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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第186話 バンスさんに連れてこられちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むバンスさんの提案で半ば強引に決定してしまった貸し店舗への内見。
ドルートさんの名前を出したら途端に目の色を変えて詰め寄ってきたけど、やっぱりドルートさんは商人の間ではそれだけ偉大な存在なんだろうか。
それとも有名なドルートさんがオススメしてる料理だからそこに商機を見出だして儲けようとしてるのか。
……どちらにせよ、これ一回内見に行ってしまったらそのまま流れるように店舗オープンまで話が進んでいきそうな気がする。
てか絶対そうなる。
だからできることなら店舗内見はお断りしたいところだったんだけど……。
「お待たせいたしましたコロネさん! こちらが件の貸し店舗になります!」
「何だかんだ来てしまった……」
バンスさんが両手を広げて高らかに言い放った。
わたしたちの目の前には、木造の建造物が鎮座している。
断り切れずに半ば無理やり引き連れられてきて、皆で歩くこと十分ほど。
大通りからは少し外れた通りの一区画に案内され、今に至るというわけだ。
周囲を見渡してみるとどうやらこの辺りもあまり派手な商店街などはなく、多くの民家といくつか店舗がぽつぽつとあるくらいだった。
だけど大通りが近いからか、人通りは少なくない。
「わあ、すごーい! ちょっと細長いお家みたーい!」
「そうなんですよ。実はここは元は民家でしてね。借家として我が〈グリーン商会〉が保有していたものなのですが、前の住人が出ていかれてからしばらく入居者がいなかったので、それならばいっそ貸し店舗としてリニューアルしようと思った次第なのです!」
「ずっと借家のまま持っていても誰も住んでくれなかったら赤字状態ですからね」
「なるほどなぁ。色々と考えてんのやなぁ」
「ぷるーん!」
バンスさんの解説に、エミリーが補足して説明してくれる。
わたしと一緒に着いてきたナターリャちゃんと従魔たちも新たな環境が新鮮なのかテンションが高い。
まあたしかに外観をざっと見た感じ、木造建築の古きよき古民家を改修したような雰囲気をまとっている。
イメージとしては、京都の一画に人知れずオープンしている隠れ家的カフェみたいな感じかな?
日本人としてはとても親しみを覚えやすい店舗のような気はするね。
「せっかく到着したのにすみません。少し私が中を確認してきますので、少々お待ちください」
「わかったよ」
わたしが店の外観を眺めていると、バンスさんは申し訳なさそうに言ってきた。
そして頭を若干下げながら、恐る恐る店の扉を開いて中に入っていく。
わたしたちは待っていてと言われたのでそのまま店の外で帰りを待っていると、三十秒ほど経過したところでバンスさんが戻ってきた。
「いやはやお待たせいたしました。万が一、前の契約者がまだいれば不味いと思ったので確認してきたのですが……やっぱり怒ってとっくに帰っちゃってるみたいです。中は見事にもぬけの殻でしたよ、あっはっは!」
「いや笑い事じゃないでしょ」
愉快そうに笑うバンスさんに冷静にツッコミをいれる。
たしか前の契約者はこの店で商売をやろうと思っていたけど、〈グリーン商会〉の納品契約不履行の謝罪を告げに行った際に激怒してその場で全ての契約を破棄されたんだっけ。
ずいぶんと一方的な話だけど、先に契約を満たせなくなったのは〈グリーン商会〉の方なので、あまり強く出れなかったんだろうね。
それで途方に暮れていたところにわたしが現れて、不足分の商品も何とか工面したし、今はこうしてわたしの店を開かせるべく店舗内見まで付き合わされている。
「では皆さん、ぜひ中へお入りください! さあ、行きましょう!」
バンスさんが声を張りながら意気揚々と入店を促してくる。
どうしたものかと立ち止まっていると、ナターリャちゃんに袖を引っ張られた。
「どうしたのコロネお姉ちゃん? ほら、一緒に行こうよ!」
「う、うん。そうだね……」
ナターリャちゃんは器用に右手でわいちゃんとサラを抱っこしながら、左手でわたしの右袖を掴んで先行していく。
ルンルン気分で歩くその後ろ姿を見ると、やっぱりここでわたしだけ帰るとは言い出せない。
こうなったら仕方ないね。
わたしは覚悟を決めて、ナターリャちゃんたちと一緒に風情ある木造店へと足を踏み入れていくのだった。
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