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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第177話 大量生産にフリーズしちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むサラに複製を頼んだ割り箸を見せると、エミリーは驚きに満ちた表情で目を見開いた。
「す、すごいです……! これはまさしく〈グリーン商会〉で提供している割り箸……しかも材質もほとんど同じです!」
「よかった~! なんとか成功したみたいだね!」
もしかしたらいけるんじゃないかと思っていたんだけど、実際に成功してひと安心だ。
サラは解体スライムという超希少個体。
なんたって神さまが直々に遣わせてくれたんだから、一種の神獣みたいな立ち位置だ。
多分この世界にサラと同種のスライムはいないだろう。
そんなサラは種族名こそ『解体スライム』となっているけど、有しているスキルは解体だけではない。
サラのステータス欄を確認してみたら、解体系のスキル以外にも簡易組立や簡易加工などのスキルを保持している。
これは普段なら魔物の解体しか頼まないから、例えばオークの牙を素材として使いやすいようにキレイに研磨したりといった、あくまでも解体の補助的なスキルとしてしか使用されていない。
でも今回はそちらをメインで使用できるのではないかと考え、サラに実行してもらったのだ。
サラが複製できた理由を簡単に教えてあげると、エミリーは感心するように頷いた。
「な、なるほどです。サラ様にはそのようなスキルがあるのですね。ですが、この木材はどこで入手されたのでしょうか? 見た感じ、〈グリーン商会〉で使用している《魔の大森林》産の樹木に近いようなのですが……」
「ああ、それはエミリーも知ってるはずだよ」
「え、私が?」
「うん。ほら、一昨日泊まったところはどこだった?」
「一昨日……というとまだラグリージュには到着していないので道中で寝泊まりしたはずですが……あっ、コロネ様が用意してくださったあのログハウス!」
「ふふ、思い出した? あのログハウスもサラのスキルで建築したものなんだけど、その木材は近くにあった森から拝借してきたんだよね。それでその森っていうのが、ベルオウンからずっと地続きで広がってたから、もしかしたらあの付近に生えてた樹木は《魔の大森林》の端っこのエリアのものなんじゃないかと思ってね」
「た、たしかにあそこは《魔の大森林》の周縁に該当するエリアだと思います。なるほど……だから完全に割り箸の構造を複製するだけでなく、使用されている素材も限りなく同じものに近いというわけですね……!」
「その通り! わたしもここまで上手くいくかは不安だったけどね」
エミリーは得心したように頷いたけど、しばらくするとまた表情に陰りがさした。
「それで、その……こちらの割り箸ってどれくらいお作りいただけるのでしょうか?」
「これくらいの大きさならかなり大量に作れると思うよ。納品数はいくつくらいなの?」
「えっと、このタイプの割り箸は全部で四千個ほど必要なのですが……」
「おお、四千か。どうかな、サラ。いま作った割り箸と全く同じものをあと四千個作れる?」
「ぷるーん!!」
サラはぷるぷると震えると、ぽよーんと大きくジャンプした。
次の瞬間、空中に跳んだサラがぼいんと膨らみ、スライムボディから大量の割り箸が滝のようにドサドサとテーブルの上になだれこんだ。
「ちょちょちょ、これ思ったよりすごいな!?」
「わぁあああ~! 木のお箸がいっぱ~い!!」
勢いは衰えることなくドバドバと割り箸の濁流が溢れてきて、わたしはテーブルから落ちていかないように手でガードする。
エミリーも少し遅れて、体全体で割り箸が落ちていかないようにように守ってくれた。
ナターリャちゃんは楽しそうに目を輝かせながら涌き出る割り箸の渦を眺めている。
「……ぷるん!」
体を膨らませていたサラは徐々に元の大きさに戻ると、そのまま重力に任せて落下した。
ぽよん、とテーブルの上に着地し、スライムボディを震わせる。
「こ、これで四千個の割り箸を作り終えたんでしょうかぁ……?」
「そ、そうみたいだね。何とかこれで全部できた、かな?」
テーブルの上に雪崩のように堆積した大量の割り箸を眺めながら、わたしとエミリーは、この後始末どうしようか……と呆然とするのだった。
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