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第十話

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「なんだよー」
「結婚しなくてよかった。あのまま集落にいなくてよかった。砂漠に行き倒れて本当に本当によかった!」
「はいはい。……あ、そうだ」
「なに?」
「一個確認な。お前、元の婚約者と親友のこと、今はどう思ってる?」
「え?」

 婚約者だったラシード。挙式の当日に、セランと結婚生活をまともに続けていくつもりがないことが発覚した。結婚を望んでいなかったとはいえ、あんな形で婚約を破棄することになると誰が思うのか。
 親友だったサリサ。よき友人であり、姉であり、相談相手だった。しかし、その裏でラシードと関係を持っており、セランという存在がいなければと願っていた。
 あの日のことを思い出し、すぐにセランは首を横に振る。

「なんとも思わない。過去は過去だから」
「もともとあいつらを見返したいから魔王になりたかったんだろ」
「今はもう魔王になりたいと思ってないし、見返すのもどうでもいいもの」
「つがいになった時点で、お前も魔王みたいなもんだけどな」

 そう言ってから、キッカはまるで笑うようにくくくと喉を鳴らした。

「それじゃ、報復したいのは俺だけなのか」
「……報復?」

 なんとも物騒な言葉が聞こえた気がした。

「そう、報復。受けた屈辱は返さなきゃだめだろ」
「えっ、でも、私もう本当にどうでもいいよ」
「俺が嫌なんだって。……お前が傷付いたところ、見てたから」

 甘えるように抱き締められ、セランもきゅむ、と変な声を出してしまった。
 キッカのことはとても好きだが、こういったことには慣れていない。抱き締められると頭が真っ白になってしまう。

「で、でも、そのときは私のこと、なんとも思ってなかったでしょ? その頃から好きだったならまだわかるけど……」
「今は好きだ」

(ひええ)

 照れ屋だと言うくせに、たまに率直に気持ちを伝えてくるところはたまらなかった。
 気持ちの駆け引きを行う人間とは違う、とも思う。

「あ、あのね、ひどいことはしちゃだめだよ」
「もしお前が怪我でもさせられてたら、一族郎党皆殺しにしてたなー」
「えっ」
「ばらばらにして砂に撒いてたよ。誰も弔えないように」

 亜人ではない、普通の鳥たちの餌にしていた――とキッカは当然のように言う。
 普段の言動からは考えられない残虐さにぎょっとした。

「今、ちょっとキッカのこと、魔王っぽいと思った」
「思っても思わなくても、俺が魔王なのは変わらねぇぞ」
「それはそうなんだけどね……」
「……もう少しで終わるから、それまで待ってろよ」

 すり、とくちばしを寄せられる。

「終わるって、なにが……?」
「報復の準備」
「え……」

 忙しそうにしていたのは、水不足の解決に奔走していたからではなかったのか。
 セランが受けた屈辱に対する報復のためにも動いていたのだとしたら、ゆっくり会話する時間もあまり取れなかったことに納得はいくが――。

(だ、大丈夫かな……?)

 一族郎党皆殺しにした上、その死体を砂にばら撒く。
 そう言ったことを考えると、なにをするつもりなのか、想像するのも恐ろしかった。
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