上 下
128 / 217
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第122話  本心を打ち明けられちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

 ドルートさんの護衛依頼を引き受けたわたしは、握手していた手を離した。
 最初はわたしがドルートさんたちを護衛するのが盗賊の後処理にどう繋がるのかわからなかったけど、詳しい説明を聞けばたしかに納得できる。
 なのでわたしはドルートさん一家の護衛依頼については特に負担には感じていないんだけど、傍らでわたしたちの話を見届けていた女性は浮かない顔をしている。
 この人はドルートさんの妻のリベッカさんなんだけど、どうやらドルートさんの提案に難色を示しているようだ。

「しかしあなた、それは……」
「……分かっておる。私とてこの方をビジネス的な視点で見ているわけではない」

 リベッカさんにそう告げると、ドルートさんは真剣な表情でわたしに向き直った。

「コロネさん。今回の護衛依頼が私たちにとって虫がいい話だと言うことは理解しております。たしかに盗賊を上手く連行できる手筈は考えましたが、自分達が安全にラグリージュに着きたいがためのこじつけだとなじられても文句は言えないでしょう。ですから、無用な探り合いはなしに、私の本心を申し上げます」
「え? は、はい」

 なんだろう、ドルートさんの空気が変わった。
 本心ってなに?
 何かわたしに隠し事でもあったってこと?
 ちょっと何を言われるか怖いんだけど……!

 わたしが少し身構えていると、ドルートさんはゆっくりと息を吸って言った。

「単刀直入に申し上げれば、私はコロネさんと繋がりを持ちたいと考えております」
「わたしと、繋がり……?」
「はい。コロネさんがどの程度ご自身の価値を理解されておられるか分かりませんが、貴女の存在はこれから無視できないものとなっていくでしょう」
「ええっ!? いやいや、それは買い被りすぎじゃ」
「いいえ、そんなことはございません。事実、アルバート様にコロネさんの情報に探りを入れた際、キッパリと話を打ち切られてしまったのが良い証拠です。ベルオウンの領主たるアルバート様があそこまで毅然とした態度を取られるとは、私も予想外でした」
「いやぁ、それはアルバートさんが領主として秘密保持の責務を果たしただけだよ」
「仰られる通り、領主としての責務からコロネさんの情報を隠していたこともあるのでしょう。しかし、それならば適当にはぐらかす方法など無数にあります。……自分で言うのもアレなのですが、私が経営している〈アイゼンハワー商会〉はそこそこ大きな組織でしてね。貴族様方との取引も多く、ベルオウンにもそれなりの数の物品を売買させていただいております。アルバート様とお話をさせていただくことも一度や二度ではないのですが、あのような対応をされたのは初めてです。なぜアルバート様があれほど毅然な態度を示されたのかと言えば、それはコロネさんを一人の冒険者としてだけではなく、ベルオウン全体としても非常に重要な存在であると認識されておられるからなのでしょう」

 ドルートさんに熱弁されて、わたしはちょっと困惑してしまう。
 いきなり本心を話すとか言われたので覚悟して聞いていると、出てきたのはわたしに対する褒め言葉? でいいんだよね?
 たしかにアルバートさんはわたしに良くしてくれているから、それなりに好意的に思われているのかなとは感じている。
 まあ異世界生活初日に《魔の大森林》からオリビアたちを救ったし、ゴブリンロード討伐の件もある。
 そういった貸しがあるから、アルバートさんもわたしの頼みは結構聞いてくれるんだと思う。
 だけど、だからといってわたしの存在が無視できないほど大きくなるとかは考えたことがない。
 てか、そもそもわたしは別にそんな大した人間ではないよ?

「アルバート様の態度からコロネさんの存在感を推察できたのは勿論ですが、私の商売人としての直感も告げておるのです。この先、必ずコロネさんの名前を聞く機会が増えるであろうということを」
「いやいや、そんな大げさなぁ」

 わたしはやんわりと否定するけど、ドルートさんの表情は変わらない。
 チラッとリベッカさんの顔色もうかがってみるけど、ドルートさんと同じ真剣な表情で話を聞いていた。
 え、なにこの空気。
 なんで気づけばこんな重苦しい雰囲気になってんの?

「ま、まあ、わたしと繋がりを持つとかはよくわからないけど、今回はラグリージュまでの護衛の依頼でしょ? それは引き受けるから、それでいいんじゃないかな?」
「コロネさん……ありがとうございます」

 リベッカさんがお礼を言ってくる。
 その感謝の言葉に、わたしは笑顔で返した。

「気にしないでよ。繋がりを持ちたいって言ったって、あからさまにわたしを利用しようとしてる感じはしないし」
「そ、そのようなことは滅相もございません!」
「だよね? だったら今はそんな難しいこと考えなくてもいいんじゃないかな。それに――」

 わたしはリベッカさんと手を繋いでいた、フランちゃんを見る。

「? なにー?」
「ふふっ、どうせならフランちゃんも楽しい旅路にしたいもんね? わたしが乗ってる馬車にはナターリャちゃんっていうフランちゃんと同じくらいの女の子もいるから、もしかしたらお友達になれるかもしれないよ」
「ほんと!? わたし、ナターリャちゃんとお友達になるー!」

 無邪気にはしゃぐフランちゃんの頭をなでてあげる。
 わたしが頭をなでなですると、フランちゃんはきゃっきゃとさらにテンションを上げた。

「旅は道連れ世は情けって言うからね。困った時は、お互い様だよ。だからドルートさんもリベッカさんも、気にせずわたしに護衛されてね。それに、ドルートさんがそんなに大きな商会を経営してるんだったら、個人的に買いたい商品なんかもあるかもしれないし!」

 特に食材に関しての情報とかはめっちゃ欲しい。
 特にお米とかはヤマト国の商人からしか買えないっぽいから、そういうのも取り扱ってるならぜひとも買付をしたいところだ。
 今はとりあえず盗賊を片付けるのが先だから自重するけど、ドルートさんがわたしの馬車に乗ったら色々と食材について聞いてみよう。

「何と申し上げれば良いのか……ありがとうございます。代わりといっては何ですが、コロネさんの気になる情報などございましたら、私が答えられることであればお教えいたしましょう」
「ほんとに!? いやぁ、実は知りたい情報は山ほどあるんだよねぇ」

 思わず流れで美味しいご飯のこととか聞きそうになったけど、ここは一旦我慢だ。

「……と、その前に、まずはこの盗賊たちをドルートさんの馬車に入れちゃおうか。このまま入れてもいいんだけど……何か手足を縛る縄とか持ってたりする?」
「はい。護身用に魔力式の緊縛縄を持っております。数は十分にございますので、倒れている全ての盗賊を縛り上げることができるでしょう。すまないが、これで盗賊たちを縛ってくれるか?」
「はっ! かしこまりましたドルート様!」

 ドルートさんはアイテム袋から何十本も束になった縄を取り出し、近くにいた御者の男性に渡す。
 その男性は受け取った縄を持って、すぐに付近で倒れている盗賊たちの手足を縛っていく。

 わたしは御者の男性が盗賊全員を縛り終えるまで、フランちゃんと一緒に軽く遊んで時間を潰すのだった。 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

処理中です...