妻の失踪

琉莉派

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第六章 タカの正体

第四話 第三の男

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 喫茶店を出た鎧塚と徳大寺は、捜査本部へ戻るべく西八王子駅の改札をくぐった。

「どういうことでしょうねえ。今の門倉さんの話を信じるならば、奥平龍平は仕事のできない七尾康之に常務という役職を与え、まるで名誉職のごとく給料を支払いつづけていたことになります」
「そうなるね」
「普通じゃありません。裏に何かあると見るべきでしょう」
「たとえば?」
「たとえば……そうですね。七尾に何か弱みを握られていたとか……あるいは昔からの腐れ縁で、一生離れられない一蓮托生の関係にあるとか……もしくは、その両方かもしれません」

 鎧塚がニヤリと笑った。

「徳さんの考えていることは分かるよ」

 意味ありげにいう。

「分かりますか?」
「奥平が、二十二年前の強殺グループの主犯かもしれないと思っているんだろう?」
「いわゆる、タカ、ですね。ええ、可能性はあるかもしれないと思いました」
「それはないよ」

 鎧塚は断言する。

「どうしてです?」
「彼の名前に、タカ、はつかない」
「いや……それがそうでもないんですよ」

 徳大寺が思わせぶりにいった。

「うん? どういう意味だい」
「実は、彼の名前にも、タカはつくんです」
「なんだって?」

 鎧塚は驚いて目をしばたたかせる。

「彼が十九年前、奥平家へ婿養子に入ったことはすでにお話ししましたよね」
「ああ。水戸商店のひとり娘と結婚する際、彼女の戸籍に入ったんだろ」
「そうです。ですから奥平という姓は結婚後に名乗った名前で、結婚前の彼の苗字は別にあって、それが高村たかむらというんです。彼もやはり、タカ、なんです」
「おいおい、徳さん」

 鎧塚は甲高い声を発して立ち止まった。

「何でそんな大事なことを、今まで黙っていたんだい」

 声には非難が込められている。

「別に黙っていたわけではありません。ただ、彼がタカであるはずがないと思い込んでいたものですから」
「なぜだい」
「だって彼がタカなら、自分が殺した磯部裕也の娘を養女にするはずがないじゃありませんか」 
「ふつうに考えればそうだが、ふたりの関係はもともと恋愛感情から始まっている。のちに雪乃が磯部の娘だと分かったとしても、奥平としては愛しさのあまり、手放すことができなかったと考えれば、腑に落ちる」
「そうですね」こくりとうなずく。
「雪乃が失踪当日、自宅近くの空き地で車を降りながら煙のように消失してしまった謎も、奥平がタカだと考えれば容易に説明がつくじゃないか。彼女は奥平邸内で殺され、奥平の車で八王子山中へ運ばれたのさ」
「ここへ来て、思わぬダークホースの出現ですね」

 徳大寺は目をきらりと光らせていった。

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