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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第105話  アルバートさんをげんなりさせちゃう、ぽっちゃり

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 クレアさんにおかわりを頼んだわたしはその後も我を忘れて食に没頭し、再び配膳カートにあった料理全てを食べ尽くした。
 だけどこれだけ食べてようやく少し冷静さが戻ってきた感じがする。
 多分、計二十人前くらいの料理は平らげたかな?
 まだまだ空腹感はあるものの、話をできるくらいには落ち着けたね。
 ちなみに、クレアさんは追加の料理を運んでくるために厨房へ戻っていたんだけど、わたしの食べるスピードがあまりに早すぎるので助っ人としてエミリーも厨房に駆り出されていた。

 ひとしきり脂っこい料理を食べ終えた後、ごきゅごきゅと水をがぶ飲みするわたしに、アルバートさんが控えめに切り出した。

「……そろそろ改めて本題に入りたいんだが、いいか?」
「うん! そこそこ食べたし、大丈夫だよ。あ、ご飯は食べながらでもいいかな?」
「ああ、食べながらで構わない。それでは単刀直入に聞こう。ゴブリンロードが現れたというのは本当か?」
「もぐもぐ、うん、本当だよ。わたしが、んぐんぐ、この手で倒したし、もぐもぐ」

 フライドチキンを食べながら答えると、デリックとレイラの二人以外が、息を呑んだ。
 間接的にゴブリンロードが現れたという情報は知っていたんだろうけど、いざわたしがその事実を証言するとやっぱり受け取り方が違うのかな。
 今までは不正確な情報だったけど、それが一気に現実味を帯びてくるもんね。

 アルバートさんは重苦しい声音で続けた。

「……それを証明できるか?」
「証明? えーっと、たしかデリックとレイラは倒したゴブリンロードの死体を見たんじゃなかったかな?」
「それは本当か? デリック、レイラ」
「ああ、はい。本当だと思います。ぶっちゃけ、俺はゴブリンロードがどんな姿をしてるのか知らないんで、あくまで推測ですけど……」
「しかし、明らかに通常のゴブリンとは異なる姿をしておりました。ゴブリンの上位種にしても、見たことがないほど肉体が巨大化しており、禍々しい魔力の残滓ざんしのようなものも感じました」
「そうか……」

 デリックとレイラの証言を聞いて、アルバートさんは少し考えた後、口を開いた。

「確認だが、そのゴブリンロードは確実に倒せたんだな?」
「倒せたと思うけど。ゴブリンロードの胸部にあった魔石も破壊したし」

 ゴブリンロードの胸部には今まで見たことがないくらい巨大な赤い魔石が埋め込まれていたからね。
 いや、あれは埋め込まれていたというより、もしかすると体内にあった魔石が極度に発達し過ぎて体外に突出してしまったのかもしれない。
 まあいずれにせよ、ゴブリンロードの魔石はわたしの極大魔法デストロイキャノンで跡形もなく消し飛ばした。
 魔石を破壊したら魔物は即死するようだし、仮に魔石がなかったとしてもさすがに胸に大穴が空いた状態では普通の魔物でも生きられないだろう。
 アルバートさんに確認されたのでゴブリンロードの死について考えていると、ふと疑問が浮かび上がってきた。

「あれ、わたしゴブリンロードの死体って回収したっけ?」

 ゴブリンロードを倒した後は、わたしの激痩せイベントがあって、デリックとレイラと出会って、それからレイラにおんぶで街まで帰ってきて……。
 あれ、もしかしてゴブリンロードの死体ってあのまま草原に放置してきちゃった?
 よく思い出してみても、ゴブリンロードを回収した記憶はない。

 すると、わたしのジャージにくっついていたサラがぽよんとわたしの膝の上に乗ってきた。

「ぷるん!」
「サラ、どうしたの?」
「ぷるるん!」
「あ、もしかしてゴブリンロードを回収してくれたの?」
「ぷるーん!!」
「おおお、ありがとうサラ~!」

 わたしは何も言っていないのに、サラは気を効かしてゴブリンロードを回収してくれていたみたいだ。
 さすがわたしの相棒のサラだね!

「コロネ、どうかしたのか?」
「ゴブリンロードの死体だけど、サラが回収してくれてるみたいだよ。何なら、この場で出そうか?」
「いやいや、やめろ! こんな所で出したらどんな事態になるか分からん! 俺はゴブリンロードの姿を見てないんだからな!」

 まあ、それもそっか。
 たしかにこの部屋は結構広めであるとはいえ、あくまで木製の普通の部屋だ。
 こんな所にゴブリンロードの巨体を出現させたら、最悪その重さに耐えきれずに床が抜けるかもしれないしね。

「それなら、後でギルドの解体部屋に置いていくよ」
「ふむ、あそこならば大丈夫か。では、そのようにしてくれ。俺もゴブリンロードがどんなものかこの目で確かめねばならないからな」
「ゴブリンロードに興味あるんだ」 
「個人的な興味もあるが、一番は領主としてだな。今回の狂乱化現象の原因がゴブリンロードだったならば、そのような報告書を国王陛下にお伝えせねばならないからな……」

 アルバートさんは気落ちしたようにうなだれた。
 何だろう、あんまり元気がないように見える。

「どうしたの? もしかして、国王様への報告書がめんどくさいの?」
「バ、バカなことを言うな! 国王陛下への対応が面倒な訳ではない! ただ、報告書の書き方などは頭を使わないといけないからな」
「そうなんだ。領主様も大変なんだね」
「……ふっ、随分と他人事だな。いや、まあこれは俺の仕事だから構わないんだが……こうも大規模な災害や周辺環境の変化などが起こると事後処理が煩雑になるのがなぁ。ああ、一応確認しておくが、今回の騒動で通常と際立った変化があったのはゴブリンロードの出現だけという認識で問題ないな?」
「うん、それだけだったと思うけど――」

 と、言い終えるところで、わたしはふと思い出した。

 たしかに明らかに異質だった魔物はゴブリンロードだけだったけど、『周辺環境』における際立った変化なら一つ……いや、二つほど心当たりがある。
 何だか気苦労に苛まれているアルバートさんに追撃を食らわすようで申し訳ないけど、ここで隠す方が後々問題が大きくなりそうだし、正直に伝えておこう。

「あ、そう言えば草原の一部が焼け野原になったり大地がえぐれたりしてるよ! あと、《魔の大森林》の地形もちょっと変えちゃったかも! いやぁ、うっかりうっかり! あははは~!」

 できるだけ雰囲気をなごませたいと思い、冗談めかして明るく笑ってみる。
 だけど、わたしの言葉を聞いたアルバートさんは、あんぐりと口を開けながら半ば放心状態となってしまった。




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