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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第83話  狂乱化の原因について仮説を立てちゃう、ぽっちゃり

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 ゴブリンロードが放った、赤黒い波動。
 不吉を予見させるその波動が周囲全体に広がり、やがて《魔の大森林》がざわめき始める。
 そして、荒々しい獣たちの足音が森から飛び出してきた。
 予想外の事態に、わたしは目を見開く。

「うわっ!? 大量のゴブリンたちが出てきた!!?」

《魔の大森林》から現れたのは、ゴブリンたちの軍勢。
 その数は優に百を超えていて、棍棒や杖などの武器を携帯しているゴブリンもいる。

「トツゲキ、セヨ……!」

 ゴブリンロードが地面に刺した剣を引き抜き、その剣先をわたしに向けて号令をかけた。
 それに従うように、ゴブリンたちは闘争本能むき出しの叫び声をあげながら一斉にわたしに向かってくる。

 さ、さすがはゴブリンロード。
 単体としての強さだけじゃなく、部下のゴブリンを統率する力もあわせ持っているのか……!

 てっきりゴブリンロードとのタイマンだと思っていたから驚いたけど、そんな単純な突進攻撃なら対応できる。

魔力カロリーを貯めて……スパークリングボム!!」

 わたしは右手に電撃エネルギーを貯め、突撃してくるゴブリンたちに放つ。
 ゴブリンたちは真正面からわたしの電撃魔法を食らい、数十体ほど倒れた。
 だけど、まだ全てを倒しきれてはいない。
 なので続けてスパークリングボムを発動しようとしていると、突然炎の球が飛来してきた。

「うおっ! これ、ファイアボール?」

 その程度の攻撃はわたしのバリア魔法で防げるから何てことはないけど、魔法を使ってくる魔物は珍しいから、こうして反撃されるのは新鮮だ。
 そう言えば一昨日ギガントボアの背中から脱出する時も炎の魔法を撃ってきたゴブリンがいたね。
 わたしは試しに、杖を持ったゴブリンを鑑定してみる。

 ―――――――――――――――――――
 名称:ホブゴブリン

《魔の大森林》に生息する魔物。
 ―――――――――――――――――――

 ホブゴブリンか。
 ゴブリンの上位種みたいな感じなのかな。
 普通のゴブリンよりも能力が高いから、魔法なんていう高等技術も扱えるんだね。

 そう言えば、昨日見て回ったベルオウンの市場にもホブゴブリンの生き血とか売ってたなぁ……。
 最初見た時はどこに需要があるのかとこの街の住民の感性を疑ったけど、多分あれ魔食ましょくだったんだろうね。
 魔食ましょくは不味いっていうのがよく分かる一品だけど、その食材の主が今わたしに魔法攻撃をしてきている。

「全部バリアで防いでるけど、さすがに数が多いね……! これバリア使えなかったらまともに戦えないんじゃないの?」

 一発一発の威力はそこまで高くはないけど、休む暇もないくらいバカスカと色々な方角から炎や風や土系統の魔法が撃たれまくっている。
 お返しにわたしもスパークリングボムを三発ほどお見舞いした。
 すると少しだけ攻撃が止むけど、すぐに遠くから魔法が飛んでくる。
 まさにいたちごっこだ。

「うーん、これ地上戦だと時間かかりそうだね。ちょっと戦い方を変えようか」

 地上戦でも戦えないことはないけど、もっと広範囲を面で捉えられる戦法の方が効率が良さそうだ。
 というわけで、わたしは魔力の質を変え、空に浮かぶイメージで魔法を発動する。

「発動、スカイフライ!」

 魔法を発動した瞬間、わたしの体がふわりと宙に浮き、グイーンと真上に上昇していく。
 そして三十メートルくらい地上から離れると、さっきよりもゴブリン軍団の侵攻状況がよく見えた。

 これなら、わたしが攻撃するエリアも自分で選ぶことができる。

「それじゃ手始めに、スパークリングボム三連!!」

 右手の上に球体のスパークリングボムを三個作り出し、それぞれ別のエリアへ向けて解き放つ。
 狙いは、ホブゴブリンが密集している場所だ。
 普通のゴブリンは近接攻撃しかないから近づけなければ何も問題はないけど、遠距離攻撃の選択肢を持っているホブゴブリンは何かと厄介だからね。
 優先的に倒しておいた方がいいだろう。

 さっきまでとは違い、頭上から迫り来るスパークリングボムになす術もなくゴブリンたちは倒れていく。

「よし! これでホブゴブリンは結構数が減ったと思うけど……」

 わたしの狙いどおり、ホブゴブリンが密集しているエリアで爆発したスパークリングボムによって、わたしに向かってくる魔法攻撃は数が減った。
 だけど、その後続やギリギリわたしの魔法の範囲外にいたゴブリンたちは、目の前にいた自分の仲間が殲滅される光景を見てもひるむことなく特攻してくる。

「さっきいた魔物の群れと同じような感じか……」

 ゴブリンロードと出会う前、この《魔の大森林》の入り口にまで来るときに襲いかかってきた多種多様の魔物たち。
 それらは全部わたしがスパークリングボムで沈めた訳だけど、その魔物たちも仲間がやられていてもお構いなしに侵攻を止めなかった。
 わたしは狂乱化になる前の魔物とも戦った経験があるけど、ゴブリンもオークもアーミータラテクトもある程度の味方がやられたのを理解すると残りの個体は諦めて逃げ出したからね。

「それでも突撃してくるのは、普通に考えて狂乱化が原因なんだろうけど……何か引っ掛かるな」

 このゴブリンたちは確かに狂乱化を発症したような行動をしているけど、オリビアの説明だと狂乱化になった魔物は命が尽きるまで見境なく周囲の生物に攻撃をし始めると言っていた。
 つまり狂乱化を発症してしまうと、知能や危機察知能力がなくなるということだよね。
 だけど、このゴブリン軍団はボスであるゴブリンロードの命令に従っているように見える。

「そもそも、本当に知能も理性も失ってるなら、ゴブリンロードの命令になんて従えないよね。むしろ、わたしよりもゴブリンロードの方が近くにいるんだから、ゴブリンロードの方に攻撃をしたってよくない?」

 だけど、ゴブリンたちは決してゴブリンロードには手を出さない。
 それぞれのゴブリンが自分の好き勝手に動き回るんじゃなく、《魔の大森林》から一直線にわたしの方へ向かってきているからね。

 これだと、わたしに突撃しろというゴブリンロードの命令を忠実にこなす教育された兵隊のようにしか見えない。

「それに、もし最初から狂乱化になっていたんだとしたら、ゴブリンロードが赤黒い波動を放出した瞬間に襲いかかってくるのもおかしいよね? タイミングが良すぎるというか……。狂乱化になると理性がなくなるわけだから、わたしとゴブリンロードが戦っている最中でも構わず攻撃してきてたはずだし」

 となると、もしかしてこの狂乱化は自然現象として発生しているわけではなかったり?
 その方向で考えてみると、一つの仮説が思い浮かんだ。
 これなら一応、いま目の前で起こっている現象を全て説明できる。

 つまり、このゴブリンたちは最初から狂乱化になっていた訳じゃなくて、としたら?


「まさか狂乱化の原因……あのゴブリンロードだったりしない?」


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