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第9章
【59】ホワイトプロジェクト(ニーハイムス視点)その1!
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ホワイトデー。
それはバレンタインデーに貰った数々の気持ちの返礼をする日。
俺、ニーハイムス・アスターは大公としての仕事だけでなく、平日は『ニース・ヘリオトロープ』としてラフーワ魔法学院で魔法理論学教師としての二重生活を送っている。
大公としての俺は例年通り返礼の品を従者に持たせれば良いとして、教師としての俺が問題だ。
受け取ったチョコレートの内容は様々で、小さな駄菓子から豪華な手作りまで色々だ。
これらにどんな気持ちがこもっていようとも、『教師として公平であれ』という規律の元、公平に返礼していかねばならない。それが悩みどころだ…………。来年からは一律して受取拒否すべきだな、これ。
「どうかしましたか? ニーハイムス様」
学院の執務室の机上で悩んでいた俺に、女神の一声が降りかかる。カレンだ。
「いえ、たいしたことでは無いのですが……」
たいしたことです。
「女性側である貴女に打ち明ける話でも無いですし……」
「何かお困りなら仰ってください。お力になれるか解りませんが……」
今は執務室で俺とカレンのふたりきりだ。ここは思い切って話してしまうか?
「実は――……」
「まあ! そういうことでしたらお力になれるかもしれません」
カレンは力強く返事をしてくれた。流石俺の未来の妻だ。
「ホワイトデーまでにお返しの品を用意しなければならないのでしょう? ならば、ご一緒にお店を見て回ることも出来ますが……」
「それは大助かりです! 俺ひとりで悩んでいてもらちが明かないところだったので」
「――ですが、ニース先生へ生徒ひとりひとりの気持ちがこもった物への返礼に、私の意見を混ぜてしまってよろしいのでしょうか……」
カレンは思案している。こういった思いやりのあるところも俺は好きだ。
「……それでは、返礼の品を選んで貰うのではなく、ヒントを出すのに付き合っていただけないでしょうか?」
「ヒント……ですか?」
「はい。何を選ぶかは俺が全て決めます。ただ、店の中で方向を指示してくれるだけでいいです。俺は贈り物には今まで全く無頓着で、従者に任せきり。もちろん、店内の右も左も解らない状態なので」
情けない話だが、事実だ。
「なるほど……しかしそうなると私は先に、ニース先生のお返しの品を知ってしまうことになりますね」
「あっ。そうでした……それでは、品物もカレンには見せないように。気をつけます」
「そこまでして私がご一緒する意味が有るのでしょうか……?」
無いです。しかしこれは久々のデートの口実にもなるので意味は有るのです。
「買い物の後はお食事でもご一緒にいかがですか?」
「まあ、それは素敵ですわね」
「それでは、当日は『ニース』ではなく『ニーハイムス』でお伺いします。……先日の件も有りますし。護衛を付けます」
カレンとお忍びでじっくりデートしたい欲は有るが、ここは安全策を取らねばなるまい。先日の毒矢のような事件にはもう巻き込みたくない。それに――
「『ニース先生』が生徒と一緒に買物をしているところを誰かに見られてもいけませんしね」
「――……解りました。それでは、お買い物の日を楽しみにお待ちしておりますね」
※
「それで、何で『護衛』のひとりが私なんだい? ニーハイムス」
学院の教会の礼拝堂で、俺とシオンは座って話していた。
「カレンの護衛には万全を尽くしたい。万全を尽くすとなると強者が必要だ。俺の知っているうちの一番の強者はおまえだ、シオン」
「……神職者に剣を握れと? もう退役した者に声を掛けるのはお門違いだ」
シオンは俺に心底呆れているようだった。だが俺は本気だ。
「しかしカレンだぞ? カレンを護るんだぞ?」
「…………はぁ。この仕事は高く付くぞ。覚えておけニーハイムス」
カレンの名前を出すと、案外すんなり受けてくれる辺り、やっぱりカレンの人徳だろう。しかし。
「神職者が値段を交渉するなんて前代未聞だな」
「神職者が自ら剣を握るほうが前代未聞だよ。神職者はヒトを奮い立たせて剣を握らせるのが仕事なんだ」
※
――日の曜日。早朝。
今日はカレンと買い物(と、食事)に行く約束の日だ。
「遅い。ニーハイムス閣下」
馬車の前で待ち構えていたのは、普段のカソック姿とは違い、騎士服に身を包んだシオンだった。
「凄い。その姿何年ぶりだい?」
「かれこれ3年ぶりになる。どうも落ち着かないな」
「俺にとってはこちらの姿の方が見慣れているんだがなぁ」
シオンをメインの護衛として俺とカレンの側に置き、他には軽装の騎士と魔法使い達を周辺に散らばらせる。それが今日の護衛の配置だ。
シオンが手袋を正しながら言う。
「まあ、これだけ護衛を張り巡らせたアピールをしておけば、事前に事件は防げるだろうがな」
「そのためのお前の『名前』でもある。今日はよろしくな、シオン」
シオンと一緒に馬車でカレンの邸宅に向かい、迎えに行く。
カレンは俺に加えてシオンが迎えに来ていたことに驚いている様子だ。
「シオン神父様……なぜ!?」
「今日だけは『神父様』ではなく、『騎士』です。……ちょっとだけ復職しました」
「シオンに頼み込んで特別に護衛に付いてもらいました。この上なく頼もしいはずです」
「その評価はありがたく受け取っておくよ」
シオンは俺に対しては昔のままの態度と言葉遣いだ。
――店に着く。今日の買い物は『ニース先生』としてのバレンタインデーの返礼品なので、それ相応の庶民的な雑貨が良いだろうと、カレンにこの店を紹介された。
何でも『聖夜祭』の時、孤児院の子供たちへのプレゼントを選んだ店なんだそうで。最近開店して業績を伸ばしている新進気鋭のバラエティ・ショップというやつだ。
経営者一族を調べたところ、シュリ・ハイドレンジアの家だと言うことで、身元もしっかりしているし大丈夫だろうと判断した。
しかし、書き入れ時でもある日の曜日に大公である俺が護衛を連れて入るとなると仰々しすぎて他の客の迷惑になる。なので本来なら入店出来ない開店前に貸切状態で買い物させて頂くことになった。
「朝早くからすみません、大公閣下」
店のオーナーだという男から挨拶をされる。
「いいえ、開店前の忙しい時間を私の為にずらして頂き、ありがとうございます」
「大公閣下、こちらの者が店内をご案内致します。私の息子です」
そう言われて、オーナーの後ろから一歩前へと出てきたのは。
「……シュリではありませんこと!?」
カレンが驚いている。俺も驚きだ。まさかシュリ本人が出てくることになるとは。
しかし今は教師の『ニース』は封印しているのでシュリとは初対面ということになる。ここは冷静に。
「カレン、お知り合いですか?」
「――はい。魔法学院の級友です。確かに以前このお店に来た時もシュリは店員さんとして居ましたが、今日この場でお会いすることになるとは思っていませんでした」
「だから言ったでしょ。俺の家が経営しているって。……ようこそニーハイムス・アスター大公閣下。ようこそ、カレン・アキレギア伯爵令嬢」
「……なるほど。カレンのご学友ですか。よろしくおねがいします、『シュリ』でよろしいですか?」
シュリはあからさまに誰かと似ている俺のことを怪訝に思ったようだったが、流して。
「はい、シュリで構いません。本日はよろしくお願い致します」
こうして、俺のホワイトデーの返礼品選びが始まった。
ホワイトデー本番までは、まだもう少し。
それはバレンタインデーに貰った数々の気持ちの返礼をする日。
俺、ニーハイムス・アスターは大公としての仕事だけでなく、平日は『ニース・ヘリオトロープ』としてラフーワ魔法学院で魔法理論学教師としての二重生活を送っている。
大公としての俺は例年通り返礼の品を従者に持たせれば良いとして、教師としての俺が問題だ。
受け取ったチョコレートの内容は様々で、小さな駄菓子から豪華な手作りまで色々だ。
これらにどんな気持ちがこもっていようとも、『教師として公平であれ』という規律の元、公平に返礼していかねばならない。それが悩みどころだ…………。来年からは一律して受取拒否すべきだな、これ。
「どうかしましたか? ニーハイムス様」
学院の執務室の机上で悩んでいた俺に、女神の一声が降りかかる。カレンだ。
「いえ、たいしたことでは無いのですが……」
たいしたことです。
「女性側である貴女に打ち明ける話でも無いですし……」
「何かお困りなら仰ってください。お力になれるか解りませんが……」
今は執務室で俺とカレンのふたりきりだ。ここは思い切って話してしまうか?
「実は――……」
「まあ! そういうことでしたらお力になれるかもしれません」
カレンは力強く返事をしてくれた。流石俺の未来の妻だ。
「ホワイトデーまでにお返しの品を用意しなければならないのでしょう? ならば、ご一緒にお店を見て回ることも出来ますが……」
「それは大助かりです! 俺ひとりで悩んでいてもらちが明かないところだったので」
「――ですが、ニース先生へ生徒ひとりひとりの気持ちがこもった物への返礼に、私の意見を混ぜてしまってよろしいのでしょうか……」
カレンは思案している。こういった思いやりのあるところも俺は好きだ。
「……それでは、返礼の品を選んで貰うのではなく、ヒントを出すのに付き合っていただけないでしょうか?」
「ヒント……ですか?」
「はい。何を選ぶかは俺が全て決めます。ただ、店の中で方向を指示してくれるだけでいいです。俺は贈り物には今まで全く無頓着で、従者に任せきり。もちろん、店内の右も左も解らない状態なので」
情けない話だが、事実だ。
「なるほど……しかしそうなると私は先に、ニース先生のお返しの品を知ってしまうことになりますね」
「あっ。そうでした……それでは、品物もカレンには見せないように。気をつけます」
「そこまでして私がご一緒する意味が有るのでしょうか……?」
無いです。しかしこれは久々のデートの口実にもなるので意味は有るのです。
「買い物の後はお食事でもご一緒にいかがですか?」
「まあ、それは素敵ですわね」
「それでは、当日は『ニース』ではなく『ニーハイムス』でお伺いします。……先日の件も有りますし。護衛を付けます」
カレンとお忍びでじっくりデートしたい欲は有るが、ここは安全策を取らねばなるまい。先日の毒矢のような事件にはもう巻き込みたくない。それに――
「『ニース先生』が生徒と一緒に買物をしているところを誰かに見られてもいけませんしね」
「――……解りました。それでは、お買い物の日を楽しみにお待ちしておりますね」
※
「それで、何で『護衛』のひとりが私なんだい? ニーハイムス」
学院の教会の礼拝堂で、俺とシオンは座って話していた。
「カレンの護衛には万全を尽くしたい。万全を尽くすとなると強者が必要だ。俺の知っているうちの一番の強者はおまえだ、シオン」
「……神職者に剣を握れと? もう退役した者に声を掛けるのはお門違いだ」
シオンは俺に心底呆れているようだった。だが俺は本気だ。
「しかしカレンだぞ? カレンを護るんだぞ?」
「…………はぁ。この仕事は高く付くぞ。覚えておけニーハイムス」
カレンの名前を出すと、案外すんなり受けてくれる辺り、やっぱりカレンの人徳だろう。しかし。
「神職者が値段を交渉するなんて前代未聞だな」
「神職者が自ら剣を握るほうが前代未聞だよ。神職者はヒトを奮い立たせて剣を握らせるのが仕事なんだ」
※
――日の曜日。早朝。
今日はカレンと買い物(と、食事)に行く約束の日だ。
「遅い。ニーハイムス閣下」
馬車の前で待ち構えていたのは、普段のカソック姿とは違い、騎士服に身を包んだシオンだった。
「凄い。その姿何年ぶりだい?」
「かれこれ3年ぶりになる。どうも落ち着かないな」
「俺にとってはこちらの姿の方が見慣れているんだがなぁ」
シオンをメインの護衛として俺とカレンの側に置き、他には軽装の騎士と魔法使い達を周辺に散らばらせる。それが今日の護衛の配置だ。
シオンが手袋を正しながら言う。
「まあ、これだけ護衛を張り巡らせたアピールをしておけば、事前に事件は防げるだろうがな」
「そのためのお前の『名前』でもある。今日はよろしくな、シオン」
シオンと一緒に馬車でカレンの邸宅に向かい、迎えに行く。
カレンは俺に加えてシオンが迎えに来ていたことに驚いている様子だ。
「シオン神父様……なぜ!?」
「今日だけは『神父様』ではなく、『騎士』です。……ちょっとだけ復職しました」
「シオンに頼み込んで特別に護衛に付いてもらいました。この上なく頼もしいはずです」
「その評価はありがたく受け取っておくよ」
シオンは俺に対しては昔のままの態度と言葉遣いだ。
――店に着く。今日の買い物は『ニース先生』としてのバレンタインデーの返礼品なので、それ相応の庶民的な雑貨が良いだろうと、カレンにこの店を紹介された。
何でも『聖夜祭』の時、孤児院の子供たちへのプレゼントを選んだ店なんだそうで。最近開店して業績を伸ばしている新進気鋭のバラエティ・ショップというやつだ。
経営者一族を調べたところ、シュリ・ハイドレンジアの家だと言うことで、身元もしっかりしているし大丈夫だろうと判断した。
しかし、書き入れ時でもある日の曜日に大公である俺が護衛を連れて入るとなると仰々しすぎて他の客の迷惑になる。なので本来なら入店出来ない開店前に貸切状態で買い物させて頂くことになった。
「朝早くからすみません、大公閣下」
店のオーナーだという男から挨拶をされる。
「いいえ、開店前の忙しい時間を私の為にずらして頂き、ありがとうございます」
「大公閣下、こちらの者が店内をご案内致します。私の息子です」
そう言われて、オーナーの後ろから一歩前へと出てきたのは。
「……シュリではありませんこと!?」
カレンが驚いている。俺も驚きだ。まさかシュリ本人が出てくることになるとは。
しかし今は教師の『ニース』は封印しているのでシュリとは初対面ということになる。ここは冷静に。
「カレン、お知り合いですか?」
「――はい。魔法学院の級友です。確かに以前このお店に来た時もシュリは店員さんとして居ましたが、今日この場でお会いすることになるとは思っていませんでした」
「だから言ったでしょ。俺の家が経営しているって。……ようこそニーハイムス・アスター大公閣下。ようこそ、カレン・アキレギア伯爵令嬢」
「……なるほど。カレンのご学友ですか。よろしくおねがいします、『シュリ』でよろしいですか?」
シュリはあからさまに誰かと似ている俺のことを怪訝に思ったようだったが、流して。
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