上 下
39 / 48

海へ④

しおりを挟む

 巨大な魔物はまだこちらには気づいていない。
 狙うなら今だろう。

 カシムは少女に視線を向ける。
 少女は強い眼差しで頷いた。

 それを確認すると、射程範囲に入るべく、気配を殺しつつ近付いていく。
 長年生きているカシムでさえ、水中戦は初めてだった。
 普段と勝手が違う分、戦いにも影響が出るだろう。

 出来るだけ暗殺に近い形でその魔物を仕留めたかった。

 徐々に距離を詰めていく。
 改めて魔物の大きさを感じる。
 遠近感がおかしくなりそうだ。

 巨大な魔物は獲物を探しているのだろうか、しきりに目をギョロギョロと動かしている。

 あまり近付き過ぎても相手に察知される恐れがある。
 もう少し近付きたかったが、攻撃を仕掛ける事にした。


 魔力で長い槍を作り、頭目掛け勢い良く投げつける。

 ザシュッ!

 槍が頭を貫いたが、急所は外れていたらしい。
 激しく目を動かし、こちらを発見する。
 魔物は雄叫びの如く、超音波を発生させ威嚇してきた。

 鼓膜がビリビリ震える。
 咄嗟に耳を押さえるが、緩和されない。

 魚型魔物は巨大な口を開けつつ、突進してきた。
 攻撃がてら捕食するつもりだろうか。

 その泳ぎは速いものの見切れないほどではない。
 念の為、身体強化魔法を付与する。

 再び槍を作り放つ。
 今度は胴体に当たった為か、弾かれてしまった。
 正直、その強度を見誤っていた。
 刃の様に鋭い鱗は傷一つつかない。

 魔物は大きく帯びれを動かす。
 すると激しい水流が渦を巻きつつ、こちらに向かってきた。
 飲み込まれたら平衡感覚を失う恐れがある。

 避けつつ、リリアムの安全も確認する。
 彼女は少し離れたところで魔力を練っていた。

 何か考えがあるのかもしれない。
 そう思い、魔物が彼女に向かわない様囮に徹する。


「防御魔法を張って!」


 魔力を練り終わったのか、リリアムは男に向けて叫ぶ。
 言われた通りに防御魔法を張る。

 彼女から放たれた魔法は、魔物をぐるりと囲み、激しい雷撃を放った。
 ビリビリと感電し、痙攣している。

 好機と思い、複数の槍を比較的柔らかい頭へ突き刺した。

 叫ぶ様に超音波が放たれるが、何度も何度も構わず攻撃を続ける。
 ブチっと鼓膜が破けた音が聞こえた。

 辺りは魔物の血で紫に染まる。
 暴れていたのも、次第に動きが鈍くなってきた。

 それでも突き刺し続ける。
 複数の目は潰れ、水中に浮遊する。



 そして、魔物は力尽き動かなくなった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

お花畑な人達には付き合いきれません!

ハク
恋愛
作者の気まぐれで書いただけ。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...