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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第7話  お礼を言われちゃう、ぽっちゃり

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「「「フガァアアアアアアアアアアアアア!!」」」

 わたしが放った雷撃がオークの群れを蹂躙し、砂煙が巻き上がる。
 かなりの魔力を込めたからか、七割くらいのオークたちは一発KOで倒れていった。
 これぞわたし渾身の溜め技!
 我ながら凄まじい威力で爽快だね!
 だけど、あの冒険者二人と少女に当たらないように撃ったから、まだオークの残党が少なからずいるなぁ。

「というわけで、もう一発いくよ! サンダーボルトッ!」

 突然の事態に混乱しているオークたちに、通常威力のサンダーボルトを撃っていく。
 オーク単体ならギガントボアより弱そうだし、これでも十分だよね。
 わたしの見立ては正しかったらしく、散り散りになったオークたちをサンダーボルトで各個撃破していく。
 遠距離からノーリスクで攻撃ができるから、電撃魔法は最高だね!

「フガァアア……!」
「フガガッ!」

 まだ生き残っているオークたちは、ようやくわたしの存在に気付いたみたいだ。
 だけどわたしに襲いかかってくることはなく、一斉に逃げ出していった。
 辺りからオークがいなくなったのを確認して、わたしも魔法を止める。
 まあ、逃げていくなら無理に追撃する必要もないしね。

 オークが去って安心したけど、逆にあの冒険者一行は驚きや恐怖を抱いているようだ。
 土煙にまみれながら、困惑している。

「ゲホッ、ゴホッ、い、一体なんだっ!?」
「ケホッ、こ、これは魔法ですか……?」
「お、お嬢様、危険です! お下がりください!」

 このまま隠れていても仕方ないし名乗り出るか。
 この世界で初めて出会った人間だし、良き交流をしておきたい。

「このまま放っておくのも気になるから軽く挨拶でもしに行こうか、サラ」
「ぷるん!」

 わたしは元気なサラを連れて、冒険者たちの元へ小走りで近寄っていく。
 普通なら小走りでもゼェゼェ息があがるくらいのぽっちゃりだけど、身体強化のおかげで一ミリも疲労なくたどり着いた。

 わたしのサンダーボルトで舞い上がっていた土煙も落ち着いてきたところで、恐る恐る声をかけてみる。

「えーと……す、すみませーん」
「ッ! 何者だ!」
「お嬢様、私の後ろに!」

 わたしが話しかけた瞬間、すかさず男の冒険者がわたしに剣を構える。
 女性の冒険者も少女を守るように警戒していた。

 なんかめっちゃ悪者みたいな扱いを受けてるんだけど。
 ここから挽回できるかな。
 話し合えば理解してくれるよね?

「あ、あの、わたし敵じゃありません! そこに倒れてるオーク? っぽい魔物に襲われてるように見えたので、少し手助けをしただけで……」

 わたしが慌てて身の潔白を証明すると、冒険者二人の様子が少し変わった。

「……なんだと?」
「では、先ほどの馬鹿げた威力の魔法は、あなたが……?」

 張りつめていた空気が少し和らいだ。
 よし、このまま無害な人間アピールを続けていれば普通の会話に持ち込めそうだ。
 わたしは再び話を続けようとすると、冒険者の後ろから一人の少女が歩みだしてきた。
 白髪はくはつの綺麗な美少女だ。

「デリック、レイラ、武器を下ろしてください」
「お嬢……!」
「お嬢様……!」

 少女の一声で、冒険者二人はゆっくりと武器を下げた。
 わたしはこの白髪はくはつ美少女をよく見てみる。

 動きやすそうな服を着ているけど、材質はすごく高級感がある。
 腰には片手で持てるサイズの杖を差していた。
 それに何より立ち振舞いに隠しきれない気品のようなものが伝わってくる。
 ジャージ姿のぽっちゃりとは大違いだ。

 この冒険者たちに『お嬢様』って呼ばれてたし、やっぱりこの子は貴族かなんかのご令嬢なんだろうね。
 それなら、わたしも態度には気を付けないと不敬罪になったり……!?

「この者たちの無礼をお許しください、さすらいの冒険者様」
「いえいえ、とんでもないです! あ、わたしはコロネって言います。よ、よろしくお願いします」
「これは申し遅れました。私は、ベルオウンの領主であるウォルトカノン家の娘、オリビア=ウォルトカノンと申します。この度は私たちの命を救っていただき、何とお礼を申し上げればよいか……」

 上品な所作で、深々と頭を下げてくれる。
 でもここまで丁寧にお礼を言われると何だかいたたまれない気持ちになってくる。
 そんな大したことした実感もないしね。
 ここは失礼にならないように話題を変えよう。

「あ、頭を上げてください! えっと、オリビア様はどうしてここに?」
「オリビアとお呼びください、コロネ様」
「え、いやでも貴族の娘さんなんですよね? 呼び捨てとか不敬なんじゃ……」
「私が許可しているので問題ございません。それに、そのようなかしこまった態度も不要です。どうか気楽に接してください」
「気楽にって言われてもなぁ……」

 たとえ本人の許可があるとはいえ、貴族相手に呼び捨て&タメ口って問題にならないかな。
 まあここで食い下がっても納得してくれなさそうだし、お言葉に甘えるか。
 だけど、それならこちらも条件をつけさせて貰おう。

「分かった……それじゃあオリビアって呼ばせて貰うよ。その代わり、わたしのことも様付けで呼ばないでね」
「……では、コロネさんと」
「いや、わたしも呼び捨てで――」
「コロネさんとお呼びさせていただきます。そして、この二人は私の護衛をしてくれる冒険者です」

 オリビアの言葉に促されるように、後ろに立っていた男女の冒険者が一歩前へ出てきた。

 何か勝手に話を進められてるんだけど。
 わたしも呼び捨てで良いんだけどね……。
 でも空気的にそれに触れられる感じじゃない。

「俺は冒険者のデリックだ。さっきは剣を向けて悪かった。仲良くしてくれると嬉しいぜ」
「私はレイラ。一応、魔法剣士としてデリックとパーティーを組んでいる。先ほどは私たちの窮地を救っていただき感謝する」

 デリックさんは筋肉質な体つきで大剣を担いでいる戦士風の冒険者。
 茶髪を短く刈っていてイカツイ雰囲気をまとっているね。
 レイラさんも一般的な大きさの剣を携えているけど、綺麗な黒髪も相まって魔法使いっぽい印象も受ける。
 魔法剣士っていうのは本当みたいだ。

 オリビアに自己紹介したばかりだけど、この二人にも改めて名乗っておこう。

「コロネです。デリックさんとレイラさんも、よろしくお願いします」
「おいおいコロネ! お嬢を呼び捨てにしてんだから俺たちに敬称なんて不要だぞ? お互いフランクにいこうぜ!」
「むしろ敬意を払わなければならないのはこちらの方だ。コロネ殿、どうか気を楽にして接して欲しい」
「そ、そう? それならタメ口にさせてもらうよ。あと、レイラも普通にコロネでいいから」
「いや、これでも私だって魔法職のはしくれ。だから先ほどの稲妻のような魔法がどれほど高度なものか多少は理解しているつもりだ。そのような高位の魔法使い相手に無礼は働けない」

 めんどくさいな!
 一見気の強そうな女子に見えたけど、レイラはかなり生真面目な性格みたいだ。
 うーん、本当にわたしなんかに気を遣わなくていいんだけど。
 わたしがレイラへの対応をどうしようかと考えていると、話が一段落するのを待っていたオリビアが話し始める。

「お互いの自己紹介も済んだようですね。それで、ここで私たちが何をしていたかですが」
「ああ、そう言えばそんな話だったね」

 わたしがオリビアに向き直ると、彼女は少し神妙な面持ちで口を開いた。

「……コロネさんは、『ダイヤモンドミスリル』の噂はご存知でしょうか?」
「ダイヤモンドミスリル? いやぁ、聞いたことないけど、なんか凄そうな名前だね」
「そうですか……。実は、私の街にいる冒険者がそのダイヤモンドミスリルの鉱山を発見したらしいのです。その噂の真偽を確かめるために、私たちは調査に出向いているのです」

 なるほど、この世界には冒険者という職の人間がいるんだね。
 まあオリビアもご令嬢みたいだし、よくある異世界ファンタジー的な世界観のようだ。
 わたしはここまでの情報を整理する。

「つまり、そのダイヤモンドミスリルの調査中にオークの群れに襲われてたってこと?」
「その通りです。この《魔の大森林》は全体的に魔物のレベルが高いことで有名なのですが……少し甘く見ておりました」
「そうなんだ。うーん、よく分かんないんだけど、そういう調査って貴族のお嬢様が直々じきじきに行うようなものなの? 冒険者たちをたくさん用意して調査チームでも結成した方がいいんじゃない?」

 そうすればオークの群れに襲われても対処できそうだけど。
 そもそもあるかどうかも分からない噂の調査に領主のご令嬢が出向いて、しかもその護衛がたった二人だけなんて普通じゃないよね?
 なにか事情があるのかな。

 オリビアを見てみると、案の定というか表情が暗くなっている。

「コロネさんの仰るとおり、通常であれば専門の調査チームを派遣するか、複数の冒険者パーティーに依頼を出します。ですが、それが難しい状況なのです」
「その理由って聞いてもいいのかな?」
「それは……」

 オリビアが言い淀んでいると、隣にいたデリックとレイラが剣を抜いて戦闘態勢に入る。

「お嬢! 新手の魔物です!」
「お嬢様、ご警戒を!」

 ええ、魔物!?
 どこどこ!?

 わたしがキョロキョロと周囲を見回していると、どこからともなく狼の遠吠えが響き渡る。
 同時に、森の中から大量の黒い狼がわたしたちに向かって飛び出してきた。



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