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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第113話  思わぬトラブルが発生しちゃう、ぽっちゃり

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 各々準備を整えたわたしたちは、今から向かうラグリージュに期待を弾ませていた。

 わたしもクローゼットのスキルでイメチェンしたし、これで他の人にも違和感を持たれることはないだろう。
 ジャージという日本の衣服だとやっぱりちょっと目を引いちゃうから、わたしを探し回ってるとかいうダルガスに見つからないための策としても使える。
 まあ、衣服だけどうにかしても一番の特徴であるこのぽっちゃりである限り見つかるのは時間の問題だろうけどね。
 だからわたしは準備を終えたらさっさとラグリージュに向かう馬車に乗り込んで、穏便にこの街を出たかったんだけど……ここで一つの問題が発生していた。

「すみませんコロネ様……。他の停留所も確認したのですが、ラグリージュ行きの馬車はないみたいでして……」

 屋敷に帰ってきたエミリーの第一声は、馬車がないという事実だった。
 出発する準備が整ったわたしたちは屋敷の広間に集まっていたんだけど、その間エミリーはベルオウンの乗り合い馬車が停まる停留所に行って馬車の予約をしに行ってくれていた。
 だけど、結果はまさかの乗れる馬車なし!?
 それは予想外過ぎるって!

「ラグリージュってそんなに人気な街なの?」
「確かに観光客などは多いですが、普段は馬車がなくなるほどではありませんよ。これは恐らく、先の狂乱化騒動が関係しているのかと……」
「狂乱化騒動が?」
「はい。あの一件で商人を中心としてベルオウンから脱出する住民も相当数いたみたいですから。それに、ラグリージュは《魔の大森林》とは正反対の方角に位置する街ですので」
「……ああ、なるほど。魔物が街を襲ってくるってなったら、そりゃベルオウンから離れるよね」

 わたし的に狂乱化騒動といえば一番印象深いのはゴブリンロードなんだけど、そう言えばベルオウンの周辺にも結構な数の魔物がいたね。
 むしろ当時の街の住民からしたら目の前にいる魔物の群れの方がよほど脅威に見えたことだろう。
 事実、アーミータラテクトが何匹か街の城壁をよじ登ってきてたし、そんな状況だとパニックになって《魔の大森林》とは逆方向に逃げたくなるのもわかる。

「ちなみになんだけど、ラグリージュってここから遠いの?」
「馬車で二日ほどかかりますねぇ。早馬でしたら、一日半くらいで着くようですが」
「それじゃダメだね……」

 そこでわたしは、テーブルの上にちょこんと座っていたわいちゃんを見る。
 白い羽毛のようなもふもふボディが可愛らしい。
 見た目は可愛いもふもふの小動物だけど、わいちゃんの種族はたしか……。

「わいちゃんってドラゴン族だったよね? 巨大化とかしてわたしたちを背中に乗せていったりできない?」
「い、いやいやいや! 無茶言わんとってくださいなご主人! 確かに身体を大きくさせたり、人間に化けたりしよるドラゴンはおるけど、それは進化したもっと高レベルの個体ですわ! わいはまだまだドラゴン族の端くれやさかい、人間を乗せて飛び回るなんてとてもとても……」
「そっかぁ。いや、そうだよね。ごめんね、変なこと聞いて」

 この中で唯一、移動能力がありそうなわいちゃんでもダメか……!
 サラは自分の身体を何百倍にも大きくしたりできるから、ワンチャンわいちゃんもできるかと思ったんだけど、そう都合良くはいかないみたい。

 だけど、このままではどうやってもラグリージュには行けない。
 一体どうしたものか……。
 わたしが思案していると、ナターリャちゃんが沈んだ顔でわたしの袖を引っ張る。

「コロネお姉ちゃん、ラグリージュには行けないの……?」
「うーん、そうだなぁ」

 わたしは腕を組みながら考える。
 ラグリージュは絶対に行きたい。
 もうわたしはラグリージュのモードに入ってしまっているから、今さら中止になんてするつもりはない。
 だけど、ラグリージュには馬車を使わないと行くのは難しい。
 そして、ベルオウンの停留所にはラグリージュ行きの馬車はない。

 これらの問題を打開する案はないものか……!
 目をつむって思考を巡らせていると、一つの妙案を閃いた。

「あっ、そうだ! いいこと思いついた!」
「コロネお姉ちゃん、いいことって?」
「ふふん。こう言う時は――にお願いしてみよう!」

 首をかしげるナターリャちゃんに、わたしはしたり顔で応える。
 だけどこれだけでは説明不足だったのか、わたし以外の全員が頭の上に?を浮かべていた。


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