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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第60話 お屋敷を受け取らされちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むオリビアに連れ出され、三十分も馬車に揺られて案内された先にあったのは、一軒の豪邸。
そしてこの豪邸こそが、オリビアが言うわたしへのお礼の品らしい。
「いやいやいやいや! こんな豪邸、お礼の品なんて軽い言葉で片付けていいモンじゃないから! 受け取れるわけないでしょ!?」
目の前には立派な門があり、その向こうには広大な庭が広がっている。
これだけ広ければ、家庭菜園でもしたら自給自足できるのではないかと思うくらいだ。
そして庭の奥には大きな屋敷。
いかにも貴族やら大商人やらが住んでいそうな豪邸だ。
さすがにオリビアの屋敷よりはレベルが低いけど、それでも一般市民が住むには明らかに分不相応すぎる。
「でっかい家でんなぁ! こんな家をプレゼントされるなんて、さすがはご主人や!」
「ぷるんぷるーん!」
大層ご立派なお屋敷を見て、わいちゃんはパタパタとちっちゃな翼をはばたかせて、サラはぽよんぽよんと跳ねてテンションを上げている。
どうやら従魔組はオリビアのプレゼントが気に入ったようだ。
だけど、この子たちはわかっていない。
わたしの元いた世界では、タダより怖いものはない、という言葉もある。
いかに命を救われた恩人へのお礼の品と言えども、こんな屋敷をポンとプレゼントされて簡単には受け取れない。
オリビアは貴族だからお金は持ってるんだろうけど、ここまで豪華すぎるプレゼントを貰ってしまっては、何か裏があるのではないかとわたしの中に疑念が生まれてしまう。
わたしが屋敷のプレゼントに及び腰になっているのを見て、オリビアは口に手を当てて微笑んだ。
「ふふ、どうかお気になさらないでくださいコロネさん。こちらの屋敷は元々我がウォルトカノン家が上級使用人の住居として所有していたものなのです。しかし、ロックドラゴン襲撃とその後の不況により以前の使用人はみな辞めてしまい、ここにはもう誰も居住しておりませんので。実は三年ほど前から売りに出していた物件なのですが、このまま放っておいても買い手がつきそうにないのでそれならばと今回コロネさんにプレゼントしようと思った次第なのです」
「いや、それにしたってさすがにこのお屋敷は……」
「たしかに外装は立派ですが、見た目ほど高値がつく物件でもないのです。実際、ロックドラゴン襲撃時にはこの屋敷の一部が破壊されたのですが、その補修も最低限のものです。それにしばらく放置しておりましたので住むには一度清掃する必要があるという欠点もございます」
「……それってつまり、所有し続けてるだけでも維持費とかがかかるから、それならいっそわたしにあげちゃおうってこと?」
「そ、そういう捉え方もできるかもしれません。ですが、コロネさんにとっても悪くないと思います! 不安定な宿屋生活から抜け出して夢のマイホームを持てちゃうんですよ!? マイホームは冒険者の憧れだと聞きますよ!!」
夢のマイホームって異世界でも共通なんだね。
みんなマイホームは欲しいものなのか。
そう言えば一昨日クレアが別れ際に、広い家に住めるようになれば一人前だ、みたいなこと言ってたね。
たしかクレアが組んでるデリックのパーティは大きな家を購入して、そこでパーティメンバーと住んでるんだっけ。
もしわたしがこのお屋敷を受け取ったら、ナターリャちゃん、サラ、わいちゃんと一緒に住むことができるんだね。
しかもタダで貰ってるから、これから宿屋で暮らすよりも家賃とかは格段に安くなる。
お金がかかるところといえば屋敷の清掃費と補修費くらい?
それくらいのお金なら多分わたしのお金で払えるかな?
「……そう考えるとちょっと欲しくなってきたかも」
「本当ですか!? さすがはコロネさんです!」
「コ、コロネお姉ちゃん。ホントにこんな凄そうなお屋敷もらっちゃっていいの?」
「うーん、そうだなぁ……」
わたしはスッとオリビアを見る。
そしてスススッとオリビアに接近すると、華奢な肩をガシッとつかむ。
「一応確認しておくけど、このお屋敷をもらったからといってわたしに何かさせたりするつもりではないよね? 何か裏があるならできれば今言って欲しいんだけど」
「う、裏だなんて滅相もないです! このお屋敷は私がお父様に直接掛け合って、話し合いの末に勝ち取ったものです! たしかにコロネさんがこの街に住んでくれたらいつでも会いに行けるな~とは考えましたけど、コロネさんを騙すようなつもりは一切ないとウォルトカノン家の名にかけて誓います!!」
オリビアは真っ直ぐな瞳でわたしを見つめて断言する。
その目は、とても嘘をついているようには見えない。
いや、そもそも出合った時からオリビアは平気で嘘をつくようなタイプの子には見えなかった。
貴族令嬢の割には傲慢さは感じられないし、わたしやナターリャちゃんみたいな一般人相手でも同じ目線で接してくれる。
こんな素直な子がわたしを騙すような真似をするはずがないよね。
ただ、貴族ゆえかプレゼントの金銭感覚がずれていただけなのだろう。
ここで断ってしまったら、オリビアの想いを無下にすることになっちゃうね。
「……そうだよね。疑ってごめんオリビア。こんな豪邸をもらうのは初めてだったから、つい疑心暗鬼になっちゃって」
「いえ、お気になさらないでください。普通の方でしたら、皆さん同じ反応をなされたと思います。それでコロネさん。こちらのお屋敷は――」
「うん。オリビアの気持ち、ありがたく受け取らせてもらうよ!」
わたしが屋敷を受け取る意思を示すと、オリビアはぱっと笑顔になる。
「ありがとうございます! コロネさん、大好きです!」
「おっ、と!」
オリビアは嬉しそうな表情でわたしに抱きついてくる。
いきなり抱きついてきたから驚いたけど、バランスは崩さずオリビアを受け止める。
年の割には大人っぽい印象があったオリビアだけど、こう見ると意外と甘えん坊なのかもしれない。
「ずるいオリビアちゃん! ナターリャもっ!」
抱きつくオリビアに対抗して、ナターリャちゃんもわたしに抱きついてくる。
ナターリャちゃんもまだまだ甘えたがり盛りだね。
しばらくの間オリビアとナターリャちゃんの頭をなでなでして甘やかしていると、満足したのかオリビアがおずおずと離れる。
「ありがとうございますコロネさん!」
「もう大丈夫?」
「はい!」
「ナターリャちゃんは?」
「うぅぅ、ナターリャはもう少しぃ……」
ナターリャちゃんはまだ甘え足りないみたいだ。
そんな可愛らしい姿をオリビアは微笑ましそうに見ていると、一つ提案してきた。
「せっかくなので、お屋敷の中を少し見てみませんか?」
「え、今からこのお屋敷の中を?」
「はい! いざ、お屋敷探検ですっ!」
オリビアはぐっと拳を握り、元気に宣言した。
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