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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第171話 絶望的な状況を聞いちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「もしこのまま木材が届かなければ……我が〈グリーン商会〉は――――倒産します!!」
エミリーが言い放った衝撃の内容に、わたしたちは雷が落ちたように驚きの声をあげた。
反射的にエミリーに問いかける。
「た、大変じゃん! どうにかならないの?」
「……現状、ベルオウンからの輸送ルートはほとんど機能していないそうで……。仮に今日から輸送が再開したとしても、ベルオウンからラグリージュまでを走ってくる時間と、さらに届いた木材を商品に加工する時間を考えると、どうあっても間に合わないみたいです……」
「そ、そうなんだ……。ちなみになんだけど、〈グリーン商会〉は木材の加工品で売上を立ててるんだったよね? 《魔の大森林》から調達した木材を使ってどんなものを作る予定だったの?」
「普段は色々な物を作っています。主力商品だと薄い紙類や木皿などの食器、あとは料理を入れる箱や割り箸などですね。今回は特に後者の加工品があまり在庫がない状態で、このままでは契約先に納品もできないそうで……」
エミリーは話しながら少しずつ表情に陰を落としていく。
自分で言葉にしていく内に、どれだけ不味い状況なのかを理解していっているようだ。
「そっか……。せっかく久しぶりに里帰りできたっていうのに、こんな大変なことになってるなんて……」
「いえ、コロネ様はお気になさらないでください! これはあくまでも私たち家族の問題ですので!」
エミリーは不安を払いのけるように手を振ってわたしたちに笑顔を見せる。
だけど、その笑みはどこかぎこちない。
空元気っていうのが伝わってくる。
自分の家族が不味い状況にあるっていうのに、わたしたちに余計な心配をかけまいと配慮してくれているんだろう。
そんなエミリーの態度に何とかしてあげたいと思う気持ちが湧き出る一方で、わたしは一つ気になる点に気付いた。
「そういえば、エミリーが実家に帰ったのは手紙に帰ってくるように書かれてたからだったよね? 木材不足は大変な問題だろうとは思うけど、それとエミリーの帰郷に何の関係があったの?」
わたしの記憶が確かなら、エミリー宛の手紙には木材の話などはなかったはずだ。
でも、手紙の内容はできるだけすぐに帰ってくるように、という緊急性のあるものだった。
そんなに木材不足で困ってるなら、エミリーに手紙で木材を持って帰ってきて欲しいとか頼めばよかったのに、そういったことは書かれていない。
まあ商売で使う業務用の材料なんだったら、たとえアイテム袋とかがあったとしても運びきれないか。
わたしのアイテムボックスなら収納できそうだけど、エミリーのお父さんはわたしがそんな便利なスキルを持ってることを知らないから、手紙で木材の運搬を頼んでこないのも仕方ない。
だけど、それならどうしてエミリーを実家に呼び寄せるような手紙を出したのかいまいちよくわからない。
言い方は良くないかもしれないけど、別に今さらエミリーが帰ってきたところで〈グリーン商会〉の危機的な状況は何にも変わらないはずだ。
わたしが頭に疑問符を浮かべていると、エミリーは難しい表情をしながら答えた。
「実は、ベルオウンでのメイドの仕事を辞めてラグリージュに帰ってきて欲しいとお願いされました」
「ええっ!? ど、どうして!?」
「それは……現時点で〈グリーン商会〉の存続が絶望的だからです」
エミリーは息を漏らしながら、視線を落とす。
「今回の契約先には、海豊祭に向けて長い時間をかけて準備してきた人たちや、単純に資本力が大きい商会のチェーン店なども含まれていました。昔からそこまで目立つほどの売上を立てているわけではありませんでしたが、食べるに困らないほどには……いえ、むしろ一般よりも裕福な暮らしができるくらいには事業を上手く軌道に乗せていたのです」
ですが……、と続けて。
「今回の件で、〈グリーン商会〉が築いてきた信用は少なからず損なわれることでしょう。そうなれば取引先が減少するでしょうが、そのような噂は商人の間ではすぐに広まります。一度信用を無くした商人が挽回するのは並大抵のことではありません。また長い期間を通して、信用を一から築き上げていかなければならないのですから。それも今度は、一度信用を損なった、という傷を背負って」
「そ、そんな……。それじゃあ〈グリーン商会〉は潰れちゃうってこと!?」
わたしの言葉に、エミリーは今にも泣き出しそうな表情をしながら顔を下に向けた。
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