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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第174話  裏側を案内されちゃう、ぽっちゃり

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 エミリーに案内され、〈グリーン商会〉までやって来たわたしたち。
 本日は商会が休みらしいので表の扉ではなく裏口から中へと入っていく。
 庭には花壇があり、そこには色とりどりの花が植えられていた。
 他にも庭の周囲を囲うように木々が生えていて、〈グリーン商会〉という名の通り、とても自然感があふれる建物になっている。

「どうぞ、こちらからお入りください」

 裏庭を歩いていると、エミリーが建物の一角に向かい、黒い扉を開いてくれた。
 少し年季が入っているのか、ギィィィ……と軋むような音が鳴った。

「あ、ありがとう。お邪魔しまーす」
「お邪魔します!」

 わたしは恐る恐る中へ入り、その後ろをナターリャちゃんたちもついてくる。
 裏口はどんな感じになっているのかと思っていたけど、普通に店のバックヤードのような造りに近い。
 裏口というイメージから薄暗くてじめじめした雰囲気を想像していたけど、全くそんなことはなく、天井につけられたライトがフロア全体を明るく照らしていた。
 最後に入ってきたエミリーが扉を閉めると、早足で駆けてきて、わたしたちの前へ出た。 

「それでコロネ様。ここが私の家族が経営している商会なのですが、これからどうすれば良いのでしょうか?」
「まずは納品する予定の商品を持ってきてくれる? サンプルでいいから、納品予定の物は全種類持ってきてほしいな」
「わ、分かりました。再度確認いたしますので、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか……?」
「ああ、わたしたちは暇だから全然ゆっくりでいいよ」
「ありがとうございます……! あっ、もしよろしければお店の商品でも見ていってください。少しくらいは暇潰しになるかと思いますので」

 エミリーは楽しそうにニコリと笑うと、わたしたちをお店の中央まで案内してくれた。
 フロアを進んでいくと、目の前には大きなカウンターと様々な商品が並べられたエリアが広がっている。
 売り場の構図としては、コンビニみたいなよく見る形式の陳列になっている。
 店の壁面にぐるりと商品が置かれ、中央の空間部には棚を置いてそれぞれの種類別に商品が並べられていた。

 ただ、一点だけ普通じゃ体験できないことがあるとするなら、わたしたちが売り場に入ってきたのは店の入口ではなく裏口だということだ。
 つまり、今わたしたちは店の内部から売り場にやって来た状態なので、受付カウンターの裏側がはっきりと見えてしまっている。
 レジや書類、奥の方には目に届かない位置に金庫みたいな物もあるね。
 しかもこのカウンターがかなり広いから、普段は受付嬢みたいな人を四、五人は雇っているんだろうね。
 雰囲気は違うけど、構造としては冒険者ギルドのカウンターに近いだろう。

 へぇ~、商会の裏側ってこうなってるんだ。
 いい勉強になったよ。

「それではすぐに商品の方をお持ちいたしますので、少々お待ちください」

 そう言い残すと、エミリーはぱたぱたと二階へと続く階段を上って行ってしまった。

 今日は商会が休みだからか、店内に人の気配はない。
 がらん、とした空間にわたしたちだけが突っ立っているような状態だ。

「せっかくだし、どんな商品を売ってるのか見てみようか」
「うん! ナターリャこういうお店大好き!」
「わいもこういう木に包まれた空間は心地ええなぁ。昔おった森やドラゴンの里を思い出すわ」
「ぷるーん!」

 ナターリャちゃんの腕の中で、わいちゃんとサラが気持ち良さそうに羽を広げている。
 人間で例えるなら、ほどよく両手を広げて深呼吸でもしているかのようだ。
 でも、たしかにここは本当に木造が徹底している。
 このお店はもちろん木造建築だし、店内の商品も木製の物が大半。
 庭にもたくさんの木と花が植えられていた。

 ここまで樹木に囲まれているからか、店内もほのかに森の香りのようなものが漂っている気がする。
 呼吸しているだけで体が澄みわたっていくような、リラクゼーション効果がありそうな香り。
 まさに天然のアロマだ。

「それじゃ、エミリーが戻ってくるまで色々と店内の物を物色するとしますか~!」
「おー!!」

 ナターリャちゃんの掛け声とともに、わたしたちはまず壁面に並ぶ木製商品を見て回ることにした。


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