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二章

親友

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「ちゃんと薬とか貰えて良かったな」
「おー……でも今日はもうすでに疲れてる……」
「雨で昼練休みなんだ。ゆっくりしろよ」
 
 ぐったりと机に突っ伏す諏訪の肩を、正面に座った林は大きなおにぎりに齧り付きながらポンと叩く。
 林の言う通り、窓の外はガラスを叩きつけるほどの大雨だ。放課後の部活も、筋トレや階段登り降りになりそうである。

 今日は甘井呂との約束通り、諏訪は病院へ行ってきた。
 予想通り「Subである」と診断を受けて、午前の授業が終わるとほぼ同時に登校してきたところだった。

「親御さん、なんて?」
「分からんこと多すぎだから勉強するって張り切ってた」

 初めは半信半疑だった両親は、医師から渡された診断書を見て戸惑っていた。
 でも、「だからこそ真剣に学ぼう」と、齧り付くように渡された冊子を読んでくれる様子を見て、諏訪はほっとしたと林に話す。
 林は何度も頷いた。

「改めて言われると知らんことばっかだよな。抑制剤の飲み方とかPlayの回数とか」
「そうそう。病院の先生も、抑制剤は合う合わないがあるとか、やっぱりPlayが一番いいとか言ってた」
「ならお前は、甘井呂が居るから大丈夫だな」
「なんで知ってるんだよ」
「なんで気づかないと思うんだ」

 急に出てきた名前に諏訪が動揺すると、林はさも当然のように肩をすくめた。
 甘井呂とのことは言ってなかったはずだが、付き合いが長いせいかバレバレだったようだ。

 赤くなった頬を隠すために頬杖をついた諏訪は、逃げるように話題を変えた。

「佐藤たちはしばらく自宅謹慎……三年なのにやっちまったよな」

 今日、登校した時に担任の先生が伝えてくれた。
 色んな生徒に話を聞いた結果、佐藤とPlayを強要しようとしたDomの生徒の二人が謹慎。
 他の野次馬たちやその場で見て見ぬ振りをしていた生徒たちはお咎めなし。

 結果に全く納得していないと豪語する林は、憮然とした表情で腕を組んだ。

「退学にならなかっただけマシだ。お前が『未遂だから』って先生に言ったんだろう?」
「保健室で寝てる奴らに怒鳴り込みに行ったアホを見てたら冷静になったんだよ。お前まで謹慎になる気か」

 ジトっと林を見ると、ふいっと目を逸らされた。
 バツ悪そうに雨模様を睨む林の横顔を眺めながら、諏訪は昨日の午後のことを思い出す。

 甘井呂に教室ではなく保健室で休めと引っ張られ、丁度そこで血相を変えた林と鉢合わせた。

「諏訪! 大丈夫なのか!? 大丈夫じゃないだろう? おい! 佐藤いるのかっ!!」

 頭に血が上っているのが目に見えて分かる林が一方的に言葉を捲し立てたかと思うと、諏訪が何も返事をしない内に保健室のドアをぶち開けたのだ。
 まるで道場破りでもするかのような剣幕だった。

 甘井呂のおかげで落ち着いていた諏訪だったが、その怒鳴り声を聞いて更に冷静になった。
 自分が怒る必要性がなくなった気さえした。
 隣で手を繋いでくれていた甘井呂も真顔になるレベルだ。

「まぁなんか、佐藤も色々溜まってたんだろうなって」

 諏訪は水筒に口をつけながら、一晩中考えていたことを呟く。
 佐藤は諏訪に「Subなのが嫌なんだろう」と詰め寄ったが、あれは佐藤自身が思っていることだろう。

 小柄で舐められやすい佐藤は、妙な相手に絡まれることも多かった。その鬱憤の矛先が諏訪に向かった理由は謎だったが、ストレスが掛かっていたのは明白だ。
 林もそれは理解しているようで、二つ目のおにぎりを手にしながら頷いた。

「本人と直接話したいな」
「うん。というわけで、今から電話してくる」

 諏訪はスマートフォンをポケットから取り出して振ってみせた。林は大口を開けたのを一旦閉じて、「良いのか?」と、眉を顰める。

「先生、やめとけって言ってなかったか?」
「しーらない」
「待て。俺も一緒に聞きたい」

 悪戯っぽく笑って立とうとした諏訪の腕を、林が慌てて掴んできた。
 心配してくれているのは分かるが、どう考えても電話に向かって怒り出しそうだ。
 出来れば静かに、穏便に話したい。

 慌てておにぎりを処理しようとしている林の肩を、諏訪はポンポンと叩く。

「ちゃんと報告するからさ、二人にしてくれ」

 やんわりお断りすることにした。
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