上 下
61 / 217
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第60話  お屋敷を受け取らされちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

 オリビアに連れ出され、三十分も馬車に揺られて案内された先にあったのは、一軒の豪邸。
 そしてこの豪邸こそが、オリビアが言うわたしへのお礼の品らしい。

「いやいやいやいや! こんな豪邸、お礼の品なんて軽い言葉で片付けていいモンじゃないから! 受け取れるわけないでしょ!?」

 目の前には立派な門があり、その向こうには広大な庭が広がっている。
 これだけ広ければ、家庭菜園でもしたら自給自足できるのではないかと思うくらいだ。
 そして庭の奥には大きな屋敷。
 いかにも貴族やら大商人やらが住んでいそうな豪邸だ。
 さすがにオリビアの屋敷よりはレベルが低いけど、それでも一般市民が住むには明らかに分不相応すぎる。

「でっかい家でんなぁ! こんな家をプレゼントされるなんて、さすがはご主人や!」
「ぷるんぷるーん!」

 大層ご立派なお屋敷を見て、わいちゃんはパタパタとちっちゃな翼をはばたかせて、サラはぽよんぽよんと跳ねてテンションを上げている。
 どうやら従魔組はオリビアのプレゼントが気に入ったようだ。
 だけど、この子たちはわかっていない。
 わたしの元いた世界では、タダより怖いものはない、という言葉もある。
 いかに命を救われた恩人へのお礼の品と言えども、こんな屋敷をポンとプレゼントされて簡単には受け取れない。
 オリビアは貴族だからお金は持ってるんだろうけど、ここまで豪華すぎるプレゼントを貰ってしまっては、何か裏があるのではないかとわたしの中に疑念が生まれてしまう。

 わたしが屋敷のプレゼントに及び腰になっているのを見て、オリビアは口に手を当てて微笑んだ。

「ふふ、どうかお気になさらないでくださいコロネさん。こちらの屋敷は元々我がウォルトカノン家が上級使用人の住居として所有していたものなのです。しかし、ロックドラゴン襲撃とその後の不況により以前の使用人はみな辞めてしまい、ここにはもう誰も居住しておりませんので。実は三年ほど前から売りに出していた物件なのですが、このまま放っておいても買い手がつきそうにないのでそれならばと今回コロネさんにプレゼントしようと思った次第なのです」
「いや、それにしたってさすがにこのお屋敷は……」
「たしかに外装は立派ですが、見た目ほど高値がつく物件でもないのです。実際、ロックドラゴン襲撃時にはこの屋敷の一部が破壊されたのですが、その補修も最低限のものです。それにしばらく放置しておりましたので住むには一度清掃する必要があるという欠点もございます」
「……それってつまり、所有し続けてるだけでも維持費とかがかかるから、それならいっそわたしにあげちゃおうってこと?」
「そ、そういう捉え方もできるかもしれません。ですが、コロネさんにとっても悪くないと思います! 不安定な宿屋生活から抜け出して夢のマイホームを持てちゃうんですよ!? マイホームは冒険者の憧れだと聞きますよ!!」

 夢のマイホームって異世界でも共通なんだね。
 みんなマイホームは欲しいものなのか。
 そう言えば一昨日クレアが別れ際に、広い家に住めるようになれば一人前だ、みたいなこと言ってたね。
 たしかクレアが組んでるデリックのパーティは大きな家を購入して、そこでパーティメンバーと住んでるんだっけ。
 もしわたしがこのお屋敷を受け取ったら、ナターリャちゃん、サラ、わいちゃんと一緒に住むことができるんだね。
 しかもタダで貰ってるから、これから宿屋で暮らすよりも家賃とかは格段に安くなる。
 お金がかかるところといえば屋敷の清掃費と補修費くらい?
 それくらいのお金なら多分わたしのお金で払えるかな?

「……そう考えるとちょっと欲しくなってきたかも」
「本当ですか!? さすがはコロネさんです!」
「コ、コロネお姉ちゃん。ホントにこんな凄そうなお屋敷もらっちゃっていいの?」
「うーん、そうだなぁ……」

 わたしはスッとオリビアを見る。
 そしてスススッとオリビアに接近すると、華奢な肩をガシッとつかむ。

「一応確認しておくけど、このお屋敷をもらったからといってわたしに何かさせたりするつもりではないよね? 何か裏があるならできれば今言って欲しいんだけど」
「う、裏だなんて滅相もないです! このお屋敷は私がお父様に直接掛け合って、話し合いの末に勝ち取ったものです! たしかにコロネさんがこの街に住んでくれたらいつでも会いに行けるな~とは考えましたけど、コロネさんを騙すようなつもりは一切ないとウォルトカノン家の名にかけて誓います!!」

 オリビアは真っ直ぐな瞳でわたしを見つめて断言する。
 その目は、とても嘘をついているようには見えない。
 いや、そもそも出合った時からオリビアは平気で嘘をつくようなタイプの子には見えなかった。
 貴族令嬢の割には傲慢さは感じられないし、わたしやナターリャちゃんみたいな一般人相手でも同じ目線で接してくれる。
 こんな素直な子がわたしを騙すような真似をするはずがないよね。
 ただ、貴族ゆえかプレゼントの金銭感覚がずれていただけなのだろう。
 ここで断ってしまったら、オリビアの想いを無下にすることになっちゃうね。

「……そうだよね。疑ってごめんオリビア。こんな豪邸をもらうのは初めてだったから、つい疑心暗鬼になっちゃって」
「いえ、お気になさらないでください。普通の方でしたら、皆さん同じ反応をなされたと思います。それでコロネさん。こちらのお屋敷は――」
「うん。オリビアの気持ち、ありがたく受け取らせてもらうよ!」

 わたしが屋敷を受け取る意思を示すと、オリビアはぱっと笑顔になる。

「ありがとうございます! コロネさん、大好きです!」
「おっ、と!」

 オリビアは嬉しそうな表情でわたしに抱きついてくる。
 いきなり抱きついてきたから驚いたけど、バランスは崩さずオリビアを受け止める。 
 年の割には大人っぽい印象があったオリビアだけど、こう見ると意外と甘えん坊なのかもしれない。

「ずるいオリビアちゃん! ナターリャもっ!」

 抱きつくオリビアに対抗して、ナターリャちゃんもわたしに抱きついてくる。
 ナターリャちゃんもまだまだ甘えたがり盛りだね。
 しばらくの間オリビアとナターリャちゃんの頭をなでなでして甘やかしていると、満足したのかオリビアがおずおずと離れる。

「ありがとうございますコロネさん!」
「もう大丈夫?」
「はい!」
「ナターリャちゃんは?」
「うぅぅ、ナターリャはもう少しぃ……」

 ナターリャちゃんはまだ甘え足りないみたいだ。
 そんな可愛らしい姿をオリビアは微笑ましそうに見ていると、一つ提案してきた。

「せっかくなので、お屋敷の中を少し見てみませんか?」
「え、今からこのお屋敷の中を?」
「はい! いざ、お屋敷探検ですっ!」

 オリビアはぐっと拳を握り、元気に宣言した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。 そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。 プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。 しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。 主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。 孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。 その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。 多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。 「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」 「君にだけは言われたくなかった」 ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数! 圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。 ===========目録====================== 1章:お爺ちゃんとVR   【1〜57話】 2章:お爺ちゃんとクラン  【58〜108話】 3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】 4章:お爺ちゃんと生配信  【239話〜355話】 5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】 ==================================== 2020.03.21_掲載 2020.05.24_100話達成 2020.09.29_200話達成 2021.02.19_300話達成 2021.11.05_400話達成 2022.06.25_完結!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

転生した先は…悪役令嬢と学園とクリスタルと宇宙人たち⁉︎そしてバッドエンドへ

Y.Itoda
ファンタジー
中世ヨーロッパ風の異世界に転生したエリザベスとマーガレットは、名門学園で平穏な日常を送っていたが、異世界からの勢力の干渉に直面する。 学園を守るために奮闘する中で、勇敢な戦士セリナが命を落とし、最終決戦では異世界の勢力に学園が完全に崩壊される。 エリザベスとマーガレットは、希望を胸に絶望的な未来に向かって歩むが、物語は悲劇的な結末を迎える。

恋人になったはいいけど、お互いにバリネコだった件

丸井まー(旧:まー)
BL
タイトルまんまなお話です。 ディアルドは、同じ軍人のダグラスと恋人になったはいいが、初セックスを始めるとなった時に、お互いがバリネコだということが判明した。二人で大人の玩具を買いに行き、にゃんにゃんリバセックスを始める。 中性的な美形&女性的な美形のリバ! ※全力でリバです! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております!

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...