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第7章

【50】ニュー・イヤー!

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 ――新年。

 私は久しぶりに社交界に足を運ぶことになりました。
 王家への新年のご挨拶に、父母と私で宮殿に向かいましたわ。
 丈の長いドレスを着るのも久しぶりで、なんだか窮屈に感じますわね。

「アキレギア家の皆様ですね、どうぞ、お通りください」
 宮殿入り口で受付を済ませ、美しい中庭を抜け、中央のホールに向かいます。
 ここを抜けると、王家の皆様や貴族の方々、そしてニーハイムス大公閣下もいらっしゃるはずです。
 私はここで真っ先にニーハイムス様に新年のご挨拶をすると決めておりましたの!

「ニー……」
 ところが。
 ニーハイムス様は沢山の女性に囲まれて垣根のような状態になっておりましたわ。

「新年、おめでとう。カレン」
 先に私に挨拶をしてきたのはエルゼンでした。
「……おめでとうございます、今年もよろしく、エルゼン」
「しかしあれだな、ニーハイムス様は相変わらず大人気だな……」
 私の心情を知ってか知らずか、エルゼンは話しを続けますわ。
「ニーハイムス様とお前の婚約はまだ秘密裏なのだろう? 仕方ないな」

 それでも。私に気が付いて私に歩み寄ってくださって欲しかったというのは私のワガママかしら……?

 私はホールの端でエルゼンと談笑を続けましたわ。途中、お茶会友だちのリサたち(『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』における『悪役令嬢カレン』の『取り巻き』とされる学友たちですわ)ともご挨拶をし、マイペースに新年会を楽しんでおりましたの。

 横目で見るたびにニーハイムス様は違う女性たちとお話しをしてらっしゃいますわ……。次期国王最有力候補と噂され、見目も麗しく人格も素晴らしいと来れば近寄る女性は後を絶たないのはわかりますけれど……。
 今まで社交界に来ても、ニーハイムス様のことなんて気にかけていなかったので気付かなかったのですが、実はこんなにもお忙しい方でしたのね……。

「あら、カレンとエルゼンではなくて? そんな端でお話ししているんですもの。気付かなかったわ!」
 ニーハイムス様の妹君のレイニー様がお見えになりましたわ。
「レイニー様、新年おめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」
 エルゼンと私はレイニー様にご挨拶をしたわ。
 レイニー様はお身体が弱いので滅多に社交の場にも姿を現しませんが、最近は調子がよろしいのかしら。年末の『聖夜祭』から引き続き、お会いできるとは。

「お兄様とはもうお会いになった?」
 レイニー様は私に尋ねられましたわ。
「――……いいえ。お忙しいようですので」
「あら、あら、まあまあ。それはよろしくないわね!」
 レイニー様は大袈裟に私に注意なさったわ。
「お兄様ったら、今日はカレンと会えるからと気合いを入れてパーティーに望んだんですのよ」
「……それは本当ですか?」
「私はヒトを茶化しても嘘はつかないわ。基本的に」
 レイニー様は私の手を掴んで歩き出しました。

「……レイニー様は気がお強いからな」
 エルゼンはひとり、取り残されていますが笑顔で手なんか振っていますわ!

「お兄様! はい、どいてください。お兄様にお会いしますの。お兄様!」
 レイニー様は群がる女性の垣根をかき分け、私をニーハイムス様の元へと放り出しましたわ!
 雑! 結構雑ですわレイニー様!
 ぽんっ! 私はニーハイムス様の胸に頭をぶつけてしまいました。
 ニーハイムス様は私だと気づくと呆気にとられたようなで。

「…………カレン」
「――……ニーハイムス様……」
「え、あ、失礼。大丈夫ですか、カレン・アキレギア嬢」
「あ、いいえとんでもないですわニーハイムス閣下」
 ニーハイムス様と私は改めて、名を呼び合いました。

「うちの妹君が悪戯をしたようですね、すみません」

 そう言われて、後ろを振り向くと、もうレイニー様はどこにもいらっしゃいませんでした。
「よろしければ、お詫びにあちらでお茶でも?」
 ニーハイムス様はテラスのほうを指しましたわ。
「……! はい、喜んで!」
 ニーハイムス様は周りの女性たちにすみませんと言いながら、私をエスコートしてくださったわ。
 そうしてテラスのテーブル席に着くと給仕に一言。
「私はロゼで。彼女は……紅茶でよろしいですか?」
「はい」

 給仕がワインとお茶を準備しに行ってから、ニーハイムス様はひとつ、おおきなため息をつきましたわ。
「……貴女を探そうにも、あのように足を阻まれてしまって。困り果てていたのですよ」
「そうですか? ニーハイムス様は次々と女性に囲まれて笑顔を絶やさず、楽しそうに見えましたけど」
「――……カレン~……本当にそう見えましたか?」
「知りません」
「――……」

 給仕がワインとお茶を運んで下さいましたわ。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

 そうして給仕が去った後。

「……もしかして、カレン、俺の周りの女性に妬いていたのですか?」
「――そんなこと有りませんわ! 私はエルゼンやレイニー様などと楽しく歓談していましたもの」
 私は言葉とは裏腹に、そっぽを向いてしましました。
 冬の青空は美しく、薄い雲は高いですわ。
「……ふふ。カレンは可愛いですね。よく知っていますけれど」
「……………な!」
 私はこの寒空の下、温かい紅茶だけでは得られない熱を耳まで感じました。つまり、恥ずかしかったのですわ!
「今の俺はいつもの、貴女だけのニーハイムスですよ、カレン」
「……今年も相変わらず、ニーハイムス様は恥ずかしい言葉をスラスラと……」
「おや、『嬉しい言葉』の間違いではないのですか? 悲しいな」
 ニーハイムス様は、ワインをひとくち飲みましたわ。
「……嬉しくないと言えば嘘になりますが、私の心が平静を保てません」
「心を揺らして頂けるなら嬉しい限りですよ」

 ああ、もう、私のペースは乱されっぱなしですわ!
「ここがふたりきりの場所だったら、今すぐ抱きしめていたところですが。残念だ」
「あの四方八方の女性たちを敵に回すなんて恐ろしいことはさせないでください」

 今も、ホールからニーハイムス様と私にいくつもの視線が刺さっていますわ。

「貴女の卒業まであと2年と少し。結婚した暁には堂々とふたりでパーティーを謳歌しましょうね」

 ニーハイムス様は刺さる視線をものともしません。
「う~ん。婚約発表と同時に結婚が理想的ですかねぇ……」
 ワイングラスを傾けながら、まだ先のお話しをしていらっしゃるわ。

「そんな先のことより」

 私はティーカップをソーサーに置き、ニーハイムス様の目を見て、改めて言いました。

「今年もよろしくお願い致します。ニーハイムス様」
 
 ニーハイムス様、も私の目を見て仰っしゃりました。

「ああ……今年もよろしくお願いします、カレン」
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