16 / 16
16、妹思いの兄
しおりを挟む
ーー自分の部屋に戻るところに帰宅した兄と顔を合わせたセレス。
「セレス!」
「お兄様!」
嬉しそうな笑顔でゆっくりと近づいてくる兄のヴィンセント。優しく抱き締められると、その温もりは久しぶりでホッとしていた。
「こんなところで何をしていたんだ?」
兄のヴィンセントに聞かれて、
「お母様とお父様とお茶をしていました」
そう答えると、少し何かを考え込んだヴィンセントから、
「私ともお茶をしないかい?」
と誘われた。
「勿論です!」
思わずすぐに返事をすると、兄には嬉しそうに微笑まれた。
そのまま兄のエスコートで歩き出す。
ヴィンセント·ヴィクター·ダリアートン。
優しくて仕事は真面目で剣と魔法を使えて、それでいて物凄く強いのに、妹のセレスには滅茶苦茶に甘い、金髪で青い目のイケメンの自慢の兄。
――私の部屋に戻ると、隣同士に座った。すぐにケイトがお茶の用意をする。
兄が紅茶を一口飲むのを見てから、
「それで、何かお話があったのでは?」
私がそう切り出すと、思うところがあったのか兄は苦笑していた。
カップをテーブルに置くと、
「……そうだね。さて、どこから話したものか……」
とどこか言いにくそうにしている兄。少し考え込んで、意を決したように、
「……グレイヴィルア公爵のことなんだけど」
と話を切り出した。
「(ドキッ!)」
名前を聞いただけで、心が反応してしまう。
兄からも何かを言われるのかと、思わず自然に身構えてしまう。
そんな私の様子に気が付いたのか、小さく笑った兄は私の頭を撫でながら、
「別に責めているとかではないよ。……ただ、お前が心配なんだ」
真っ直ぐと見つめるその目は本当に私のことを心配してくれている。
両親に続き、兄にも本気で心配してくれていることに、心が温かくなってしまう。
「ありがとうございます」
私は素直にお礼を言う。
「《噂》のことは知っているか?」
そう聞かれて、やはり兄の話しもそのことかと思いつつ、さっきの《両親の話》もそのことだったことを伝える。
「……二人は賛成した?」
その言葉だけでも、どうやら兄も公爵とのことは特に反対しているようには見えなかった。
「はい」と私が頷くと、そうだと思ったと二人の反応を予想していたようだ。
ーーそれにしても、公爵の好感度はかなり高いのね。
意外と家族の公爵への好感度が高いことに少しだけ驚いてしまう。
「……まあ、公爵の方は問題ないからな」
兄の言葉に思わず、「?」となってしまう。
『セレスに近付く人間は例外なく調査している』
兄のとんでもなく深い愛情に呆れつつも、見守ってくれていることに関しては、素直に嬉しかったのも事実。
ーーそれでも……と、とりあえず《今はスルー》しておくことにする。
それから、『ミシェル・ナヴァールのことも調査をしてある』と聞いて、正直、内心かなり動揺していた。
ーーまさか、《兄もミシェルのことを疑っていた》とは思っていなくて、さすがに驚いてしまう。
ーー正直、男はミシェルのことを疑ったりするようなことは、ないと思っていた。
小説でもどちらかと言うと、皆味方だったような気がする。
……って言うか、男は皆ミシェルの味方だった気がする。
それでも、目の前にいる兄はミシェルのことを疑い、調査までしていたことにちょっと嬉しくなってしまう。
テーブルに二つの書類が置かれる。
「これを読むかどうかはお前の判断に任せる」
そう言って、紅茶を口にした。
話の流れから、
『公爵のことを調べた調査結果の書類』
『ミシェルのことを調べた調査結果の書類』
のことだとわかったセレス。
ただ、書類をじっと見ていた私の頭を撫でると、
「無理して読む必要もないし、読まなかったとしても、特に問題ない。(こちらで何とかすればいいだけだしな)」
兄はフッと笑うと、
「読んだとしても問題ない。……セレスの行動に有利になるだけだ」
と、意味ありげなことを言った。
「……よくわからないのですが」
私が戸惑っていると、
「ハハハッ。……情報はあればあるほどに物事が有利に運ぶ」
といつもより真面目な表情で言われた。
「……情報は武器……ですか?」
「(結局は、書類を読んだ方がいいって言ってるのよね?)」
ーー結局は、兄は自分のことを気遣ってくれているのがよくわかった。
「そうだ。特に社交界では必須だからね。セレスもおいおい覚えていくといいよ」
そう言って、また頭を撫でてくれる。
「……はい」
兄の愛情に少しだけ泣きそうになった。
ーーその後は、とりとめのない話をしながら、兄とのティータイムを楽しんだのだった。
「セレス!」
「お兄様!」
嬉しそうな笑顔でゆっくりと近づいてくる兄のヴィンセント。優しく抱き締められると、その温もりは久しぶりでホッとしていた。
「こんなところで何をしていたんだ?」
兄のヴィンセントに聞かれて、
「お母様とお父様とお茶をしていました」
そう答えると、少し何かを考え込んだヴィンセントから、
「私ともお茶をしないかい?」
と誘われた。
「勿論です!」
思わずすぐに返事をすると、兄には嬉しそうに微笑まれた。
そのまま兄のエスコートで歩き出す。
ヴィンセント·ヴィクター·ダリアートン。
優しくて仕事は真面目で剣と魔法を使えて、それでいて物凄く強いのに、妹のセレスには滅茶苦茶に甘い、金髪で青い目のイケメンの自慢の兄。
――私の部屋に戻ると、隣同士に座った。すぐにケイトがお茶の用意をする。
兄が紅茶を一口飲むのを見てから、
「それで、何かお話があったのでは?」
私がそう切り出すと、思うところがあったのか兄は苦笑していた。
カップをテーブルに置くと、
「……そうだね。さて、どこから話したものか……」
とどこか言いにくそうにしている兄。少し考え込んで、意を決したように、
「……グレイヴィルア公爵のことなんだけど」
と話を切り出した。
「(ドキッ!)」
名前を聞いただけで、心が反応してしまう。
兄からも何かを言われるのかと、思わず自然に身構えてしまう。
そんな私の様子に気が付いたのか、小さく笑った兄は私の頭を撫でながら、
「別に責めているとかではないよ。……ただ、お前が心配なんだ」
真っ直ぐと見つめるその目は本当に私のことを心配してくれている。
両親に続き、兄にも本気で心配してくれていることに、心が温かくなってしまう。
「ありがとうございます」
私は素直にお礼を言う。
「《噂》のことは知っているか?」
そう聞かれて、やはり兄の話しもそのことかと思いつつ、さっきの《両親の話》もそのことだったことを伝える。
「……二人は賛成した?」
その言葉だけでも、どうやら兄も公爵とのことは特に反対しているようには見えなかった。
「はい」と私が頷くと、そうだと思ったと二人の反応を予想していたようだ。
ーーそれにしても、公爵の好感度はかなり高いのね。
意外と家族の公爵への好感度が高いことに少しだけ驚いてしまう。
「……まあ、公爵の方は問題ないからな」
兄の言葉に思わず、「?」となってしまう。
『セレスに近付く人間は例外なく調査している』
兄のとんでもなく深い愛情に呆れつつも、見守ってくれていることに関しては、素直に嬉しかったのも事実。
ーーそれでも……と、とりあえず《今はスルー》しておくことにする。
それから、『ミシェル・ナヴァールのことも調査をしてある』と聞いて、正直、内心かなり動揺していた。
ーーまさか、《兄もミシェルのことを疑っていた》とは思っていなくて、さすがに驚いてしまう。
ーー正直、男はミシェルのことを疑ったりするようなことは、ないと思っていた。
小説でもどちらかと言うと、皆味方だったような気がする。
……って言うか、男は皆ミシェルの味方だった気がする。
それでも、目の前にいる兄はミシェルのことを疑い、調査までしていたことにちょっと嬉しくなってしまう。
テーブルに二つの書類が置かれる。
「これを読むかどうかはお前の判断に任せる」
そう言って、紅茶を口にした。
話の流れから、
『公爵のことを調べた調査結果の書類』
『ミシェルのことを調べた調査結果の書類』
のことだとわかったセレス。
ただ、書類をじっと見ていた私の頭を撫でると、
「無理して読む必要もないし、読まなかったとしても、特に問題ない。(こちらで何とかすればいいだけだしな)」
兄はフッと笑うと、
「読んだとしても問題ない。……セレスの行動に有利になるだけだ」
と、意味ありげなことを言った。
「……よくわからないのですが」
私が戸惑っていると、
「ハハハッ。……情報はあればあるほどに物事が有利に運ぶ」
といつもより真面目な表情で言われた。
「……情報は武器……ですか?」
「(結局は、書類を読んだ方がいいって言ってるのよね?)」
ーー結局は、兄は自分のことを気遣ってくれているのがよくわかった。
「そうだ。特に社交界では必須だからね。セレスもおいおい覚えていくといいよ」
そう言って、また頭を撫でてくれる。
「……はい」
兄の愛情に少しだけ泣きそうになった。
ーーその後は、とりとめのない話をしながら、兄とのティータイムを楽しんだのだった。
5
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~
茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。
更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。
シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。
初対面のはずの彼はシスカにある提案をして――
人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。
悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~
木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。
少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。
二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。
お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。
仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。
それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。
こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。
幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。
※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。)
※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞にて、ジョブ・スキル賞受賞しました!】
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる