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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第4話 こんがり肉にかぶりついちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むぽっちゃりにとって空腹とは死と同義。
これを踏まえた上で、もう一度現状を説明しよう。
わたしは今、過去最大級に死にかけている!
はっきり言って、先ほどのゴブリンと巨大猪の猛攻なんて可愛いもんだ。
非常にマズイ状態だが、それを打開する妙案が目の前に倒れている。
「このでっかい猪、食べられるかな?」
猪の肉は一度食べたことがあるけど、とても美味しかった記憶がある。
ぐっ、しかし動物のお肉を食べるには、解体をしないといけない。
魚くらいなら捌けるけど、さすがに猪の解体なんてしたことがない。
まして、こんな規格外の大きさの猪なんてもってのほかだ。
くそぅ!
お肉は目の前に転がってるのに!
「ぷるん!」
わたしがどうしたものかと頭を悩ませていると、スライムがわたしの前に出てきて、ぷるんと揺れた。
「え、ど、どうしたの?」
「ぷるるん!」
「……もしかして、自分に任せろ、って言ってるの?」
「ぷるっ!」
スライムは、そうだよ! と言うように大きく跳ねた。
するとスライムは巨大猪の傍にぽよんぽよんと移動していく。
どうするつもりなんだろう?
わたしがスライムの行動を不思議に思っていると、
「ぷるぅぅうん!!」
なんと、スライムが一瞬にして巨大化した!
そして漁師が海に網を放つような感じで、覆い被さるように猪の体を包み込む。
「す、すごい! 大きな猪を一気に丸飲みした!?」
しばらくの間、猪を丸飲みした状態でもごもごと咀嚼するように動くと、スライムはみるみる内に小さくなっていく。
最終的に両手に乗るくらいのサイズにまで小さくなり、ぽよんぽよんとわたしの方へ戻ってきた。
「ぷる~」
「一瞬で猪を飲み込むなんてすごいね! もしかして食べちゃったのかな…………あれ?」
ていうかこれ、スライムに猪を食われただけでは?
ぐぅ~~~~~~~~~~~~~……!!
その可能性に気付いたわたしのお腹は、さっきよりもデカい音でキレている。
最後の砦だった猪肉も、このスライムのお腹に収まってしまった。
わたしの食べ物が何もない……。
「ぷるん!」
涙を流しながらパタリと倒れるわたしに、スライムがぷるんと震えた。
何かと思って目を向けると、なんとスライムの中から何かの物体がわたしの方へ飛んできた。
わたしはそれを、反射的にキャッチする。
「うわっ! い、いきなりなに、これ――――」
わたしがキャッチしたモノを見ると、それはかなり大きな骨付きの生肉だった。
お肉の部分は、バスケットボールくらいの大きさがある。
「な、なんで突然生肉が……!? てか、これは一体なんの肉なの?」
わたしが疑問に思うと、わたしの持つ骨付き肉の斜め上にテキストがポップアップした。
―――――――――――――――――――
名称:ギガントボアの生肉
大型の魔物の生肉。肉は非常にジューシーで、とても美味。市場では流通量が少ないため高級品として取引される。
―――――――――――――――――――
おお、これはすごい!
この鑑定っぽいスキルも、きっと神さまがわたしにくれたものだよね。
それにギガントボアって、さっきの巨大猪のことかな?
いや、それよりもこのお肉の説明に“ジューシーでとても美味”ってあるのがめちゃめちゃ気になる……!
「えっと、このお肉もらっていいの?」
「ぷるん!」
わたしが足元のスライムにたずねると、スライムはぽよんと跳ねた。
オッケーってことでいいんだよね?
ホントに食べちゃうよ?
今さらやっぱりダメって言っても返さないよ?
「お肉をくれてありがとう! あっ、でもこれ生肉だよね。焼かないといけないけど、そんな調理用の器具とか持ってないしな……」
いくらお腹が減りまくってるわたしでも、さすがに生肉を食す度胸はない。
だから火を通すのは必須なんだけど、そのような調理器具がなかった。
肉を焼くなら、最低でも網か串は必要だ。
まあ骨付き肉だから焚き火して炙ってもいいけど、これだけ肉が分厚いと中まで火を通すのに時間がかかりそう。
生憎、わたしのお腹にそんな猶予はない。
どうしよう。
木を材料にして、簡易的な調理器具でも作る?
いやいや、今のわたしにそんな気力も体力もない。
そもそもDIYなんてやったことないし、上手くできるとは思えない。
「……あ、だったら魔法で代用したらいいんじゃない!?」
そうだ、この世界にはかくも便利な『魔法』という概念がある。
さっきの電撃魔法の要領でいい感じの炎魔法でも出せれば、このまま肉を炙って食べられるかもしれない!
わたしは右手で骨付き肉の骨をつかみ、左手を生肉の横へ移動させる。
「えーと、あんまり火力が強すぎると危ないから、ちょうどお肉が美味しく焼けるくらいの火加減で……とりゃ!」
わたしは左手から炎が出るように魔法をイメージする。
すると、ボワッ! と赤い炎が肉を飲み込み、全面を焼き始める。
「おおっ、できた! あとは火加減を見極めて……ここでストップ!」
しばし炎魔法で肉を焼いて、そこで魔法を止める。
炎の中から出てきたのは、こんがり焼けた美味しそうなお肉だった。
いい感じに、肉汁もしたたっている。
どこからか、上手に焼けましたー、と声が聞こえてきそうな感じだ。
わたしは目の前のこんがりお肉に瞳をギラつかせる。
「ふぉおおお! お、美味しそう! こりゃもう我慢できない! いっただきまーす――がぶっ!」
うまぁあああああああああああああ!!!?!?
豪快にかぶりついた瞬間、肉汁が口の中いっぱいに弾けてめちゃくちゃジューシー!
肉はちょっと硬めだけど、全く獣臭さとかはないし、むしろワイルドに肉を食ってる! って感じがたまらない!
「う、美味すぎる! 何も味付けとかしてないのに、お肉自体に塩気があるから食欲が加速するし、お肉も分厚くてパンチがすごい! ただ素焼きしただけなのに、この美味しさは犯罪級でしょ!?」
わたしはバクバクと夢中になって肉に食らいつく。
この豪快な食べ心地がまたたまらない。
我ながら、原始人顔負けの食いつきだと思う。
女子としての恥じらいはないのかと思われそうだが、わたしはぽっちゃりなので関係ない。
わたしは欲に正直な女なのだ!
「もぐもぐ……ごっくん! あぁ、もうなくなっちゃった。最初は大きいお肉だと思ったけど、一瞬で食べきっちゃったな」
肉を食べ尽くして、残った一本の骨を見つめる。
めちゃくちゃ美味しかったけど、はっきり言って全然足りない。
今のわたしはハングリーモードなのだ。
バスケットボール大のお肉一つでは、到底その空腹はまかないきれない。
だけど、もうお肉がないから仕方がない。
わたしがしょんぼりと諦めていると、スライムが何かを主張するようにぽよんぽよんと跳ねていた。
「ぷるん! ぷるん!」
「あれ、どうかしたの?」
「ぷるるん!」
わたしがスライムの方へ目を向けると、スライムはぐぐっ、と凹み始めた。
おや、まさかこれは……。
わたしの脳裏に浮かんだ希望を叶えるように、スライムから一本の骨付き肉が飛び出てきた。
わたしはすかさずキャッチする。
「こ、これはさっきのお肉! キミ、まだ出せたんだね! これもわたしにくれるの?」
「ぷるん!」
スライムは肯定するように鳴くと、今度はぽぽぽん! と数個の骨付き肉が大量に放出される。
「わわわ! こんなに!?」
わたしは空中に舞うお肉を抱き抱えるように全てキャッチした。
今のわたしの腕の中には、多くの骨付き肉がぎゅうぎゅうに詰まっている。
なんと素晴らしい光景か!
「キミ、すごい魔物なんだね! こんなにお肉をくれてありがとう!」
「ぷるるん!」
わたしが大はしゃぎで褒めると、スライムは嬉しそうにぽよんと跳ねた。
何だか、まだまだいけるよ! と言ってそうな気もする。
もしかして、さっきのギガントボアのお肉を全部くれるつもりなのかな?
もしそうなら最高すぎる!!
「よーし! それじゃあ、じゃんじゃんお肉を焼いて焼いて、食べまくるぞー!!」
「ぷるーん!!」
わたしの食の掛け声に答えるように、スライムは今日一番のジャンプを披露してくれた。
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