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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第71話  個人的な買付を相談しちゃう、ぽっちゃり

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 今日でこの屋台を閉店してしまうというおじさん。
 だけど、こんなに美味しいご飯をみすみす逃してしまうのはもったいない!
 だからわたしは、思いきって余っているお米を全部売ってくれないかと相談した。

 おじさんは、目を見開いて驚きをあらわにする。

「の、残りの米全部たって……アイテム袋にしまってるから見えてないが、あと十俵はあるぞ?」
「十俵も!? そんなにあるなんて最高じゃん!」
「お、おいおい嬢ちゃんは『俵』の単位を理解してるのか? 一俵だけでも、お茶碗で数百杯分あるんだぞ!?」

 おじさんは焦りながら教えてくれるけど、もちろんわたしも一俵がどれくらいかは何となくわかる。
 まあ現物は見たことないけど、あれだけのお米があればしばらくはご飯を存分に食べ続けることができるはずだ。

「全然問題ないよ! あ、あとメニューにあったおかずとかも残ってる分を買い取りたいんだけど、いいかな?」

 一俵あたり数百杯分のご飯があるなら、十俵なら数千杯……!
 あと数千杯もこんなに美味しいご飯を食べられるなんて、最高の贅沢すぎる!
 頭の中が大盛りご飯たちで埋め尽くされていく。

 しかもそれに加えて魚の干物やらシャケほぐしやらごま昆布やらといった、ご飯のお供までセットでついてくるのだ!
 異世界にここまで日本と近い食材や料理があるとは思わなかったから、これらのメニューは是が非でもゲットしたい……!!

「それで、もし全部売るとしたらいくらぐらい?」
「そ、そうだな。米は一俵あたり大金貨一枚だ。だから十俵になると白金貨はっきんか一枚になる。メニューのおかずに関しては……ざっと大金貨三枚くらいか」
「なるほどなるほど。全部で白金貨はっきんか一枚と大金貨三枚だね。それじゃ、はい」

 わたしはアイテムボックスからキラキラと輝く白金貨はっきんかと大金貨を出した。
 そのお金をおじさんは、仰天して変な声をあげた。

「こ、こいつは驚いたな。嬢ちゃんみたいな子がポンッと出せる額じゃないと思うんだが……。いや、隣に座ってるのは領主様の娘さんだし、もしかして嬢ちゃんも貴族様だったりするのか……?」
「いや、わたしはただの一般人だよ。貴族はこのオリビアだけだから、安心してね」

 まあ白金貨はっきんか一枚と大金貨三枚を日本円に換算したら、だいたい百三十万円ほどの額だからね。
 こんな大金を簡単に出すなんて、たしかにリッチな貴族と思われても仕方ないかもしれない。
 わたしはただのぽっちゃり冒険者だから、気楽にしてほしい。

「そ、それじゃあ、たしかに料金をいただいた。品を渡すから、ちょっと屋台の外に出てくれるか。中だととても出せる量じゃないんでな」
「わかったよ!」 

 わたしは席を立って、屋台の外に出る。
 おじさんも屋台の裏側から表へ出てきた。

「なになに~! コロネお姉ちゃんお米を買ったの~?」
「何の迷いもなく白金貨はっきんかを出して大人買いとは……コロネさんはそんなにもご飯が大好きなのですね」
「いや、コロネ様のこの食欲は異常な域では……」
「なんや、ご主人はこのお米をうたんか! わいもたくさんのお米がどんなんか見たいで!」
「ぷるーん!」

 わたしとおじさんが屋台の外へ出ると、なぜか皆もぞろぞろと表へ出てきた。
 どうやら、おじさんから購入した商品がどんなものか気になっているみたいだ。

「ここら辺は人通りもそんなにないから、一気に出しちまっても問題ないか。それじゃ、まずはヤマト米、十俵だ」

 おじさんは巾着みたいな袋を取り出すと、その巾着の口を開ける。
 すると、中から光の渦のようなものが湧きだして地面に広がる。
 そしてその光が収まると、そこには積み重なる大きな米俵が鎮座していた!

「うおおおお! これが十俵もの米俵! こうして見ると迫力があるね!!」
「すごーい! お米がたくさんだぁー!」
「ぷるーん!」

 米俵を数えてみると……うん、たしかに十俵ちょうどあるね。
 ピラミッド状に積み重なる米俵は何とも壮観だ。
 わたしは俵の中にぎっしりと詰まっているお米に思いを馳せながら、アイテムボックスを発動し、十俵の米俵を回収した。

「次はおかずのメニューだな。ざっくばらんなまとめ方になるが、許してくれ」

 そう言うと、おじさんは同じようにアイテム袋から食材を取り出す。
 すると、一枚の大きな敷物の上に無数のビンや木箱、紙パックが出てきた。
 それぞれのおかずは色々な梱包のされ方をしているようだ。

「どれに何が入っているかは、分かりやすく表面に書いてあるはずだ。確認してくれ」
「ふむふむ、このビンに入ってるのが梅干しとシャケほぐしで、こっちの木箱がごま昆布と干物、そして紙パックに入ってるのは卵とお茶漬けのお茶っ葉だね!」
「ああ。特に卵は腐りやすいから生で食べるなら気を付けてくれ。他のは、開封しなければ三ヶ月はつだろう」
「わかったよ! ありがとう!」

 親切に忠告してくれたおじさんに感謝しつつ、わたしは全てのおかずたちをアイテムボックスで回収する。
 これにて、わたしが購入した食材は全て入手することができた。
 無事に取引は完了だ。

 おじさんは嬉しいながらもまだ驚きが抜けないような表情で、ポリポリと頭をかいた。

「しっかし、嬢ちゃんには驚かされることばかりだな。本当はこの余った食材に関してはヤマト国に帰る道中で立ち寄る、ラグリージュで売ろうと思っていたんだが……その必要もなくなっちまった」
「ん、ラグリー……?」
「交易都市ラグリージュですね。ノルヴァーレ王国最大規模の港湾を有していて、王国の貿易窓口として機能している都市です」

 聞きなれない単語に、オリビアが補足して説明してくれる。
 なるほど、ラグリージュっていうのは街の名前だったのか。

「交易都市なんて街があるんだね。このベルオウンみたいな所なの?」
「いえ、あの街はベルオウンよりも圧倒的に栄えております。王国を代表する大商人が何人も住んでおり、貿易の中心地であることから経済活動も活発で、ジャンルを問わず様々な国の物品が街を埋め尽くしていますね」
「そうだな。俺も何度かラグリージュには滞在したことがあるが、とにかく活気がスゴい街だったな」

 へぇ、そんな楽しそうな街があるんだ。
 これはまた後日遊びに行ってもいいかもしれないね。

 わたしがそんな呑気なことを考えていると、突如とつじょ街の雰囲気が一変する。


 ――――カーンカーンカーン!!
 ――――カーンカーンカーン!!!


 ベルオウンの街中に、妙に心をざわつかせる大きな鐘の音が何度も鳴り響いた。


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