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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第115話  馬車に乗り込んじゃう、ぽっちゃり

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「ご足労をおかけしてしまい申し訳ございません。こちらに馬車を手配させていただきました」
「ありがとうございます!」

 前を歩く男性がこちらを振り返って伝えてくるので、お礼を返した。
 この人は、アルバートさんから指名を受けた騎士だ。
 騎士といっても、全身を鎧でフル装備しているわけではなく、所々に防具を身につけているものの比較的軽装に見える。
 何なら、ちょっと守りを重視した冒険者くらいのイメージだ。

「うわぁ、ここが厩舎きゅうしゃってやつ? すごいね、初めて見たよ」

 アルバートさんにお願いして何とか馬車の手配を取り付けたわたしたちは、屋敷の周囲に広がる庭の隅っこへ案内されていた。
 そこは厩舎のような場所で、横に広がる小屋から何頭もの馬が顔を出してわたしたちを見ている。
 見慣れない人間であるわたしたちに興味があるのかな?
 だけど、相手に興味津々なのは馬サイドだけじゃないみたいだ。

「わー! お馬さんがいっぱーい!!」

 小屋から顔を出す馬を見た瞬間、ナターリャちゃんが走り出していった。
 そして、頭を下げる馬の顔をなでなでしている。
 はたから見ると微笑ましい光景だけど、いきなりやってきた馬にあんなにフレンドリーに接してもいいのかな……?

「だ、大丈夫なのかな? 危なくはない?」
「ハハハ、大丈夫だと思いますよ。こちらの馬は人慣れもしておりますし、何よりあれほど楽しそうに接されればその気持ちは馬にも伝わるものです」

 騎士さんに言われてナターリャちゃんを見ていると、たしかに無邪気に笑いながら馬とじゃれ合っている。
 見た感じ馬も嫌がっているような感じはないし、危険はなさそうかな。

「それで、馬車にはどの馬を連れていくの?」
「馬車の方は、すでに準備させていただいております。こちらへどうぞ」

 騎士さんが一言告げると、厩舎の横に連れていかれる。
 そこには、豪華な馬車が一台停まっていた。
 二頭の馬にかれた四輪馬車だ。
 パッと見の装飾からあきらかに貴族が乗る用の物であることが感じられる。

「な、なんか思ったより豪華なんだけど、本当にこれ借りていいの?」
「勿論です。アルバート様から上等な馬車を用意するよう仰せつかっておりますので」

 こんなに豪華な馬車を用意してくれるとは予想外だった。
 もっと普通の感じのやつかと思ってたんだけど、アルバートさんが良いって言うならいいんだろう。
 今回はアルバートさんの厚意に甘えさせてもらおう。

 心の中で上等な馬車を用意してくれたアルバートさんに感謝していると、ふとこの馬車について疑問が湧いた。

「あれ、そう言えばこの馬車って誰が運転するの?」

 馬車は御者さんとかいう役割の人に運転してもらわないといけなかったはずだ。
 わたしはやったことないからできないよ?

「御者は私が務めさせていただきます」

 わたしの質問に、騎士さんが名乗りをあげた。

「騎士さんが? ここまで案内してくれただけじゃなかったんですね」
「はい。アルバート様よりコロネさんご一行をラグリージュまで送り届ける任務を承りましたので」
「そうだったんですね! それじゃあ、しばらくの間よろしくお願いします! えっと……」
「ああ、これは申し遅れました。自分は騎士のライツと申します。この度はよろしくお願いいたします」

 ライツさんは、自己紹介と共に頭を下げる。
 わたしたちも順に自己紹介を終えると、いよいよ馬車に乗り込む。

「コロネ様、どうぞお先にお入りください」
「う、うん」

 エミリーに促され、わたしは馬車に近づいていく。
 この馬車は大きな荷台に複数人が乗り込むような乗り合い馬車ではなく、一個の個室を丸々抜き取ったかのような作りになっている。
 しかも馬車の入り口までは階段のような段差になっていた。
 わたしは一拍置いて馬車の階段に足を乗せ、そのまま扉を開いて馬車に乗り込んだ。

「うわ、すごっ! 中めっちゃキレイじゃん!」

 中は木製で作られていて、キラキラとした雰囲気をまとっていた。
 設置されている横長のソファもふかふかで、長旅でも疲れにくいようになっている。 
 こ、これが貴族クオリティなのか……!
 そう言えばこの異世界に来た初日、オリビアと初めて出会った時も馬車に乗らせてもらったけど、その時でもここまで豪華な感じはしなかった。
 まああの馬車はオリビアが無断で持ってきた物だから、あまり豪華な馬車を用意することができなかったのかもしれないね。

 わたしは馬車の一番奥のソファに腰を下ろすと、他の皆も続々と馬車の中に入ってきた。

「わあぁぁ! すっごく広ーい!」
「ほ、ほんまや! まるでどこぞの宿の一室みたいな感じやないか!」
「私もこちらの馬車には久しぶりに乗りましたけど、やっぱり貴族様が乗られる馬車は一級品ですねぇ」
「ぷるーん!!」

 みんな思い思いの感想を口にしながら、好きな場所に座っていく。
 すると、はしゃいでいたナターリャちゃんがわたしの元へ駆け寄ってきた。

「ナターリャ、コロネお姉ちゃんの隣がいい!」

 ナターリャちゃんは勢いよくわたしの元にやって来て、隣の場所へぼふっと腰を下ろした。

「あ、ずるいでナターリャはん! ご主人の隣はわいのもんや!」
「ぷるーん!」

 わいちゃんも、ナターリャちゃんとは反対側のわたしの隣に羽ばたいてくる。 
 サラは真っ直ぐにやって来たかと思ったら、ぽよんと跳ねてわたしの膝に乗った。
 これで、わたしの周りは左隣にナターリャちゃん、膝の上にサラ、右隣にわいちゃんという構図になった。

 そんな光景を見て、エミリーが微笑む。

「ふふ、コロネ様は大人気ですねぇ」
「ははは、まぁね。嬉しい限りだよ」

 この馬車はかなり広いから他にも座れるスペースはたくさんあるんだけど、わたしを中心としてみんな一ヶ所に固まっていた。
 ちょっとだけ狭くはあるんだけど、皆がわたしの周りに集まってくれて嬉しい気持ちの方が大きい。

 そしてエミリーがわたしから少し離れたななめ前の席に座ると、御者台の方からライツさんが声をあげた。

「皆さん、準備はよろしいでしょうかー!」
「はーい、大丈夫です!」
「了解しました! それではこれより、ラグリージュへ向けて出発いたします! 少々長旅になりますので、皆さんはごゆっくりおくつろぎください!」
「ありがとうございますー!」

 ライツさんはわたしたちに笑顔を向けてくれると、やがて背を向けて馬の手綱を握った。
 ややあって、ゴトリ……と車輪が動き出す。
 すごい!
 馬車が動いた!

「いよいよ出発だ! わたしたちの未踏の地――交易都市ラグリージュへ!!」

 わたしは高ぶるワクワク感を全開にしながら、動き出した馬車の中で力強く声をあげた。


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