上 下
57 / 247
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第56話  パーティで夕食を囲んじゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

「ふぅ~! 危なかったぁ! ギリギリ晩ご飯に間に合って良かったね、ナターリャちゃん!」
「う、うん……」

 わたしとナターリャちゃんは、テーブルを挟んで向かい合って座っている。
 ここはルカの宿屋の食堂だ。
 周りには、同じ宿泊客であろうおじさんたちが談笑しながら料理の到着を待っていたり、中にはもうご飯を食べている人もいる。
 美味しそうな匂いが漂ってきて大変けしからん。
 
「でも、お姫様抱っこで突っ走るのは恥ずかしかったよぉ……」

 爽やかに汗を拭うわたしとは対照的に、ナターリャちゃんはぐったりと疲れた様子だ。
 さっきのお姫様抱っこが効いているみたい。
 ごめんよ。
 さっきはああしないと晩ご飯がなくなっていたかもしれなかったから、仕方なかったんだよ。

 わたしが心の中でナターリャちゃんに謝罪していると、同じくテーブルの上でくつろぐわいちゃんがサラに話しかける。

「と、突然ご主人が暴走しだすから何事かと思ったんやけど、この店のご飯が目当てやったんか……」
「ぷるん!」
「サラはん、ご主人はご飯のことになるとこないに暴走してまうんか?」
「ぷるーん!」

 サラはジャンプして元気良く答えた。
 どうやら、サラにも食いしん坊キャラだと思われているようだ。
 それに関しては全く否定のしようがないので黙るしかない。
 わたしは食に生きている女だからね。

「お待たせしましたー! こちら本日の夕食のオークステーキになりまーす!」

 ナターリャちゃんたちと談笑していると、ルカがお盆に乗せた料理を運んできてくれた。
 お皿の上には、こんがり焼き目がついた大ぶりのトンテキ。
 トンテキの横には彩りとしてのキャベツの千切りとトマトが添えられている。

「おおおおお!! これがオークステーキか! とっても美味しそう!」
「もう、コロネさん遅いから本当に夕食抜きになっちゃうかと思いましたよ~」
「あはは、ごめんごめん。でも、間に合うように飛ばしてきた甲斐があったよ」
「そんなにウチの宿の料理を気に入っていただけて嬉しいです」

 ルカは嬉しそうに笑いながら、パンやスープ、水などを用意してくれる。
 そしてふと、ルカの視線がナターリャちゃんに向いた。

「それで……こちらの女の子はコロネさんのお知り合いですか?」
「うん。ナターリャちゃんっていうんだ。今日からわたしのパーティメンバーになったの」
「へぇ~! コロネさんのパーティの方なんですか!」
「ナターリャです。よ、よろしくお願いします」
「私はルカです……って、さっき受付した時に言いましたっけ」

 ナターリャちゃんは、とりあえずこの宿屋に二泊することにしたみたいだ。
 理由は、わたしが泊まる残り日数が二泊だから、それに合わせただけみたい。
 そして、たしかに二泊分のチェックインを済ませるときにナターリャちゃんはルカと話していた。
 だから二人とも本当に初めましてって訳でもないね。

「そしてもう一人、今日から仲間になった子がいるんだ!」
「わあ、もふもふ!」

 わたしはテーブルでくつろいでいたわいちゃんを持ち上げて、ルカの前に置く。
 わいちゃんのまんまるもふもふボディを見て、ルカも驚いている様子だ。

「んん? なんやご主人?」
「わいちゃんも紹介が必要かと思ってね。この宿屋で働いてる、ルカだよ」
「ルカです。よろしくお願いします、もふもふさん」
「おお! これはえらいご丁寧におおきに! わいはフラッフィードラゴンのわいちゃんや! 気軽にわいちゃんって呼んでくれや!」
「ふふふ、わいちゃんなんて可愛い名前ですね」

 ルカはわいちゃんがちょこんと差し出した小さな手を握り、握手をする。
 そして、わいちゃんの体をぽふぽふともふった。

「わあ、もふもふで気持ちいいですね~」
「せやろ! わいの自慢のボディや!」

 堂々たるたたずまいでもふられているわいちゃん。
 ルカはひとしきりもふると満足したのか、手を離した。
 
「それにしても、えらい美味そうな匂いでんなぁ~! これが人間の食べ物なんか!」

 わいちゃんはわたしのお皿に乗るオークのトンテキを興味津々な瞳で眺める。
 口の端からは、少しよだれが垂れていた。
 今日の晩ご飯も本当に美味しそうだね。
 そこでわたしは、ふとお皿に乗ったパンに目がとまった。

「そう言えば、今日はご飯じゃないんだね」
「あ、ごめんなさい。お米は昨日の分でなくなっちゃいまして。元々、あまり大量に入荷できていたわけではなかったので……」
「ううん! パンでも全然美味しいから気にしないでよ! あ、それとこの料理なんだけど――」
「申し訳ありませんが、過度なおかわりはダメです!」

 わたしが言おうとしたことを先に釘を刺されてしまった。
 ルカは腰に手を当てて、口を尖らせる。

「昨日はコロネさんがドラゴンステーキを二十人前もおかわりするから大変だったんですからね! 料理を作るわたしたち従業員の負担もそうですけど、何より食材の在庫分がなくなってしまって今日の献立も危うかったんですから! 何とか市場で足りない食材を調達できたから良かったものの、こんなことは今日限りでごめんです!!」
「うぅ、そんなぁ……」

 とっても口惜しいけど…………仕方ない。
 今日はこのトンテキ一食で我慢するか。
 まあ午前から昼にかけて色々な店をはしごして爆食しまくってたからね。
 夜はこれくらいの量でちょうどいいかもしれない。

「……まあでも、特別にあと二人前くらいならおかわりしてもいいですよ。サラちゃんとわいちゃんの分を用意するくらいはできますし!」
「ほんと!? ありがとうルカ! それじゃあオークのトンテキ、二人前お願いするよ!」
「わかりました。それでは用意してくるので少しお待ちください!」

 そう言い残して、ルカは微笑みながら厨房へと戻っていく。

 さすがルカ!
 そういう優しいとこ大好き!!

「な、なんや? わいらも食べさせてもろてええんか?」
「はい! あとでぜひ感想を聞かせてくださいね」
「ぷるーん!!」

 自分達の分も食べられると分かって、サラとわいちゃんは一緒にはしゃいでいる。
 嬉しいのはわかるけど、周りにお客さんもいるからあんまり騒ぎすぎちゃダメだよ。

「冷めちゃってもいやだしわたしたちは先に食べよっか!」
「うん! えへへ、コロネお姉ちゃんと一緒にご飯が食べれて嬉しいな」

 わたしとナターリャちゃんは、共にフォークを握る。

「それじゃあ、いただきます!」

 わたしは切られたトンテキにフォークを刺し、一口で頬張った。

「んんんんん~~~! 美味しい~~!!」

 人生初のオーク肉だったけど、味も食感も普通の豚肉とほとんど変わらない。
 いや、むしろ市販の豚肉よりも脂身が多くてめっちゃジューシーで美味しい!!

「コロネお姉ちゃん! このオーク肉、とっても美味しいよ!!」
「だよね! あぁ~、やっぱり美味しいご飯サイコー!!」
「ううぅ、ええなぁ……。わいも待ちきれんくなってきたで……!」
「ぷるんぷるーん!」

 サラとわいちゃんはトンテキを頬張るわたしとナターリャちゃんをチラチラ見ている。
 もう少しでルカが追加のトンテキを持ってきてくれるから、それまでちょっと待っててね。

 わたしとナターリャちゃんは夢中でトンテキを食べていると、しばらくしてルカぎ追加のトンテキを運んできてくれた。
 ようやくトンテキにありつけたサラとわいちゃんも、一口食べてその美味しさに感動していた。
 この美味しさを共有できてとっても嬉しいよ!

 こうして、今日結成したばかりのパーティ初の夕食はそれぞれ大満足に終わった。
   

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! ※本作品は他サイトでも連載中です。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。 頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか? 異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

処理中です...