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第1章
【3】妖精王様現る!
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「ニーハイムス様、なぜ、学院まで来てあのようなことを……?」
私は単刀直入に訊ねたわ。
「それは朝、お会いした時に言った事が全てですよ、我がカレン――」
ニーハイムス様は私に跪き、手の甲にキスをしてきたわ。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! リアル殿方に耐性など、前世から全く有りませんのよ!?
「貴女を、ひとりで学院に放り投げることは私には耐えられなかった、それだけです。特に貴女の学年は優秀な男子生徒が多いと耳にしていましたので――」
それ、全部、ヒロ・インちゃんの為に用意された男たちだから大丈夫です!!
「……して、貴女に渡した婚約指輪はどういたしましたか?」
ニーハイムス様は私が指輪をしていないことに気付いたようだった。
「はい、指輪は学院内では目立ってしまうのでこちらに――」
ペンダント仕立てにし、首から下げた指輪をニーハイムス様に見せた。
「……良かった。破棄でもされていたら私の心も砕け散っているところでした」
そんな、大袈裟な。
「その指輪には不幸を幸福に転じる加護のまじないが掛けてあるのですよ。貴女に幸福な学院生活が訪れますように――――」
「まあ! ありがとうございます。それでもしかしたら私――」
ヒロ・インちゃんと『カレンちゃん』『ヒロさん』と呼べる仲になったのかもしれませんわ……!
「早速、何か良いことが有りましたか?」
「はい!」
私は満面の笑顔でニーハイムス様にお返事をしたわ。
「うっ……貴女の笑顔は刺激が強すぎる。このままここで抱きしめてしまいたくなります」
「まあっ、抱きしめるだなんてそんな……」
恥ずかしすぎますわっ! そんな歯の浮くような台詞をよく繰り出せますわね……?
「ニーハイムス様はお歳上なだけあって、女性の扱いに慣れてらっしゃるんですわね?」
私は思い付いたことをそのまま言った。するとニーハイムス様は、
「そ、そんなことはありません! 私は10歳の時から貴女一筋でしたので――」
10歳? とすると、私は5歳の頃ですわね。ニーハイムス様と私は5つ歳が離れているの。
「その頃、何か有りましたか?」
「…………覚えていらっしゃらないのなら、今はいいです」
ニーハイムス様は少し寂しげに微笑んだわ。私が忘れているのでしょうけど、一体何が有ったのかしら?
「それでは、私はこれで失礼致します」
「あら、もうそんな時間ですか?」
「はい。あまり遅くまで婚前の女性と共に過ごすのは宜しくないですからね」
私は屋敷の外まで見送りに出たわ。馬車が待機していました。
「明日の予習、忘れないように、カレン」
ニーハイムス様はそう言うと、私の頬に軽くキスをして馬車にそそくさと乗り込んでしまったわ。
一瞬、何が起こったのか解らなかった私は呆然と立ち尽くしてしまいましたわ……っ!
「お熱いですね、ニーハイムス様とカレン様」
侍女のデンファレが軽く茶化す。
「そそそそそ、そんなことっ……無いからぁ!!」
※
「おはよう! カレンちゃん!」
朝の教室にヒロ・インちゃんのよく通る声が響く。
「おはようございます。ヒロさん!」
私とヒロさんのやりとりに、周りがざわめいたわ。
「何であの公爵令嬢とヒロちゃんが挨拶を……?」
「いつの間にあんなに親しくなったの……?」
攻略対象の面々も驚いている様子でしたが、知ったことかですわ。
「あのね、カレンちゃんとは仲良くなりたかったの――」
「奇遇ですわね。私もそう思っていましてよ」
ええええええええ!? 本当ですか!? これって夢オチエンドじゃないんですの!?
「それで、今日の放課後、ちょっと付き合って貰えるかな? 会ってもらいたい方が居るの――」
「か、かま構いませんことよっ!」
私はヒロさんの提案に思い切り頷きましたわ。
けれど会って貰いたい方とは一体どなたでしょう?
まだ私の前に登場していないヒロさんの攻略対象は神父のシオン・アカンサス様と隠し攻略対象の妖精王のリュオン様ですが、そのどちらかなのかしら――?
「それじゃあ、放課後、学院裏の泉の林へ行きましょう!」
あ、これはリュオン様だわ。
リュオン様は人間嫌いで悠久の時を生きる妖精王。たまたま出会ったヒロさんと親交を深め、人間への理解を深めていくんですけれど――――
――放課後。
ヒロさんと私は学院の裏の泉の林に向かったわ。
ヒロさんは私にぜひにと言ったけど、私はリュオン様に呼ばれていないはずだわ。あの人間嫌いのリュオン様が学院生活早々にヒロさん以外の人間を招き入れるとは思えない。
「他の人は、信じてくれないと思ったのだけど、カレンちゃんならきっと信じてくれるって思ったの――」
「あら?何事かしら?」
私はシラを切ってみたわ。ごめんなさい、ヒロさん。
「この先の泉に――妖精さんが居るんです!」
「まあ! それは素敵ね。私もお会いしてみたいわ」
まあ、無理なんでしょうけれど。きっと私が来たら隠れて出てきてくれないわ。
そうして私たちは泉に着いたわ。この泉は昔から美しさ故に『妖精の泉』と呼ばれてはいるものの、その妖精を見た者は居ないんですの。
「リュオン様、リュオン様! 私ですヒロです。今日もやって参りました――」
シン―――
泉は静まり返っているわ。ほら、やっぱり私が付いてきたからリュオン様はヒロさんの呼び出しに応じない。
「……ほう、そなたがヒロの『友達』か。なかなか面白いモノを身に着けているな」
ギクリ。泉を正面にした私たちの後ろから、知らない男の方の声がしましたわ!
私は恐る恐る振り返ると――
「リュオン様! 御機嫌よう!」
ヒロさんがその後ろの男性に挨拶をしているわ。
銀髪のストレート・ロングに深いラベンダー色の瞳、そして背中から生えた大きな蝶のような羽。
それはまさしく妖精王リュオン様その人に違いなかった――――
「ヒロだけが『特異点』だと思っていたが、どうやらお前も『特異点』のようだな。そなた、名を何と言う?」
『特異点』? 何の事かしら。このゲームではそんな単語は出なかったはずよ。
「わ、私の名前はカレンです。カレン・アキレギアと申します――」
私は出来る限り丁寧に、制服のワンピースの裾を持って挨拶をしたわ。
「クツクック。カレンか。なるほど、育ちはいいようだ。だが畏まることは無い。私は妖精王リュオン。この林の泉から、この国の妖精たちを統べている。ただそれだけの存在だ」
それだけでもとても恐れ多いことですわっ!
リュオン様は私の首元を指して、
「それは中々に面白いな。大恋愛の果てのまじないが掛かっている。そなた、なかなかやるのう」
「え……」
おそらく、ニーハイムス様に頂いた指輪のことでしょう。大恋愛なんて、そんな! ニーハイムス様は一体何をこの指輪に閉じ込めているの!?
「カレンちゃん、大恋愛してるのっ!? 聞かせて欲しいな!」
ヒロさんが好奇心旺盛な目で食いついてきましたわ。
「し、知りませんわっ! 私殿方とのお話しなんてこれっぽっちも――」
「ははは、まあよい、まあよい」
こちらに座れ、とリュオン様は魔法でテーブルセットを出してくださいましたわ。なんて素敵! 私たちはお言葉に甘えて椅子に腰掛ける。
「してカレンとやら。私はヒロに昨日『この世界で一番親しいと思える人物を連れてこい』と命令したのだが。お前がそうなのか?」
「え。し、知りませんわっ! 私とヒロさんはまだ出会って3日しか経っておりませんのよ――!」
「年月じゃないのよ、カレンちゃん」
ヒロさんは腕組みして得意げに語った。
「私は直感で、あなただと思ったのよ!」
「まぁ、ヒロさん……」
リュオン様は続けたわ。
「その直感は当たっていたようだな。カレン、お前からも『特異点』、いや、『トクテン』の匂いがプンプンする」
「それはどういうことですの…………?」
『トクテン』とは、どんな点なのでしょうか?
私は単刀直入に訊ねたわ。
「それは朝、お会いした時に言った事が全てですよ、我がカレン――」
ニーハイムス様は私に跪き、手の甲にキスをしてきたわ。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! リアル殿方に耐性など、前世から全く有りませんのよ!?
「貴女を、ひとりで学院に放り投げることは私には耐えられなかった、それだけです。特に貴女の学年は優秀な男子生徒が多いと耳にしていましたので――」
それ、全部、ヒロ・インちゃんの為に用意された男たちだから大丈夫です!!
「……して、貴女に渡した婚約指輪はどういたしましたか?」
ニーハイムス様は私が指輪をしていないことに気付いたようだった。
「はい、指輪は学院内では目立ってしまうのでこちらに――」
ペンダント仕立てにし、首から下げた指輪をニーハイムス様に見せた。
「……良かった。破棄でもされていたら私の心も砕け散っているところでした」
そんな、大袈裟な。
「その指輪には不幸を幸福に転じる加護のまじないが掛けてあるのですよ。貴女に幸福な学院生活が訪れますように――――」
「まあ! ありがとうございます。それでもしかしたら私――」
ヒロ・インちゃんと『カレンちゃん』『ヒロさん』と呼べる仲になったのかもしれませんわ……!
「早速、何か良いことが有りましたか?」
「はい!」
私は満面の笑顔でニーハイムス様にお返事をしたわ。
「うっ……貴女の笑顔は刺激が強すぎる。このままここで抱きしめてしまいたくなります」
「まあっ、抱きしめるだなんてそんな……」
恥ずかしすぎますわっ! そんな歯の浮くような台詞をよく繰り出せますわね……?
「ニーハイムス様はお歳上なだけあって、女性の扱いに慣れてらっしゃるんですわね?」
私は思い付いたことをそのまま言った。するとニーハイムス様は、
「そ、そんなことはありません! 私は10歳の時から貴女一筋でしたので――」
10歳? とすると、私は5歳の頃ですわね。ニーハイムス様と私は5つ歳が離れているの。
「その頃、何か有りましたか?」
「…………覚えていらっしゃらないのなら、今はいいです」
ニーハイムス様は少し寂しげに微笑んだわ。私が忘れているのでしょうけど、一体何が有ったのかしら?
「それでは、私はこれで失礼致します」
「あら、もうそんな時間ですか?」
「はい。あまり遅くまで婚前の女性と共に過ごすのは宜しくないですからね」
私は屋敷の外まで見送りに出たわ。馬車が待機していました。
「明日の予習、忘れないように、カレン」
ニーハイムス様はそう言うと、私の頬に軽くキスをして馬車にそそくさと乗り込んでしまったわ。
一瞬、何が起こったのか解らなかった私は呆然と立ち尽くしてしまいましたわ……っ!
「お熱いですね、ニーハイムス様とカレン様」
侍女のデンファレが軽く茶化す。
「そそそそそ、そんなことっ……無いからぁ!!」
※
「おはよう! カレンちゃん!」
朝の教室にヒロ・インちゃんのよく通る声が響く。
「おはようございます。ヒロさん!」
私とヒロさんのやりとりに、周りがざわめいたわ。
「何であの公爵令嬢とヒロちゃんが挨拶を……?」
「いつの間にあんなに親しくなったの……?」
攻略対象の面々も驚いている様子でしたが、知ったことかですわ。
「あのね、カレンちゃんとは仲良くなりたかったの――」
「奇遇ですわね。私もそう思っていましてよ」
ええええええええ!? 本当ですか!? これって夢オチエンドじゃないんですの!?
「それで、今日の放課後、ちょっと付き合って貰えるかな? 会ってもらいたい方が居るの――」
「か、かま構いませんことよっ!」
私はヒロさんの提案に思い切り頷きましたわ。
けれど会って貰いたい方とは一体どなたでしょう?
まだ私の前に登場していないヒロさんの攻略対象は神父のシオン・アカンサス様と隠し攻略対象の妖精王のリュオン様ですが、そのどちらかなのかしら――?
「それじゃあ、放課後、学院裏の泉の林へ行きましょう!」
あ、これはリュオン様だわ。
リュオン様は人間嫌いで悠久の時を生きる妖精王。たまたま出会ったヒロさんと親交を深め、人間への理解を深めていくんですけれど――――
――放課後。
ヒロさんと私は学院の裏の泉の林に向かったわ。
ヒロさんは私にぜひにと言ったけど、私はリュオン様に呼ばれていないはずだわ。あの人間嫌いのリュオン様が学院生活早々にヒロさん以外の人間を招き入れるとは思えない。
「他の人は、信じてくれないと思ったのだけど、カレンちゃんならきっと信じてくれるって思ったの――」
「あら?何事かしら?」
私はシラを切ってみたわ。ごめんなさい、ヒロさん。
「この先の泉に――妖精さんが居るんです!」
「まあ! それは素敵ね。私もお会いしてみたいわ」
まあ、無理なんでしょうけれど。きっと私が来たら隠れて出てきてくれないわ。
そうして私たちは泉に着いたわ。この泉は昔から美しさ故に『妖精の泉』と呼ばれてはいるものの、その妖精を見た者は居ないんですの。
「リュオン様、リュオン様! 私ですヒロです。今日もやって参りました――」
シン―――
泉は静まり返っているわ。ほら、やっぱり私が付いてきたからリュオン様はヒロさんの呼び出しに応じない。
「……ほう、そなたがヒロの『友達』か。なかなか面白いモノを身に着けているな」
ギクリ。泉を正面にした私たちの後ろから、知らない男の方の声がしましたわ!
私は恐る恐る振り返ると――
「リュオン様! 御機嫌よう!」
ヒロさんがその後ろの男性に挨拶をしているわ。
銀髪のストレート・ロングに深いラベンダー色の瞳、そして背中から生えた大きな蝶のような羽。
それはまさしく妖精王リュオン様その人に違いなかった――――
「ヒロだけが『特異点』だと思っていたが、どうやらお前も『特異点』のようだな。そなた、名を何と言う?」
『特異点』? 何の事かしら。このゲームではそんな単語は出なかったはずよ。
「わ、私の名前はカレンです。カレン・アキレギアと申します――」
私は出来る限り丁寧に、制服のワンピースの裾を持って挨拶をしたわ。
「クツクック。カレンか。なるほど、育ちはいいようだ。だが畏まることは無い。私は妖精王リュオン。この林の泉から、この国の妖精たちを統べている。ただそれだけの存在だ」
それだけでもとても恐れ多いことですわっ!
リュオン様は私の首元を指して、
「それは中々に面白いな。大恋愛の果てのまじないが掛かっている。そなた、なかなかやるのう」
「え……」
おそらく、ニーハイムス様に頂いた指輪のことでしょう。大恋愛なんて、そんな! ニーハイムス様は一体何をこの指輪に閉じ込めているの!?
「カレンちゃん、大恋愛してるのっ!? 聞かせて欲しいな!」
ヒロさんが好奇心旺盛な目で食いついてきましたわ。
「し、知りませんわっ! 私殿方とのお話しなんてこれっぽっちも――」
「ははは、まあよい、まあよい」
こちらに座れ、とリュオン様は魔法でテーブルセットを出してくださいましたわ。なんて素敵! 私たちはお言葉に甘えて椅子に腰掛ける。
「してカレンとやら。私はヒロに昨日『この世界で一番親しいと思える人物を連れてこい』と命令したのだが。お前がそうなのか?」
「え。し、知りませんわっ! 私とヒロさんはまだ出会って3日しか経っておりませんのよ――!」
「年月じゃないのよ、カレンちゃん」
ヒロさんは腕組みして得意げに語った。
「私は直感で、あなただと思ったのよ!」
「まぁ、ヒロさん……」
リュオン様は続けたわ。
「その直感は当たっていたようだな。カレン、お前からも『特異点』、いや、『トクテン』の匂いがプンプンする」
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