3 / 25
クラウスの野望
しおりを挟む
王国一の港町ブルーゲートは、夜になっても活気が衰えない。
ここは「ゴルトウェーブ家」が治める町。ゴルトウェーブ家は港町を拠点に貿易業を興し、大成功を収めた。豊富な資金力と海外との人脈、そして質の高い海軍を持っている。
ブルーゲートの酒場や娼館はどこも大繁盛だ。その喧騒から離れた場所に、古くて汚い小さな酒場が一軒だけポツンとあった。店の中には二人の男が向かい合っている。他の客は誰もいない。
「お前の噂は聞いてるよ、魔法使いの爺さん」
二人とも帽子を深く被り、周囲の目を避けているようだ。
一人は年老いた男で、震える手でワインの入ったカップを手に取る。
「どうして私に仕事を頼もうと思ったんだ……? 知ってるだろう? 私の魔力は高くない。今やこうして、しがない占いをして日銭を稼ぐしかない男だよ」
「ああ、知ってるよ。お前は魔法使いとしては三流。だが占い師……いや、詐欺師としては一流だとね。ミストリオ家に狐みたいな女が入り込んで後妻に収まったらしいが、その女が頼りにしていた占い師というのはお前のことだな? この仕事はお前にしか頼めないと思ったんだよ」
もう一人の男は、見た目は二十代のようだった。目は蛇のように鋭く、口元は不自然なほど横に大きく開き、綺麗に並んだ白い歯が光る。
「詐欺師として……か。複雑だが、褒め言葉と受け取っておこう。それで、クラウス坊ちゃん。私は一体何をすればいい?」
クラウスと呼ばれたこの男。彼はゴルトウェーブ家の次男、クラウスである。
「簡単な術を使ってくれればいい。お前ならデクスター王に近づくこともたやすいだろう」
デクスター王と聞き、魔法使いは急に様子がおかしくなった。
「よ……よしてくれ。いくら私でも、この国の王に手を出すのは……」
魔法使いの震える手をクラウスは掴み、その手のひらに金貨を五枚置いた。
「これは手付金だ。成功したらこの二十倍払う」
「何だと……」
魔法使いの目が驚きで大きく見開いた。
「それだけじゃないぞ。ブルーゲートに家も用意してやる。女でも男でも、お前の欲しい人間も与えてやろう。何なら両方でもいいぞ」
クラウスは低い声で笑い、ワインを一気に飲み干した。
「わ……分かった。話を受けよう」
魔法使いは金貨を大事そうに自分の革袋にしまい込んだ。
ゴルトウェーブ家の次男、クラウスは目的の為なら手段を選ばない、危険な男だ。
港町ブルーゲートは彼の庭。ゴルトウェーブ家の主人であり、事業を行う父マシューと兄ブレンドンは仕事で飛び回り、殆ど家にいない。マシューはクラウスを甘やかし、幼い頃から彼に何でも与えてきた。クラウスは、欲しい物は全て手に入れなければ気が済まない性格になった。
そして彼は怒りっぽく、暴力的でもあった。成人してすぐにクラウスは妻を欲しがった。マシューは早速ある令嬢と結婚させたが、クラウスは妻に暴力を振るい、妻は逃げ出した。その次の妻は隣国の令嬢にしたが、やはり暴力を振るい、逃げられた。そして三人目の妻は海の向こうの女を選んだが、結果は同じだった。海の向こうの女は大商人の娘だったので、娘の父親を怒らせて商売に大きな影響が出た。ここでようやくマシューは凝りて、クラウスに結婚を諦めるよう諭した。
だがクラウスは結婚を諦めていなかった。それどころかますます野望は大きくなった。
クラウスは以前見かけたデクスター王の末娘キャスリーンを一目で気に入った。王譲りの度胸を持っていて、王はキャスリーンに自分の補佐をさせているほどだ。そして見た目は「アズールマーレの真珠」と評されるほどの美しさを持つ。クラウスはキャスリーンをどうしても妻にしたいと考えていた。
ゴルトウェーブ家は莫大な資産を背景に、名声を欲しいままにしてきた。欲しい物は何でも手に入れる男、クラウスが次に欲しい物。それは王族の娘である。
ここは「ゴルトウェーブ家」が治める町。ゴルトウェーブ家は港町を拠点に貿易業を興し、大成功を収めた。豊富な資金力と海外との人脈、そして質の高い海軍を持っている。
ブルーゲートの酒場や娼館はどこも大繁盛だ。その喧騒から離れた場所に、古くて汚い小さな酒場が一軒だけポツンとあった。店の中には二人の男が向かい合っている。他の客は誰もいない。
「お前の噂は聞いてるよ、魔法使いの爺さん」
二人とも帽子を深く被り、周囲の目を避けているようだ。
一人は年老いた男で、震える手でワインの入ったカップを手に取る。
「どうして私に仕事を頼もうと思ったんだ……? 知ってるだろう? 私の魔力は高くない。今やこうして、しがない占いをして日銭を稼ぐしかない男だよ」
「ああ、知ってるよ。お前は魔法使いとしては三流。だが占い師……いや、詐欺師としては一流だとね。ミストリオ家に狐みたいな女が入り込んで後妻に収まったらしいが、その女が頼りにしていた占い師というのはお前のことだな? この仕事はお前にしか頼めないと思ったんだよ」
もう一人の男は、見た目は二十代のようだった。目は蛇のように鋭く、口元は不自然なほど横に大きく開き、綺麗に並んだ白い歯が光る。
「詐欺師として……か。複雑だが、褒め言葉と受け取っておこう。それで、クラウス坊ちゃん。私は一体何をすればいい?」
クラウスと呼ばれたこの男。彼はゴルトウェーブ家の次男、クラウスである。
「簡単な術を使ってくれればいい。お前ならデクスター王に近づくこともたやすいだろう」
デクスター王と聞き、魔法使いは急に様子がおかしくなった。
「よ……よしてくれ。いくら私でも、この国の王に手を出すのは……」
魔法使いの震える手をクラウスは掴み、その手のひらに金貨を五枚置いた。
「これは手付金だ。成功したらこの二十倍払う」
「何だと……」
魔法使いの目が驚きで大きく見開いた。
「それだけじゃないぞ。ブルーゲートに家も用意してやる。女でも男でも、お前の欲しい人間も与えてやろう。何なら両方でもいいぞ」
クラウスは低い声で笑い、ワインを一気に飲み干した。
「わ……分かった。話を受けよう」
魔法使いは金貨を大事そうに自分の革袋にしまい込んだ。
ゴルトウェーブ家の次男、クラウスは目的の為なら手段を選ばない、危険な男だ。
港町ブルーゲートは彼の庭。ゴルトウェーブ家の主人であり、事業を行う父マシューと兄ブレンドンは仕事で飛び回り、殆ど家にいない。マシューはクラウスを甘やかし、幼い頃から彼に何でも与えてきた。クラウスは、欲しい物は全て手に入れなければ気が済まない性格になった。
そして彼は怒りっぽく、暴力的でもあった。成人してすぐにクラウスは妻を欲しがった。マシューは早速ある令嬢と結婚させたが、クラウスは妻に暴力を振るい、妻は逃げ出した。その次の妻は隣国の令嬢にしたが、やはり暴力を振るい、逃げられた。そして三人目の妻は海の向こうの女を選んだが、結果は同じだった。海の向こうの女は大商人の娘だったので、娘の父親を怒らせて商売に大きな影響が出た。ここでようやくマシューは凝りて、クラウスに結婚を諦めるよう諭した。
だがクラウスは結婚を諦めていなかった。それどころかますます野望は大きくなった。
クラウスは以前見かけたデクスター王の末娘キャスリーンを一目で気に入った。王譲りの度胸を持っていて、王はキャスリーンに自分の補佐をさせているほどだ。そして見た目は「アズールマーレの真珠」と評されるほどの美しさを持つ。クラウスはキャスリーンをどうしても妻にしたいと考えていた。
ゴルトウェーブ家は莫大な資産を背景に、名声を欲しいままにしてきた。欲しい物は何でも手に入れる男、クラウスが次に欲しい物。それは王族の娘である。
1
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった
秋月乃衣
恋愛
「お姉様、貴女の事がずっと嫌いでした」
満月の夜。王宮の庭園で、妹に呪いをかけられた公爵令嬢リディアは、ウサギの姿に変えられてしまった。
声を発する事すら出来ず、途方に暮れながら王宮の庭園を彷徨っているリディアを拾ったのは……王太子、シオンだった。
※サクッと読んでいただけるように短め。
そのうち後日談など書きたいです。
他サイト様でも公開しております。
執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。
椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。
ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる