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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第53話 クエスト完了報告に行っちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「ふぅ~! 無事にギルドまで到着っ!」
ナターリャちゃんが森の奥で不穏な気配を感じたというので、足早に《魔の大森林》を抜けて冒険者ギルドまで帰ってきた。
帰り道では全く魔物と出会わなかったから、ラッキーだったね。
「はえ~、ここが人間の住む街でっか! 人がぎょうさんおって賑やかでんな!」
ナターリャちゃんの腕の中でわいちゃんがはしゃいでいる。
わいちゃんはあまり人間と接したことがないから、こんなに人が歩いてるのが珍しいみたいだ。
「それじゃあ、クエストの完了報告しに行こうか」
「うん!」
ナターリャちゃんの嬉しそうな返事を受けて、わたしはギルドの扉を開けた。
まだあの人はいるのかなぁ、なんて思っていると、案の定ギルドの受付で暇をしていたクレアさんが飛び出してくる。
「おかえりなさいコロネさん! ナターリャさん!」
「ただいま……」
「た、ただいま……?」
わたしは何とも言えない表情で、ナターリャちゃんは少し戸惑いながらクレアさんに挨拶を返す。
受付を飛び出してくる受付嬢がいるのってこのギルドくらいなんじゃないの?
クレアさんは、何か言いたげな顔でわたしにすり寄ってくる。
「それで、コロネさん! クエストの方は……」
「達成したよ。クレアさんの要望通り、とれるだけマギの実をとってきたから。クエスト依頼と別の分はギルドで買い取ってもらうよ」
「わああああ! ありがとうございます! さすがコロネさんです!!」
クエスト達成の報告を聞いたクレアさんは満面の笑みでわたしの手を握った。
いや、近い近い。
人手が足りないからって、そんなに歓喜するほどなの?
「いやぁ、このマギの実の採取クエスト、求められるレベルが高すぎて扱いに困ってたんですよねぇ! なんせ、ソロで挑むならAランク以上、パーティで挑むとしてもBランク以上が最低条件でしたから! そんな高ランクの優秀な冒険者なんてこのギルドにはいませんからねぇ~!」
嬉しそうに話すクレアさんに、わたしはジト目で応える。
「あのさ、わたしたちの冒険者ランク知ってる?」
「え? コロネさんがGランクで、ナターリャさんは……たしかEランクでしたっけ」
クレアさんは人差し指をほっぺに当てて思い出しながら話す。
ナターリャちゃんがEランクだっていうのは初めて知ったけど、どちらにせよ同じことだ。
わたしは淡々と質問していく。
「それで、マギの実の採取クエストの条件は?」
「ソロならAランク、パーティならBランクですね」
「いや、わたしたちそのどっちも満たしてないじゃん!?」
どおりであのマッドブラッディツリーが強かったはずだよ!
なんせ高ランク冒険者向けのクエストだったんだからね!
叫んで異議を唱えるわたしに対して、クレアさんはおかしいものを見るように笑った。
「はははは~、もお、なに言ってるんですかコロネさん。コロネさんのGランクなんてあってないようなものじゃないですか」
「いや、どういうこと!?」
「だってコロネさんはもう十分にSランク冒険者になれるくらいの実力はありますよね? ナターリャさんはまだ駆け出しなので少し心配でしたけど、コロネさんのパーティメンバーということだったのでいざとなればコロネさんが何とかするだろうと思って、クエストを許可しました」
「……それ、クエストの条件破ってるじゃん。バレたらまずいんじゃないの?」
「いえ、このようなクエストの受注条件は依頼主ではなく、依頼内容を鑑みて当ギルドで設定しているものになるので……まあ大丈夫です。それに、今回の件はギルマスからの指示でもありますから」
「はぁ……全てはあのムキムキおじさんの仕業か」
「誰がムキムキおじさんだと?」
辟易したわたしの元に、野太い声がかけられる。
クレアさんが姿勢を正して、突然話に入ってきた人の名前を呼んだ。
「ギ、ギルマス!」
「ふっ、どうやら俺の見立て通り、無事にマギの実の回収に成功したようだな」
日焼けした肌に屈強な肉体。
その自慢の筋肉を見せつけるかのような涼しげな格好をしているムキムキおじさん。
この人が冒険者ギルドのギルドマスターである、レスターさんだ。
わたしは登場した色黒おじさんを冷めた目で見る。
「まあ無事ではあるけどさ……マッドブラッディツリーがあんなに強いならクエスト用紙に書いといてよ」
「ああ、悪いな。あのクエストを達成できる冒険者はおらぬと思っておったから、あまり詳細にクエスト用紙を作り込んでいなかったようだ。しかし、それでもこうしてクエストを達成してくるとはさすが俺が見込んだ冒険者なだけはある!」
「いや、別に嬉しくないんで、変な見込みつけないでくれます?」
「ガッハッハッハ! お前さんも面白い冗談を言うようになったな!」
「いや、冗談じゃないよ! ホントにそんな評価いらないから!」
ツッコミを入れるわたしを無視して、レスターさんは背を向けて歩いていく。
「まあこんな所で立ち話もなんだ。奥の素材買取部屋へ行くぞ。そこで今回のクエストで手に入れたマギの実やら素材やらを出してくれ」
「それではコロネさん! こちらへどうぞ~!」
優しい声でギルドの奥へ促してくるクレアさん。
豪快な足取りでずんずんと進んでいくレスターさん。
そんな二人のギルド職員の様子を、わたしとナターリャちゃんは並んで見つめる。
「コロネお姉ちゃん……このギルド、大丈夫かな?」
「うーん……たぶん、きっと……うん。大丈夫、なのかなぁ……?」
自信を持って、大丈夫だよ! って言いきれない所が悲しい。
まあレスターさんもクレアさんも、今はギルドに冒険者がやって来ないからこんなに切羽詰まってるだけであって、平常時はもっとちゃんと仕事をこなす人なはずだ。
…………そうだよね?
わたしたちは二人のギルド職員に一抹の不安を覚えながら、奥の素材買取部屋に入っていった。
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