ヶ谷は無理矢理俯く。
 自分の白い足を見下ろし、ギリギリ下着を隠してくれているセーターを懸命に引っ張った。

 アルファらしい体格の杉野を目の前にすると、同じ男性でも異性なのだと再認識してしまう。
 急に恥ずかしくなって顔を上げられなくなる。すると、タオルの上から杉野の大きな手が頭に乗った。

「浴室乾燥機とかあれば良いんですけど」

 丁寧に髪を拭ってくれた後、その少し湿ったバスタオルを膝に掛けられた。

「あ……ありがとな」
「いえ。もう1回浴室を見てくるんで、冷えないように布団に入っててください」

 藤ヶ谷が杉野を意識して動けなくなっていることに気がついたのだろう。
 バレているのもまた羞恥心を煽った。
 それでも何とか感謝の言葉だけは絞り出した藤ヶ谷を、杉野はいつも通りの平然とした態度で受け止めた。

 杉野が浴室に姿を消すと、藤ヶ谷は慌ててベッドに飛び乗る。ベッドのバネが強く、子どもが遊ぶときのように軽く跳ねた。
 まだひんやりとする羽毛布団に足を滑り込ませたところで、ドライヤーを片手に杉野が浴室から出てくる。

(杉野も隠してくんねぇかなぁ……っ)

 下着をつけているとはいえ、見慣れないアルファの下半身は刺激が強い。
 以前ヒート中に抱きしめられていた時に押し当てられた熱いものは、アソコなのだと意識してしまう。

 だが杉野は、なんとも思っていないかのように堂々としていた。
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