上 下
193 / 248
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第187話  お店の裏側まで見せられちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

 バンスさんの案内の元、貸し店舗である木造建築の建物の中に入っていく。
 玄関の扉を開くと、カウンターらしき造りが目に飛び込んできた。
 全体的な雰囲気としては思ったよりも明るめで、いま流行りの古民家カフェみたいなイメージがある。
 木造建築であるため隅から隅まで木に包まれているような空間で、日本人としては安心感のようなものも感じられるね。

「いかがでしょうかコロネさん! 少し入っただけでもいいお店であるとは思いませんか!」
「そうだね。何となく落ち着くっていうか、古き善き空間って感じがするよ」
「そうでしょうそうでしょう! ラグリージュでも完全な木造建築というのはまだ少ないですからね。最近は少しずつそういった民家なども増えてきてはいるのですが、やはりまだまだメジャーなのはレンガ造りの建造物でして。ですから木材を扱う我が〈グリーン商会〉としては、今回の海豊祭かいほうさいを機にウチの店舗から人気店を輩出し、一人でも多くの方に木の素晴らしさを伝えられればと思っているのです」

 バンスさんはぐっと拳を握って自らの想いを語る。

 たしかに言われてみれば、ベルオウンでも木造建築のものを見た記憶はないね。
 強いていうなら市場で店を開くときの屋根や骨組みなんかは木の柱を使っていたような気はするけど、精々その程度だ。
 ここまで本格的な古民家っぽい造りの家や店舗は初めて見た気もする。
 ベルオウンこそ《魔の大森林》が近くにあるんだから木材なんて取り放題だと思うんだけど、あまり木造建築は普及してなさそうだった。
 まあここは異世界だから中世ヨーロッパ風のベルオウンの街並みには特に疑問は抱かなかったけどね。

「そう言えば、ついこの前までここを借りていた商人ってどんな商売をするつもりだったの?」
「詳しくは聞いておりませんが、料理系だったと思いますよ。地元の名産料理を振る舞うと仰られていたかと」
「そうなんだ。カウンター席っぽい造りにもなってるし、店内で料理を振る舞うつもりだったのかな?」
「そこまでは分かりませんが、一応こちらは二パターン使えるよう設計しております。このまま通常通りカウンター席としてお客様に商品を提供するのもいいですし、そういった形態の事業でなければ広いレジ台としても使えます」
「あー、なるほど! たしかにレジとしても使えそうだね」

 現に冒険者ギルドとかだと受付のお姉さんはカウンターみたいな横一直線のテーブルに何人か立っているし、薄利多売の商売をするならお会計周りで混雑しないようレジ係を増やして対応する、なんてこともできるわけだ。
 なるほどなるほど。
 バンスさんは借り手が見つからない借家がもったいないから貸し店舗として改装したと言っていたけど、色々と考えられているみたいだ。
 さすがは商会を束ねている人。
 言うまでもなく商才はあるみたいだね。

「そう言えばコロネさんはポテトという料理を作られる予定でしたね。では次はその辺りを見てみましょう。あちらが厨房になります」

 バンスさんに案内され、店の奥に進んでいく。
 カウンターテーブルに沿ってどんどんと奥に行くと、目立たない色の木の扉があった
 そこを開けると、中は少しバックヤードっぽさが感じられる。
 綺麗な表側とは違い、少し作業場じみた裏側感があるね。
 とはいえ、別に不衛生であったりボロボロであったりするわけではなく、最低限の環境は整えられている。
 まあこのお店は料理をするような人も使う想定だから、裏側が汚かったりしたら契約してくれる人もいないだろうしね。

「わあ、お店の裏側ってこうなってるんだぁ!」
「ふふふ。ナターリャ様はこういった場所に来られるのは初めてですか?」
「うん! エルフの里にもお店はあったけど、裏側には行かせてもらえなかったから。だからこういう所は新鮮な感じがする! ね、わいちゃん、サラちゃん!」
「わいはそもそも人間の街に来たのがつい最近のことやからなぁ。新鮮な気持ちっちゅうよりかは、こんな風になっとんのやなぁ、っていう勉強の方が大きいかもしらんわ!」
「ぷるーん!」

 ナターリャちゃんを始め、サラやわいちゃんも興味津々といった様子でキョロキョロと辺りを見回しながら店の中を練り歩いていく。
 あの子たちはきっと、こんなお店でもプチ探検気分を味わってるんだろうね。

「皆さん楽しそうで良かったですね、コロネ様」
「だね。あんなに楽しそうにしてくれるなら、渋々ながら内見に来た甲斐もあるってもんだよ」
「あれ、コロネ様はあまり新鮮な気分にはなられないのですか?」
「あー……そうだね。あんまり言ったことないかもしれないけど、実はわたしの実家がお店やってて――」
「ええっ!? コロネ様のご両親はお店を経営されていらしたんですか!?」
「ちょ、エミリー声が大きいよ!」

 すぐにエミリーの口を塞いだけど、あまりに遅すぎる対応だった。
 わたしの前を先行していたナターリャちゃんたち、そしてバンスさんがキラリと眼鏡を光らせるのが見えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

たっすー
ファンタジー
フードデリバリーをしていたオレは、仕事中の事故で死んでしまい、異世界に転生した。 だけど転生した後も日雇い仕事に精を出すだけのうだつのあがらない毎日は変わらなかった。 そんなある日、路地裏の揉め事に巻き込まれる。 手酷い暴行を受け意識を失ってしまったオレを宿まで運び傷を治してくれたのは、オレよりも遅れてこの世界に転生してきた、元の世界にいた頃の愛車(ママチャリ)シルバーチャリオッツ号だった。 シルバーチャリオッツ号はこの世界にドラゴンとして転生してきており(でも見た目は自転車のまんま)、思念伝達のスキルで会話ができる(でもちょっとウザい)オレの相棒となる。 転生にともなって思念伝達以外にも様々なスキルを獲得していたシルバーチャリオッツ号は、この世界では超つよのチートドラゴンだった(でも見た目は自転車)。 転生前の自炊生活で学んだオレの料理の知識と、シルバーチャリオッツ号のチート能力を駆使して、オレたちは様々な問題を解決していく。 最強ママチャリとちょっと料理ができるだけのオレの異世界活躍譚。 あれ、もしかしてオレってオマケ?

処理中です...