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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第100話  何とか誤魔化しちゃう、ぽっちゃり

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「俺はこの街で最も実力がある冒険者ギルドのギルドマスターだ。そんな俺が、ゴブリンロードを打倒するほどの冒険者とぜひ話をしてみたいと思うのは自然なことだろう?」

 ダルガスはわざとらしく笑いながら、わたしたちを真っ直ぐ捉える。
 そして、胡散臭い顔で続けた。

「なに、少し話をしたいだけだ。心配せずとも、それ以外のことは何もせんさ」
「そうか。たしかに、ギルドマスターならば、その通りなのだろうな」 
「……ククク」

 レイラの含みのある言葉に、ダルガスは下卑た笑みを浮かべる。
 こいつ、絶対少し話をするだけじゃないよね?
 まあ見るからに関わらない方がいいタイプの人種だから、そもそも話す気はないけどさ。

 いかにも悪どい笑みで応えるダルガスに、レイラは毅然とした態度で返答した。

「だが、生憎だ。私たちはコロネ殿の居場所は知らない」

 いいぞ!
 頑張れ、レイラ!
 そのまますっとぼけてこの場をやり過ごすんだ!!

「……お前、この期に及んでまだシラを切る気か。お前たちがコロネを助けに《魔の大森林》に向かったことは冒険者から聞いているぞ」
「たしかに私とデリックで《魔の大森林》に向かったが、そこにはもう誰もいなかった。なぁ、デリック?」
「あ、ああ! コロネはまだどっかで魔物でも倒してんじゃねぇのか?!」 

 レイラとデリックが協力してシラを切ってくれている。
 ちょっとデリックは怪しかったけど、何とかレイラの意図を察することができたようだ。
 ここで正直にわたしのことを話し出してたら、ちょっと一発グーパンが出ていたかもしれなかったけど、さすがデリックだね!

「コロネを探しているのは本当だが、俺とて最低限の特徴くらいは掴んでいる。何でも、ウチの冒険者も何人か世話になったことがあるようだからなァ」

 あー、多分これはわたしに喧嘩を売ってきた冒険者たちのことを言ってるんだね。
 たしかに、いきなりデブとかブタとか言ってののしってきたから、異世界に来て初日に何人かぶっ飛ばした記憶がある。

「話を聞く限りでは、デブの女だったと聞いているな。冒険者稼業をやりながらデブとは珍しい。最初は骨格が大きかったり、筋肉が発達していることの比喩としてデブと言っているのかと思っていたが、どうも違うようだ。本当に食いすぎによる脂肪の塊のような女らしい」
「…………」
「それに、デブと言うことは前衛の盾役のような役職かと思っていたが、どちらかと言えば戦士や武闘家に近いようだ。何でも、ウチの数人の男冒険者を一度に相手取り、全員顔や腹を殴られて一撃で沈められたそうだからな」
「……それが真実かは知らんが、何が言いたい?」
「一応ベルオウンの大通りや冒険者ギルド周辺は捜索した。今も俺の部下にコロネを探させている。しかし、いまだに情報にあったようなデブ女は発見できていない!」

 まあ、アンタのお目当ての人物は目の前にいるんだけどね。
 だけどこのダルガスとか言うおっさんが持っている情報は、わたしがぽっちゃり状態の時のもの。
 幸か不幸か、今のわたしは極度に激痩せしたことで別人に生まれ変わっているから、目の前で見てもわたしがコロネだって気づかないんだね。
 何たって、今のわたしはガリガリでぽっちゃりとは対極の体型をしている。
 いや、多分こっちが普通のスリムな女子の体型なんだろうけど、長年ぽっちゃりとして生きてきたわたしには一気に体に重量感がなくなってガリガリになった気分だよ。

「そう言えば、他にも変わった服装をしているとも言っていたな。たしか、赤を基調とした長袖長ズボンだったか。……そうそう、ちょうどそこのお前が来ているような服が近そうだが……」

 そう言って、ダルガスは初めてわたしに視線を向けてきた。

「……むっ? お前のその服……」

 や、やばい。 
 体型ではバレなかったけど、服装で勘づかれてしまったか……!?

 たしかに、異世界に来てわたしと同じような服を来ている人は見たことがない。
 てか、多分そもそとジャージなんていう服自体なさそうだ。
 でもジャージで外を歩いていてもちょっと街の人の視線を買う時はあるけど、別にそこまで悪目立ちするってこともなかった。
 それに、わたしも見たことがない変わった服装をした魔法使いらしき冒険者とかも何人か見たことがある。
 だから多分、他の人から見たわたしの服装もそんな感じに捉えられていたんだろう。
 ちょっと変わった服装をした魔法使いみたいな。
 だから今まで特に服装に関してあんまり考えたことはなかったんだけど、それがここに来て裏目に出るとは……!

「お前、その服はなんだ」
「は、はい? わたし、ですか?」
「そうだ、さっさと答えろ。その服はなんだ。この街ではあまり見かけない服装だが?」

 ま、まずい……!
 変に答えをはぐらかすと余計に怪しまれてしまいそうな感じだ。
 わたしは、何とか納得が行くような説明ができないかと頭を捻る。

「え、えーっと、これは……そう! 故郷の民族衣装? 的な……」
「民族衣装だと? どこの出身だ」
「えっとー、ヤマト国の近く? みたいな……。あ、でもかなり辺鄙へんぴな場所にある村なんで、地図とかには載ってないかもですねぇ~……」
「……そうか。ヤマト国は島国ゆえ、我が国では馴染みのない服装をしているのも頷けるが……。それで、お前は冒険者なのか」
「は、はぁい……まあ、冒険者っちゃ冒険者? みたいなぁ……」

 目をそらしながら答えたけど、これで誤魔化せたかな……?
 でも、ダルガスは無言でわたしを凝視している。
 だけど、わたしは冷や汗を流しながら機械的な笑みを浮かべるしかない。

 しばしダルガスがわたしをいぶかるような目を向けていると、レイラがわたしを守るように前へ出てくれた。

「もういいだろう。彼女は魔物との戦いで疲労が激しいのだ」
「……フン、そうか。では最後に、お前はコロネという冒険者を知っているか」
「いや、全く聞いたこともないです」

 これはキッパリと答えることができた。
 ここだけははっきりしとかないといけないからね。
 変に口ごもる必要もないし、さっさとわたしから視線を外してほしい。

 だけどダルガスは即座に納得することはなく、目を細めながらわたしを見てくる。

「……一応聞いておくが、お前の名前はなんという」
「えっ」

 わ、わたしの名前だと……!?

 ダルガスの予想外の質問に、わたしの心臓がドキリと嫌な鼓動を打った。





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