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第十話
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しおりを挟む後日――ナ・ズに住むすべての部族を招いた宴が催されることになった。
遠い集落にはキッカの部下である鳥たちからの迎えが行くらしく、必ずすべての長たちが集まることになっているとのことだった。
今までにこんな例はない。
城にいる亜人たちはざわついていたが、さすが王だと楽しむ気持ちの方が強いように見えた。
キッカがそうであるように、基本的に鳥たちは楽観的な考え方を持つ者が多いらしい。この催しについて聞いたカフも面白そうだと言っていた。
セランはと言うと、キッカがなにをするつもりなのかわからずはらはらしていた。
(とりあえず着飾っておけって言われたけど……)
どこから手に入れてきたのか、キッカは美しい衣装を用意してきた。
攫われたときに身に着けた舞姫の衣装とはまた違う。露出が多いのはナ・ズの服に共通しているが、今度のものは肌を晒しても清楚に見えるから不思議だった。
あの日の人攫いがどうなったのか、衣装を手にしたままふるりと身体を震わせる。
キッカはセランの救出を優先し、あの場は蹴散らすだけに留めていた。だが、先日の物騒な発言を聞く限り、見逃していないと思うのが自然だろう。
(……砂にばら撒かれていたりして)
忙しい日々の中で、キッカがそうしている可能性は高かった。
改めてものすごい相手のつがいになってしまったことを思い知る。
(大丈夫かな……)
宴まであとわずか。
そこが殺戮の場にならないことを、平和を愛するセランは願った。
そしてついにその日がやってきてしまった。
満月の夜、セランは鷹の姿になったキッカの前に立つ。
「変なことはしないよね……?」
「お前なー、俺のこともうちょっと信用しろよ。人間を食い散らかすつもりなら、もっとうまくやるって」
「……食べるの?」
「俺、肉より魚のが好き。お前も知ってるだろ」
「うん……」
「ほら、乗れよ」
背を向けられ、ためらいがちに乗る。
相変わらず羽毛はふわふわだった。
「ああ、そうそう。言い忘れてたけど、その服よく似合うよ」
「あ……うん、ありがとう」
「ちょっと大人っぽくなるよな。綺麗だ」
「恥ずかしいからそのぐらいにしてくれると嬉しいな。じゃないと、私もキッカのこと褒め殺しちゃうよ」
「俺の褒めるとこならいっぱいあるだろ。飛んでる間、ずっと聞いててやる」
「照れ屋じゃなかったの?」
「俺のくちばしが立派なのは事実なんだから、別に照れるようなことじゃねぇ」
(わからないなぁ、そういうところ)
キッカの翼が風をまとう。
飛び上がったその背にしがみつき、せっかくだからもっと褒められておけばよかったかもしれない、と思った。
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