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二章

腹痛い

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 Subだと噂が立つようになってから、諏訪を取り巻く環境が一変した。
 直接「第二性は?」と聞いてくる生徒はほとんどいなかったが、やたらとDomの生徒が話しかけてくるようになったのだ。

(Playしてほしいっていうのに、何であんな偉そうなんだよ!)

 DomもSubも、欲求を発散出来なければ体調を崩す。そうならないように諏訪と甘井呂も週一回Playしているのだ。

 でも、特定の相手がいるDomやSubだけではない。大抵は薬を飲めば欲求は緩和するが、出来ればPlayしたいと思うのが普通だ。
 もしも「どうしても」と切羽詰まった同級生に頼まれたら、諏訪もPlayすることを考えただろう。

 でも声を掛けてくるDomは明らかに諏訪を見下していた。

「Playしてやろうか」

 などと上から目線で言われたら、

「間に合っています」

 と、それ以外の返事があるだろうか。

 いつも諏訪のことを気遣い、対等に扱ってくれる甘井呂とは雲泥の差だ。
 数少ない同級生のDomたちがみんなあんな感じならば、Subの佐藤が妙に卑屈になっているのも分かる気がした。
 それに加えて、ただ興味があるだけのNormalまで冷やかしにくることがあるのだから。

 色々と面倒になった諏訪は、昼休みに入るや否や逃げるようにサッカー部室に向かう。
 セカセカと早足で歩きながら、虚しくなる。
 どうしてSubだと知れ渡っただけで嫌な気持ちにならないといけないのか。

(本当に甘井呂が広めたのか……?)

 ずっと考えている。
 もし甘井呂がなかなか病院に行かない諏訪に付き合ってられないと思ったとして、わざわざ第二性を人に広めるなんてことをするだろうか。
 はっきりと「良い加減にしろ」と言うのではないだろうか。

(一回ちゃんと会って話したい)

 一人で考えていても答えが出るわけではない。
 甘井呂とは学年が違うし、諏訪は部活で忙しいので今週は一回も会えていなかった。
 連絡先は交換しているが、何度も文章を作っては送信出来ずに削除している。
 今回のことで連絡する勇気が、なかなか湧かなかった。

 もしも、広めたのが本当に甘井呂だったら。
 諏訪は立ち直れるビジョンが浮かばなかった。

(考えただけで腹痛い……甘井呂に全力で甘えてたから……)

 もし嫌われていたとしたら。
 他のDomとPlayするのも、あまり考えたくない。
 諏訪は靴箱で立ち止まって、ため息を吐く。

(あいつが呼んでくれるから気持ちいいんだもん)
「諏訪」
「おわぅあ!」

 想像していた声が突然耳元で聞こえて、文字通り諏訪は飛び上がった。ズボンの後ろポケットに入れていたスマートフォンが跳ねて、カバーの飾りが落ちるほど大袈裟に。

「毎回すげぇビビるなあんた」

 甘井呂は小さなサッカーボールの見た目をした飾りを拾い上げながら喉の奥で笑う。
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