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三章
ガッカリ
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諏訪は慌てて口を動かす。
「い、いやそういうわけじゃなくて」
「キスのコマンド使ったんすか」
「や、俺じゃなくてな? 友だちがな!?」
取ってつけたような嘘の情報を慌てて口走ると、機械の向こうから唐渡の怪訝そうな相槌が聞こえてくる。
「はぁ。じゃあそういうことにしますけど……Play中のキスが嫌だったって話っすか」
「嫌ってわけじゃ……コマンドつかわれたわけでもなくて。その、サブスペース入っててわけわかんなくて……いや、わけわかんなかったらしくて」
状況を思い出しながら必死に言い募っていると、唐渡が息を飲む。
「サブスペース……すげぇ……」
「え?」
心の底から感嘆するような声色を聞いて、諏訪は首を傾げた。サブスペースは教科書にも載っているような用語なのに、珍しいのだろうか。
だがその疑問は解決することなく、唐渡は話を流してしまった。
「なんでもねぇっす。で、副部長が聞きたいのは恋人でもパートナーでもない相手に、Play中キスはするかってことですよね」
「そうそうそう! そういうこと!」
「します! プレイ中のキスくらい普通!」
食いつくように首を縦に振っていると、唐渡も勢いよく答えてきた。聞いた途端に、上がっていた諏訪のテンションが急降下する。
「そ、そっか……普通か……」
「全然全く本当にたいした意味はないってお友達に伝えてください。なんか盛り上がってそういうことになるもんっす」
「ん……分かった……」
早口で唐渡が喋る内容が、全てドスドスと胸に突き刺さってきた。自分で予想したことを聞いておいて、当たっているとなると気持ちが落ち込む。
(……俺、特別だったらいいなって思ってたんだな……)
諏訪は自分の気持ちにようやく納得する。甘井呂にとって、特別なSubで居たかった。
諏訪のためにDefenseしてくれたことのある甘井呂が、「自分のSub」だと思ってくれているのではないかと期待していた。
(キス、初めてだったのに……普通かぁ)
何人ものSubを相手にしたことがあるらしい唐渡が「普通」だというなら普通なのだろう。
「サブスペースなんて、入ってくれたらそりゃ幸せだろうしキスとかしたくなるに決まってる……」
「お前もしたことあんのか?」
声のトーンが暗く落ちた唐渡にふと違和感を覚えて問いかけると、突然声のボリュームが上がった。
「も、もちろんそんくらい中一で済ませてます!!」
「早くね!? 俺、中一なんてどうやったら先輩追い越してレギュラー取れるかしか考えてなかったぞ!?」
「レギュラー取れないなんて考えたことなかったっす」
「強気すぎだろ唐渡少年」
自信に満ち溢れた発言が唐渡らしくて笑ってしまう。
話題がサッカーに移ったからだろう。
甘井呂のキスが特別じゃないことを、少しだけ頭の隅に追いやることができた。
唐渡も、生き生きとした笑声で言葉を続ける。
胸を張ったドヤ顔が目に浮かぶようだ。
「当たり前っすよ。本当はPlayのこととか考えずにサッカーだけしてたいくらいっす」
「あー、分かる」
Playは嫌じゃない。甘井呂とのPlayは好きだといいきれるくらいだ。
でも「しなければ体調を崩す」というのは、少し面倒だと感じるのも正直なところだった。
「わ、分かるんだ……ま、いっか。赤点、取らないでくださいね」
諏訪の返事は唐渡にとっては予想外だったらしく、言葉尻に戸惑いが滲む。でもすぐに持ち直して声が明るくなったので、諏訪は気にせず笑った。
「こっちの台詞だよ。頼むぜお前が居なきゃ勝てねぇから」
「うっす」
力強い返事を聞いて一緒に頷いた諏訪は、ひとまずキスのことは考えないと決める。
それでも勉強机に座りながら、スマートフォンについたバスケットボールを指先で弄るのはやめられなかった。
「い、いやそういうわけじゃなくて」
「キスのコマンド使ったんすか」
「や、俺じゃなくてな? 友だちがな!?」
取ってつけたような嘘の情報を慌てて口走ると、機械の向こうから唐渡の怪訝そうな相槌が聞こえてくる。
「はぁ。じゃあそういうことにしますけど……Play中のキスが嫌だったって話っすか」
「嫌ってわけじゃ……コマンドつかわれたわけでもなくて。その、サブスペース入っててわけわかんなくて……いや、わけわかんなかったらしくて」
状況を思い出しながら必死に言い募っていると、唐渡が息を飲む。
「サブスペース……すげぇ……」
「え?」
心の底から感嘆するような声色を聞いて、諏訪は首を傾げた。サブスペースは教科書にも載っているような用語なのに、珍しいのだろうか。
だがその疑問は解決することなく、唐渡は話を流してしまった。
「なんでもねぇっす。で、副部長が聞きたいのは恋人でもパートナーでもない相手に、Play中キスはするかってことですよね」
「そうそうそう! そういうこと!」
「します! プレイ中のキスくらい普通!」
食いつくように首を縦に振っていると、唐渡も勢いよく答えてきた。聞いた途端に、上がっていた諏訪のテンションが急降下する。
「そ、そっか……普通か……」
「全然全く本当にたいした意味はないってお友達に伝えてください。なんか盛り上がってそういうことになるもんっす」
「ん……分かった……」
早口で唐渡が喋る内容が、全てドスドスと胸に突き刺さってきた。自分で予想したことを聞いておいて、当たっているとなると気持ちが落ち込む。
(……俺、特別だったらいいなって思ってたんだな……)
諏訪は自分の気持ちにようやく納得する。甘井呂にとって、特別なSubで居たかった。
諏訪のためにDefenseしてくれたことのある甘井呂が、「自分のSub」だと思ってくれているのではないかと期待していた。
(キス、初めてだったのに……普通かぁ)
何人ものSubを相手にしたことがあるらしい唐渡が「普通」だというなら普通なのだろう。
「サブスペースなんて、入ってくれたらそりゃ幸せだろうしキスとかしたくなるに決まってる……」
「お前もしたことあんのか?」
声のトーンが暗く落ちた唐渡にふと違和感を覚えて問いかけると、突然声のボリュームが上がった。
「も、もちろんそんくらい中一で済ませてます!!」
「早くね!? 俺、中一なんてどうやったら先輩追い越してレギュラー取れるかしか考えてなかったぞ!?」
「レギュラー取れないなんて考えたことなかったっす」
「強気すぎだろ唐渡少年」
自信に満ち溢れた発言が唐渡らしくて笑ってしまう。
話題がサッカーに移ったからだろう。
甘井呂のキスが特別じゃないことを、少しだけ頭の隅に追いやることができた。
唐渡も、生き生きとした笑声で言葉を続ける。
胸を張ったドヤ顔が目に浮かぶようだ。
「当たり前っすよ。本当はPlayのこととか考えずにサッカーだけしてたいくらいっす」
「あー、分かる」
Playは嫌じゃない。甘井呂とのPlayは好きだといいきれるくらいだ。
でも「しなければ体調を崩す」というのは、少し面倒だと感じるのも正直なところだった。
「わ、分かるんだ……ま、いっか。赤点、取らないでくださいね」
諏訪の返事は唐渡にとっては予想外だったらしく、言葉尻に戸惑いが滲む。でもすぐに持ち直して声が明るくなったので、諏訪は気にせず笑った。
「こっちの台詞だよ。頼むぜお前が居なきゃ勝てねぇから」
「うっす」
力強い返事を聞いて一緒に頷いた諏訪は、ひとまずキスのことは考えないと決める。
それでも勉強机に座りながら、スマートフォンについたバスケットボールを指先で弄るのはやめられなかった。
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