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第9章

【57】チョコレートプロジェクト その2!

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 続、バレンタインデー。

 放課後すぐ。ヒロさんと私は各々ベルさんとハクテイさんを連れて、まず校舎裏の教会のシオン神父様の元に向かいました。
 シオン神父様は快く出迎えてくださいました。
「やあ、今ちょうど、リュオン様と庭でお茶をしているんですよ。ご一緒しますか?」
 ヒロさんが元気にお返事致しましたわ。
「ありがとうございます! でもお茶は今日はいらないです! ……リュオン様にもお会いしたいのでお庭の方に回っていいですか?」
「もちろん、よろしいですよ。どうぞ」

 お庭に回ると、生徒の姿をしたリュオン様がテーブルセットに腰掛けていらっしゃいました。
「おお、ヒロ、カレン、よく来たの」
「リュオン様、ごきげんよう」
「リュオン様こんにちは!」

 ヒロさんが袋からリュオン様とシオン神父様にチョコクッキーの包みを取り出しましたわ。
「リュオン様とシオン神父様に、これを!」
 私もヒロさんに続いて包みを取り出しました。
「私からも、こちらを!」
 シオン神父様はにっこりと微笑んでいます。
「おや、私にもですか? ありがとうございます」
 リュオン様もお喜びの表情です。
「おお、私にもか。バレンタインデーの贈り物など、もう貰うことなど無いと思っていたぞ」
 やった! おふたりは快く受け取ってくださったわ!
「しかし本当によろしいのですか? おふたりにもお茶の準備を――」
 シオン神父様が気を利かせてくださるわ。
「大丈夫です。これから、まだヒロさんとふたりでニース先生のところにも行きますので……」
「茶会になら、我が参加しようか」
 ハクテイさんが元の白虎に戻ってシオン神父様とリュオン様に話しかけます。
「ああ、歓迎しますよハクテイさん」

 ハクテイさんはヒロさんと私を送り出してくださったわ。
「それでは、我はここで談笑しているとするから、カレンはニースのところに行くが良い」
 シオン神父様とリュオン様は納得した表情で。
「ほう。それならばふたりに幸有らんことを――」
 リュオン様が祝福の言葉をお掛けになってくださったわ。


  ※


 ――ニーハイムス様ことニース先生の執務室。

 コンコン。ドアをノックします。
「はい、空いてますよどうぞ~」
 中からニース先生の声が聞こえますわ。それでは失礼して。
「失礼します。ニース先生――」

 ニース先生の机は、生徒からのバレンタインの贈り物で山になっていました。

 ヒロさんが第一声を上げましたわ。
「うわっ! すごい! ニース先生大人気ですね!」
「ぴゅい~!」
 ベルさんは甘い匂いのお菓子の山に反応したようですわ。ヒロさんが『ダメだよ』と躾けています。
 ニース先生は笑顔で返答しました。
「いやぁ……なんだか大変なことになってしまって。私自身も驚いています」
「それじゃあ私たちもこの山のひとつに……えいっ!」
 ヒロさんはデスクの山に自分のチョコクッキーの包みを乗せましたわ。
 続けて私も。
「それでは私も路傍ろぼうの石に過ぎませんが――」
 山に、自分の包みを乗っけます。

 ヒロさんはマイペースに元気よく、執務室を後にしようとします。
「それじゃあ、私は他にも渡しに行くところがあるのでこれで――! カレンちゃんはニース先生で最後だよね?」
 私はヒロさんに尋ねました。
「――……シュリですか?」
「うん! 教室じゃ渡し損ねちゃったから。これからひと気の少ないところを探してみるよ~! ちゃんと会えるといいんだけど」

「……なんだ、残念です。お礼にお茶でも淹れたのに」
 ニース先生がヒロさんと私に仰っしゃります。
「お茶ならカレンちゃんとしててください! それじゃあ私はこれで!」

 ヒロさんは威勢よく執務室を飛び出して行きましたわ。無事、シュリに会えるといいのですが――

「カレンはお茶を飲んで行きますか?」
 ニース先生が私に尋ねます。
「…………お邪魔でなければ」
「邪魔だなんてとんでもない!」

 ――と、言うわけで私はニーハイムス様に紅茶を淹れていただきました。
 いつもより味がそっけなく感じるのは何故でしょう?

「カレン……何か怒っていません?」
 ニーハイムス様が恐る恐る訊いて来ましたわ。
「? 何を怒ることが有るのでしょう? 意味不明ですわ」
「……やっぱり、不機嫌ではありませんか?」
「別にどこも」

「カレンはさっき自分のチョコレートを『路傍の石』と言ったでしょう?」
「……それが何か?」
「カレンのチョコレートが路傍の石なワケありませんから」
「さあ? 口では何とでも言えるでしょう? 大人気のニース先生」
「…………カレン~……そういうところですよぉ…………」

 ――……解っています。私は何を幼稚に拗ねているのでしょう?
 教師でもあり、この容姿と解りやすい人気の授業を執り行なう『ニース先生』に、他の生徒からバレンタインデーの贈り物が来ないわけが有りませんわ。それが義理でも、本命でも。本命でも。

「……先程のチョコクッキーはニース先生に宛てたモノですわ……」
「ん?」
 私は手持ちの袋からもうひとつ、別のチョコレートが包まれた箱を取り出しました。
「こちらのチョコガナッシュは、ニーハイムス様に」
「! ふたつも用意してくださったんですか!?」
 ニーハイムス様は驚いてか前のめりになっています。
「そちらのクッキーは、ヒロさんと一緒に作りました。こちらのガナッシュは私がひとりで作りました。それだけの違いですが」

 私はニーハイムス様にガナッシュの箱をお渡ししました。
「……もしかして、こちらのチョコレートは俺だけに特別に?」
「――……はい」
「抱きしめてもいいですか?」
「――……はい?」
「嫌と言っても聞きませんけど」

 ニーハイムス様は席を立ち、私の側までやってきて私の手を引き抱き寄せましたわ。
「……ニーハイムス様、少し力が強いです」
「あっ、これは失礼」
「いいえ。構いませんけれど……」

 私は胸に抱えたモヤモヤごと抱きしめられて、何とも言えない気分でしたわ。
 ニーハイムス様に、いいえ、男の方にこんな得も知れぬ気持ちを抱くのは初めてでどう表現したらいいのか解りませんの。

「ニーハイムス様。私解りません」
「ん? 何がですかカレン」
「そこの机の沢山の『ニース先生』へのチョコレートを見たら、気持ちが落ち着かなくなってしまって。ついニーハイムス様にあたるような態度を取ってしまいました。すみません。本当は今もバレンタインデーなんて浮足立っている時では無いはずなのに……」
 ニーハイムス様は私を腕に抱き、少し思案した後に仰っしゃりました。
「……カレン。それはいわゆるというものですか?」
「…………嫉妬ですか? つまりやきもち……?」
 なるほど。私はあのチョコレートの山を見て、そこに沢山の女生徒をあてがってみていた訳ですわね。


 チョコレートプロジェクト、続きますわ!
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