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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第1話  異世界転移しちゃう、ぽっちゃり

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 ゆっさゆっさと一定のリズムで揺れる体。
 その動きで、わたしはパチリと目を覚ました。 

「……むにゃむにゃ。んん……ハッ! もしかして寝ちゃってた!?」

 いけないいけない!
 いつの間にか寝てしまっていたようだ。
 もしかするともう晩御飯の時間かもしれない。
 とりあえず、いま何時か確認しないと――

 ぐっ。

「……へっ?」

 ぐっ、ぐっ……ぐぐっ!

「か、体が動かない!」

 ど、どうして!?
 何度も起き上がろうとしてみるけど……ダメだ。

 確かに最近お腹の肉が邪魔をして起き上がりにくい時はあったけど、さすがにまだそこまで太りきってはいないはず。
 なんだろうと思って寝たまま体を見下ろしてみると、そこには信じられない光景が広がっていた。
 普段着として愛用している赤ジャージ。
 その真っ赤なジャージの色が見えないほど、全身が縄でぐるぐる巻きにされていたのだ!

「な、なんじゃこりゃあぁぁあああああああ!!?」

 ワッツ!?
 いや、これどういう状況!?
 なぜにわたし縛られてるの?!

 全然状況が分からないけど、とにかくこの縄をほどかなきゃ。
 でも、わたしは身動きが取れない。
 なので、助けを呼ぼうと周囲を見渡してみる。 

 周りには、青々とした木々が生い茂っていた。
 左を見たら木々、右を見ても木々、上を見たら澄んだ青空とお日様。
 香るのは森と土の匂い。
 それから少し鼻をつく獣臭けものしゅう……。

 いやここ、完全に外じゃん!?

「ここって、も、森!? わたし、こんな鬱蒼うっそうとした森に足を踏み入れた記憶なんてないよ!? てか、んなことしたら死ぬよ!?」

 部屋でゴロゴロしながらお菓子をつまんでジュースを流し込み、ご飯はご飯で三食しっかり完食という日々を送ってきたのだ。
 そんなボディで山登りなんてしようものなら、一瞬で両膝が爆発してゲームオーバーするに決まっている。

「それに、さっきからずっとなんか動いてるんだけど。わたしこれ何に乗せられてんの?」

 もう一つ気になるのは、この移動する乗り物だ。
 わたしは体を縄でぐるぐる巻きにされてるけど、よく見るとその上からもう一回り太い縄が巻きついている。 
 この太縄でわたしを謎の乗り物にくくりつけているんだろう。
 一体だれがこんなことを……。

「あ、やっと起きた?」

 そんなことを考えていると、急に横から幼い声が聞こえてきた。

「だ、誰ですか!?」

 わたしはビックリして声の主へ顔を向ける。
 思わず身構えたけど、そこにいたのはこんな山奥に似つかわしくない人物だった。
  
「え、女の子……?」

 金髪ボブの可愛らしい女の子は、にこりと笑顔で応える。
 見た目はわたしよりも年下だけど、着ている服はとても高級そう。
 上等な絹が使われてるみたいだ。
 どこぞのご令嬢なのかな。
 でもなんでご令嬢がこんな山奥に?

 頭に色々な?マークを浮かべながら、わたしはふとこの子の足元を見た。
 裸足だ。
 いや、それはいい。
 こんな山奥にいるのに裸足だという時点で超おかしいんだけど、まだギリギリ見過ごせる。
 一番の問題は、女の子のことだ。

 体から一気に血の気が引いていく。

「う、浮いてる!? ぎゃああああ! わたしをさらった犯人はお化けだったの!?」
「あはは、体は大丈夫そうだね」

 女の子は、くるりと回ると、わたしのお腹の真上に移動した。
 ふよふよと浮いている。
 や、やっぱりお化けだぁ!!

「まずは自己紹介からいこうかな。私は神さま! 遠慮なく、『神さま』って呼んでね!」

 神さまはわたしに指を差すと、アイドルのようなポージングでウインクをした。
 どこからか、キラリーン☆、という効果音が聞こえてきそうな感じだ。

 まあ可愛い。
 可愛いけど、この子の爆弾発言がヤバすぎて可愛いどころではない。
 今の自己紹介……空耳じゃないよね?

「か、神さま……?」
「そうなのです! わたしはこの世界を管理する神の一柱ひとはしら! キミは、牧心寧まきころねちゃんだよね?」
「えっ、どうしてわたしの名前を」
「そりゃあ私、神さまだもん! そもそも心寧ころねちゃんをこの世界に招待したのは私だし」

 この女の子――神さまは、得意気に腰に手を当てて答える。
 わたしのフルネームを知っているということは神さまと判断して良い、のかな?
 いや、でも名前くらいなら調べれば分かるか?

 てかそれよりも、いまサラッととんでもないこと言わなかった?
 『この世界』だとか『招待』だとか。

 ……これってまさか、アレだったりする?
 あのネットでよく見るアレだったりしちゃう?

 わたしは恐る恐る確認してみた。

「あのぉ、もしかしてここって、異世界ってやつだったりします……?」
「うん! そうだよ! 異世界も異世界! ザ・異世界!」

 やっぱりそうだよ!
 異世界だよ!
 異世界ファンタジーだよ!!

 ホントに異世界とかあったんだね……。

 でも、どうしてわたしが異世界に来ることになったんだろう?
 いやその前に、異世界に来てるってことは、現実世界のわたしは……!?

「あのー、どうしてわたしは異世界に? ていうか、わたしって死んじゃったんですか!?」
「え、覚えてないの? 死因」
「えっ……は、はい」

 死因とか、怖い言葉を可愛い声で言わないでよ。
 もうちょっとオブラートに包んでほしい。
 一応、わたしは故人こじんでもあるんだよ?
 てか、やっぱり死んだんかい。

 でも、死因と言われても何も思い浮かばない。
 まさか、食べすぎによる高血圧で心筋梗塞とか脳卒中とか!?
 わたしは高校一年生だからはなのJKではあるけれど、そこらのJKよりも死亡リスクが高い自覚はある。
 ぽっちゃりは背負うものが大きいのだ……!

心寧ころねちゃんはね、あまりに多くの食べ物を一度に飲み込んだせいで、喉につまって窒息死しちゃったんだよ。まあ、すぐに気を失っちゃったから、ほとんど苦しまなかったのは不幸中の幸いだね!」

 神さまは、可愛いウインクをしながら親指を立てる。

 いや、人の死の状況をそんな楽しそうに話さないでくれるかな!?
 もう一度言うけど、わたしが故人だっていう配慮を持ってほしいよ!
 
 神さまの死因解説にはショックを受けたけど……でも、だんだん思い出してきた。

「そ、そうだ。わたし、失恋したのをキッカケにダイエットを初めたんだけど長続きしなくて……。むしろダイエット期間中に食事を我慢していたストレスの反動で、一気に食べ物を爆食いしてたんだった……!」

 わたしは入学式の日から密かに気になっていた男子がいたんだけど、ある日その男子から呼び出しを受けた。
 よくある、体育館裏ってやつ。
 ドキドキしながらそこに向かうと、なんとその男子から告白してきたんだ。
 舞い上がったわたしは全力で「お願いします!」って返事をしたけど、幸せなのはここまでだった。
 わたしが交際OKの返事をした直後に、近くに隠れていた数人の男子が出てきて、笑いながら罰ゲームであることを告げられた。

 わたしが好きだった男子も、「普通にデブとか無理だから」と言って笑われた。
 もちろんぶちギレたわたしは、その場の全員をボコボコにぶん殴って先生に怒られた。
 せぬ。

 でも、わたしだってショックで、悲しくて、悔しかったんだ。
 だから見返してやろうとダイエットを決意した。

 だけど結果はご覧のとおり。
 人生初ダイエットだったから挫折やリバウンドは覚悟していたけど、まさかお亡くなりになってしまうとは……。
 自分の事ながら予想外すぎて「何やってんのおまえ」とツッコミたくなるね。
 いや、ほんとに何やってんだわたしは……!

 事の顛末てんまつを思い出していると、神さまが神妙な面持おももちで語り始めた。

「罰ゲームとしてもてあそばれて、失恋して、ダイエットした後に、食べすぎで喉つまらせて死んじゃうなんてちょっとかわいそうじゃない? だから私が、心寧ころねちゃんに第二の生をプレゼントしようと思ったわけなのです!」
「あぁ、そ、そうだったんですね。ありがとうございます」

 神さまに困惑と感謝をしていると、不意に下から声が聞こえきた。
 ギィー、ギィー! といった、動物の鳴き声のような……叫び声?

「あ、そろそろ着くみたいだね」
「着くって、どこにですか?」
「え? ゴブリンキングの巣」
「へ?」

 わたしは固まった。
 いま神さまは何と言ったのかな?
 ゴブリンキングの巣とかなんとか聞こえたんだけど……。

「わ、わたし、ゴブリンに捕えられているんですか!?」
「いやぁ~、心寧ころねちゃんをこの世界に招いたはいいものの、中々起きなかったからその間にゴブリンの群れに見つかっちゃったんだよね。それでゴブリンたちに縄で縛られて、ただいま絶賛れ去られ中ってわけ!」
「連れ去られ中っ!?」
「このまま起きなかったらどうしようかと思ったけど、ギリギリ目覚めたようで良かった良かった!」
「いやゴブリンがわたしに近づいてきた段階で助けてくださいよ! なに呑気にゴブリンの動向を見守ってるんですか!」

 異世界とか、神さまとかで忘れていたけど、わたしはずっと仰向けに縛られている状態だ。
 この縄はゴブリンの仕業だったのか!?
 そしてこのままだとゴブリンキングに美味しく召し上がられちゃうのか!?
 それにわたしを運んでるのも明らかに地球の乗り物じゃないし、まさかこっちもマンモスみたいなドデカイ魔物なんじゃ……!

「ちょ、ちょっと! 助けてくださいよ神さま!」
「助けてあげたいけど、あんまり世界に干渉するのはダメなんだよねぇ。ただでさえ、心寧ころねちゃんをこの世界に招待したばっかりだし。まあ心配しなくても、この程度の魔物くらいなら心寧ころねちゃんでも倒せるよ。楽勝楽勝!」
「た、倒すってどうやってですか!? わたし、武道とか習ったことないし、そもそも運動自体苦手なのに……」
「大丈夫だって。そんなこともあろうかと、私がとーっておきのスキルを与えておいたから! ドカーンって魔法とか撃てちゃうよ? カッコいいよね!」

 さすがは異世界。
 やっぱり魔法なんてものがあるのか。

 いや、だからといってわたし魔法なんて使ったことないんですけど。

「そ、その魔法はどうやって発動させればいいんですか?」
「う~ん、何となく魔力を集中させて、イメージ通りに放てばいいよ。それで大体うまくいくから」

 説明が雑すぎる!
 もっと具体的な手順やアドバイスが欲しいんだけど!

「そんじゃあ、言うこと言ったし、私は帰るね! そろそろ脱出しないとホントにゴブリンキングにボリボリ食べられちゃうから気をつけてね!」
「え、あの、食べられるって本当に――」 
「あ、あとこれは私からの餞別せんべつだよ! きっと心寧ころねちゃんの役に立つと思うから仲良くしてあげてね! それじゃあ、グッドラック!!」
「ち、ちょっと神さま!?」

 早口で言いたいことだけ言い終えると、神さまは光とともに消えていった。
 するとその光の中から、両手に乗る大きさのしずくみたいなのが、ぽよんとお腹に落ちてきた。
 それはキレイな水色で、ぽよぽよと小さく揺れている。

 ま、まさかこの魔物は……。

「これ、もしかして……スライム?」
「ぷるん!」

 いや、魔物増やされただけじゃん!

 結局わたし、どうすればいいのーーー!!?




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