上 下
59 / 84
第3章 高校1年生 2学期

第54話 公開討論会(中編)。

しおりを挟む
「時間になりました。ご着席下さい」

 10分はあっという間だった。

「討論を始めます。議題は各候補者の公約についてです。制限時間は120分とします。発言は自由にして頂いて構いませんが、生徒会選挙の討論会であるという趣旨を踏まえて発言して下さい。それではどうぞ」

 いよいよ討論会の開始である。
 冬馬は弁も立ちそうだが、果たしてどうだろう。

「あー。えっとね。提案があるんだけど」

 冴子様や冬馬が口を開くより先に、神楽様が言葉を発した。
 
「よそ行きの口調はやめにしない? 先生方には失礼に当たるのは百も承知だけれど、これは学生の代表を決める場だしね。普段の口調で話した方が、話しやすいと思うんだよ」

 すでに砕けた口調になって、神楽様がそんなことを言い出した。

「私は別に構わないけれど……」
「オレもです。でも、お二人は先輩ですから、そこはけじめを付けさせて頂きます」

 2人も異存はないようだ。

「じゃあ、そういうことで。でさー。冴子の愛校心云々っていうあれだけど、僕は違うと思うんだよねー」
「どういうことかしら?」
「愛校心を育てようという意図が先にあって、愛校心が生まれるんじゃなくて、いい学校にすれば、自ずと愛校心は生まれてくるものだと思うんだよ」
「おおむね、神楽先輩に賛成です。その2つの順序が逆になるのは不自然だと思います」

 最初の標的になったのは冴子様。
 しかも神楽様と冬馬の2人がかりだ。

 しかし、冴子様の微笑みは変わらない。

「別に私はどっちが先という議論をするつもりはないわ。その2つは同時に成立するものだと思うから。鶏が先か卵が先かを論じても無意味じゃない? 重要なのは、愛校心はあって困ることはないということよ」
「……」
「いやいや。愛校心だって、過ぎれば十分害になるよ?」

 様子見に転じた冬馬とは違い、神楽様はなおも噛み付く。

「エリート意識っていうのは厄介だ。気が付かないうちに自分を縛ってしまう。そしてエリートでない人っていうのは、そういう匂いに敏感だよ。ああ、愛校心とエリート意識が違うっていうのは無意味な反論だからね。百合ケ丘がエリート校だっていうのは、客観的な事実なんだから」
「それは愛校心が過剰になった場合でしょう? 応援歌をみんなで作って歌い継ぐことが、そんなに危険な愛校心に結びつくとは思えないわ。だって、応援歌なんてどこの高校にも普通にあるもの」

 これは冴子様の言い分の方が説得力がありそうだ。
 神楽様の批判は、議論の一点を過大評価しているに過ぎない。

「第一、そんなことを言い出したら、神楽君の自由制服制だって、公序良俗に反する格好をする可能性があるって言えるじゃない」
「あはは。それは大丈夫。さっきは時間がなくて端折ったけれど、ちゃんと公序良俗に反しない常識的な範囲でっていう文言は付け加えるから」

 冴子様の反撃を、神楽様はさらりとかわす。
 こちらもまだまだ余裕のようだ。

「常識の範囲内でって、結構曖昧じゃない?」
「そんな国会答弁みたいなこと言わないでさー。これは百合ケ丘生への信頼だよ。これが崩れるようなら、何もしなくたって百合ケ丘はもうどうにかなっちゃってるさ」
「オレも、百合ケ丘の学生が学業に差し障りがあるほど非常識な格好をしてくるとは思えません」

 冴子様の追撃も不発。

 でも、なんだろう。
 冬馬がおとなしすぎる気がする。

「学業といえば、冬馬君の文化・芸術教育推進だけれど、それって理想論じゃないのかな?」
「と、言うと?」
「現状、学校教育には時間的制限があって、優先される目的は希望進路の実現な訳だよね。そりゃあ、教養はあった方がいいにしても、それを高校の先生方に求めるのはどうなのかな?」
「そうね。そういうことは各々が自主的に学ぶか、大学の教養課程で望むべきじゃないかしら」

 とうとう冬馬に矛先が向いた。
 さあ、冬馬はどう乗り切る?

「理想論と言われることは覚悟していました。ただ、こう考えることも出来ませんか? 現状は理想から現実に逃げているって」
「ふーん?」
「そもそも文化・芸術教育は、受験勉強よりも優先順位が低いとはオレは思いません。さっきの冴子先輩の言葉に似ていますが、同時に必要とされるものでしょう。それに、確かに自主学習や大学でも学べるかもしれませんが、この手のものは、早いうちに習わないと身につきませんよ」
「まぁ確かに、文化的・芸術的教養って、頭で理解して使うんじゃなくて、呼吸するようにできてないといけないものよね」
「ふーん……一理あるか」

 何とかしのいだだろうか。
 ナキのあの一言がなければ、危なかったかもしれない。

「それより神楽君、あなたの言う自由座席制って、言うほどいいものかしら」
「何か問題かい?」
「例えば、目の悪い学生はどうするの?」
「そういう場合は特例を設ければいい話じゃないかな」
「友達同士で座るのだって、結局は椅子取りゲームに勝たないといけないのよね? 先生方の立場になってみても、学生の把握が大変じゃない? メリットよりもデメリットの方が多い気がするわ」
「極端な話、早い者勝ちな訳ですから、部活動をしている学生なんかは、不利すぎると思います」
「うーん……そうかなぁ……」

 神楽様、1つ黒星だろうか。

「冴子の教員評価もメリットよりデメリットの方が多いように思うけどなー」
「どういう点が?」
「いわば衆愚教育とでもいう状況になりはしないかい?」

 衆愚とは、主に衆愚政治という熟語で用いられる言葉で、自覚のない無知な市民のことを指す。
 今回の衆愚教育であれば、自覚のない無知な学生に迎合した教育くらいの意味になる。

「実際、教員評価の導入には賛否があるようだし」
「我が校の採用試験を合格するような教員も、入学試験に合格するような学生も、そんな愚かなことをするとは思えないわ」
「それこそ、先ほど神楽先輩が仰った百合ケ丘への信頼ではありませんか?」
「……それもそうだね」

 あまりしつこくつつかずに、すっと矛を収める神楽様。
 ここに来て神楽様がやや劣勢、冴子様が一歩リードというところか。

 それにしても、やはりおかしい。

 先程から、議論の主導権争いをしているのは冴子様と神楽様で、冬馬は完全に出遅れている。
 冬馬のように頭の切れる男が、こんなにおとなしくしているはずがない。
 何か狙いがあるのだろうか。

「冬馬君の学費削減の件だけど――」

 冴子様が冬馬の公約に矛を向けた。

「我が校の栄養士兼食育担当の方に聞いたことがあるのよ。この学園の食堂制度の目的を」
「ほう?」
「確かに食堂の食事は割高だわ。無駄に豪華な品目もあるしね。でもそれにはちゃんと理由があるの。様々なテーブルマナーを身につけることが、目的の1つに入っているのよ」

 そういえば以前、テーブルマナーが新入生の一部にとってハードルになっている、みたいなことを言ったけれど、何か関係あるのだろうか。

「食費が定額ならやっぱり高いものを頼むわよね? でもそれには相応のテーブルマナーが必要とされる。必要に迫られたら、テーブルマナーを覚える。そういう仕組になっているのよ」
「へえ、なるほどねー」

 神楽様も関心したような声を上げた。 
 あの無駄にそろったカトラリーの数々は、意地悪という訳ではなかったのだ。

「なるほど。勉強になりました。でも、それは変動後納制にしても同じことが出来ます」

 冬馬に怯む様子は全くない。

「大体、テーブルマナーなんて、覚えるまでそんなに時間かからないですよね? どんなに疎くたって、1ヶ月もあればひと通り覚えられます。テーブルマナーを覚えることが目的なら、それを明示して講習でもやればいい」
「日常的に使っていないと、忘れるわよ?」
「それは一理ありますが、だからと言って定額前納制を肯定する理由にしては弱すぎます。費用対効果の問題だ」

 費用対効果とはかけた費用に対して、どのくらいの効果があるかということである。
 冬馬は、食堂費を定額前納するという費用に対して、効果がテーブルマナーの取得だけでは、効果が低すぎると言いたいのだ。

「実際、どんな形で変動後納制にするつもりなんだい?」

 神楽様が追撃をかける。

「食券制を導入します。券売機はコストですが、節約できる費用の総額に比べたら、大した額じゃないそうです」
「ふーん……」

 今度も何とかしのいだ。
 でも、議論の主導権を握らなければ、どうしても聞き手の印象は薄くなってしまう。
 そのことを冬馬が分かっていないはずはないのに。

「冴子のOB・OG会への参加奨励だけど、僕はあまりいい気はしていない」
「なぜかしら?」
「エリート意識醸成への影響が、さっきの応援歌の比ではないからさ。はっきりと有害じゃないかい?」
「それは違うわ。これはむしろ、正しいエリート集団形成と、利益追求を目的とした現実的な提案よ」

 再三に渡る神楽様の執拗な批判にも、冴子様はまるで堪えた様子はなく、朗らかに笑っている。

「ノブレスオブリージュという言葉はご存知?」
「うん」
「知っています」

 ノブレスオブリージュとはフランス語で「高貴さは義務を強制する」くらいの意味を持つ慣用句である。
 貴族に自発的な無私の行動を促す明文化されない社会の心理を表すとされ、エリート層が社会の模範となるように振る舞うべきだという社会的責任に関して用いられる。

「ノブレスオブリージュの精神は高潔で立派だわ。西欧の価値観がそのまま日本で通じるとは思っていないけれど、日本のエリート層にはこれが決定的に足りない。だから、私たちからそのあり方を変えていくのよ」

 冴子様は続ける。

「でも、一方で日本でエリートであるためにはお金とコネが必要なことも悲しい事実。だから、私たちで助け合うの。百合の集いへの参加奨励は、理想と現実を両方見据えたものだと自負しているわ」

 高らかに宣言する冴子様に、神楽様からも冬馬からも批判の声はもはやなかった。
 とはいえ、そこで諦める神楽様ではない。

「僕の目安箱だって捨てたもんじゃないよ。みんなの声に耳を傾けるっていうのは民主主義の基本中の基本だからね」
「確かにそうね。でも、それは本当に基本中の基本。むしろ、それが出来ない者には人をまとめる立場に立つ最低限の資格すらないと思わない?」
「同感です」
「……」

 ここに来て、冴子様がいっそう優位に立った。
 冴子様のあの弁舌の後では、神楽様の目安箱は弱すぎる。
 さらに言うなら、相槌を打つだけの冬馬など問題外だ。

「冬馬君? 私、君にはもうちょっと期待していたのよ? あの和泉ちゃんが気にかける相手だもの。もっと手強いと思っていたわ」
「オレは自分にできることは十二分にしてきたつもりです」
「その結果が恋愛に関する価値観の啓蒙? 上手いこと理論武装したつもりかもしれないけれど、誤魔化されないわよ? あんなのインパクトだけの薄っぺらい主張だわ。批判するまでもない」
「そうでしょうか?」
「僕も同感だね。恋愛について学校が口を出すなんてこと自体が間違ってるよ。それこそ、自由にさせて欲しいかな」

 旗色が悪すぎる。
 冬馬はここからどうするつもりなのだろう。
 まさか、本当に手も足も出ないのだろうか。

「薄っぺらい主張……ねぇ?」

 冬馬が笑った。

 ――肉食獣の笑みで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

処理中です...