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第十話
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それから数日が経ち、予定を合わせてくれたティアリーゼがシュクルと共に来てくれた。
「お久し振りね、セラン」
「うん! ティアリーゼも元気そうでよかった。それから、シュクルも」
「……元気だから来たくなかった」
「え?」
「ごめんなさい、いつものことよ」
相変わらずシュクルはティアリーゼとの時間を邪魔されることに不満を持っているようだったが、ティアリーゼがなにやら耳打ちすると、すぐに尻尾を振り始めた。
「なんて言ったの?」
「ふふふ、内緒」
「膝枕をすると言った」
「シュクル、言わないの」
ティアリーゼがたしなめても、シュクルは気にしていない。
「今日、キッカさんは?」
「忙しいみたい。砂漠を飛び回ってるのは確かなんだけど、なにをしてるのかはよくわかってないんだよね」
「そう……」
セランはティアリーゼとシュクルを席に座らせた。
そして、最近の悩みを告白しようとする。
「おかげさまで、キッカと両想いになったの」
「あら、やっぱり。おめでとう」
「やっぱりって?」
「クゥクゥも相談に来た。来ないでほしい」
「シュクル」
(キッカも二人に相談してたんだ?)
当然だと言えば当然だし、意外だと言えば意外だった。
「キッカ、なんだって?」
「それは本人に聞いた方がいいんじゃないかしら。私たちから言うことじゃないわよね、シュクル」
「いかにも」
「もう、教えてくれてもいいのに」
(どんな風に相談したんだろう。……私のことが好きかも、って?)
わー、とセランはテーブルに顔を埋めてじたばたする。
自分の知らないところでそんな相談がなされていたとは思いもしなかったが、そうしているキッカを想像するとたまらなく恥ずかしい。
「それでね、ええと……。つがいになってほしいって言われたのはいいんだけど、そこからあんまり進展がなくて。ずっと忙しいみたいだし、前と全然変わらないような気がしてるの。どうしてなのかな? 私にあんまり魅力がないとか?」
「んー……。セランはどうしてほしかったの?」
「え?」
「だってそうでしょう? 私から見た感じ、キッカさんもそういうことには疎そうだし……」
「いかにも。クゥクゥは恋を知らない」
「ね、やっぱりそうよね」
「私がしてほしかったこと……」
そう言われると確かに悩んでしまう。
セランだって恋愛の知識はあっても、経験はない。
ただ、目の前の二人を見ているともう少しなにかあるのではと思ってしまうのだ。
こんな風にお互いを思いやる気持ちが前面に出ている夫婦は、見たことがない。
「……思いつかないや」
「だったら悩む必要はないと思うのだけど……」
「でも私、ティアリーゼたちみたいな夫婦になりたい」
「私たちとあなたたちは違うわ」
「いかにも」
話題に入ってこようとするシュクルをティアリーゼが笑う。
そんなちょっとした瞬間にも、愛情を感じられた。
「お友達みたいな夫婦もかわいいと思うの。私たちは始まりがお友達じゃなかったわけだし、どうしてもそうなれないから」
「ティアリーゼがそうしたいと願うなら、善処しよう」
「今のままでいいわ」
「そうか」
「うーん、もやもやするなぁ」
セランはテーブルに突っ伏して足をばたつかせた。
ティアリーゼの言っていることもわかるが、どうも納得いかない。
「時間が解決するものじゃないかしら。こうなるまでにも時間がかかったでしょう?」
「うん……」
「セランの方からキッカさんに言ってみるのはどう? 夫婦らしくしてみたいの、とか……」
「肝心のキッカがあんまり城にいないんだよね。本当になにをしてるんだろう?」
「我々は意外に忙しい」
ふふん、と少しだけシュクルが胸を張る。
(我々……ああ)
「シュクルも魔王様なんだもんね」
「セラン、あなた」
「うん、もう知ってるよ。キッカが魔王だってこと」
シュクルも白蜥の魔王と呼ばれている。キッカに聞いたときは少し驚いたが、それ以上にティアリーゼとの馴れ初めの方に驚いてそれどころではなかった。
「いろいろ解決して、これからは幸せな夫婦生活だと思ったんだけどなぁ」
「まだこれからよ。そうでしょう?」
「だったらいいな」
なぜ、キッカがあんなにも忙しくしているのか、セランにはわからなかった。
魔王であることは以前から変わっていない。それなのにセランと気持ちを通じ合わせてからこうなっている。
(避けられてるわけじゃないと思いたい……)
照れ屋だと言っていたキッカ。もしつがいになったことを恥ずかしいと思っていたのだとしたら。
「うー、悩む……」
「今日はたくさん話を聞かせて。キッカさんに話せない分も。そのために来たのよ」
「ありがとう、ティアリーゼ」
たくさん、と聞いてシュクルが一瞬顔をしかめたのが見えてしまった。
少し申し訳ない気持ちはあったが、甘えさせてもらうことにする――。
「お久し振りね、セラン」
「うん! ティアリーゼも元気そうでよかった。それから、シュクルも」
「……元気だから来たくなかった」
「え?」
「ごめんなさい、いつものことよ」
相変わらずシュクルはティアリーゼとの時間を邪魔されることに不満を持っているようだったが、ティアリーゼがなにやら耳打ちすると、すぐに尻尾を振り始めた。
「なんて言ったの?」
「ふふふ、内緒」
「膝枕をすると言った」
「シュクル、言わないの」
ティアリーゼがたしなめても、シュクルは気にしていない。
「今日、キッカさんは?」
「忙しいみたい。砂漠を飛び回ってるのは確かなんだけど、なにをしてるのかはよくわかってないんだよね」
「そう……」
セランはティアリーゼとシュクルを席に座らせた。
そして、最近の悩みを告白しようとする。
「おかげさまで、キッカと両想いになったの」
「あら、やっぱり。おめでとう」
「やっぱりって?」
「クゥクゥも相談に来た。来ないでほしい」
「シュクル」
(キッカも二人に相談してたんだ?)
当然だと言えば当然だし、意外だと言えば意外だった。
「キッカ、なんだって?」
「それは本人に聞いた方がいいんじゃないかしら。私たちから言うことじゃないわよね、シュクル」
「いかにも」
「もう、教えてくれてもいいのに」
(どんな風に相談したんだろう。……私のことが好きかも、って?)
わー、とセランはテーブルに顔を埋めてじたばたする。
自分の知らないところでそんな相談がなされていたとは思いもしなかったが、そうしているキッカを想像するとたまらなく恥ずかしい。
「それでね、ええと……。つがいになってほしいって言われたのはいいんだけど、そこからあんまり進展がなくて。ずっと忙しいみたいだし、前と全然変わらないような気がしてるの。どうしてなのかな? 私にあんまり魅力がないとか?」
「んー……。セランはどうしてほしかったの?」
「え?」
「だってそうでしょう? 私から見た感じ、キッカさんもそういうことには疎そうだし……」
「いかにも。クゥクゥは恋を知らない」
「ね、やっぱりそうよね」
「私がしてほしかったこと……」
そう言われると確かに悩んでしまう。
セランだって恋愛の知識はあっても、経験はない。
ただ、目の前の二人を見ているともう少しなにかあるのではと思ってしまうのだ。
こんな風にお互いを思いやる気持ちが前面に出ている夫婦は、見たことがない。
「……思いつかないや」
「だったら悩む必要はないと思うのだけど……」
「でも私、ティアリーゼたちみたいな夫婦になりたい」
「私たちとあなたたちは違うわ」
「いかにも」
話題に入ってこようとするシュクルをティアリーゼが笑う。
そんなちょっとした瞬間にも、愛情を感じられた。
「お友達みたいな夫婦もかわいいと思うの。私たちは始まりがお友達じゃなかったわけだし、どうしてもそうなれないから」
「ティアリーゼがそうしたいと願うなら、善処しよう」
「今のままでいいわ」
「そうか」
「うーん、もやもやするなぁ」
セランはテーブルに突っ伏して足をばたつかせた。
ティアリーゼの言っていることもわかるが、どうも納得いかない。
「時間が解決するものじゃないかしら。こうなるまでにも時間がかかったでしょう?」
「うん……」
「セランの方からキッカさんに言ってみるのはどう? 夫婦らしくしてみたいの、とか……」
「肝心のキッカがあんまり城にいないんだよね。本当になにをしてるんだろう?」
「我々は意外に忙しい」
ふふん、と少しだけシュクルが胸を張る。
(我々……ああ)
「シュクルも魔王様なんだもんね」
「セラン、あなた」
「うん、もう知ってるよ。キッカが魔王だってこと」
シュクルも白蜥の魔王と呼ばれている。キッカに聞いたときは少し驚いたが、それ以上にティアリーゼとの馴れ初めの方に驚いてそれどころではなかった。
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「まだこれからよ。そうでしょう?」
「だったらいいな」
なぜ、キッカがあんなにも忙しくしているのか、セランにはわからなかった。
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(避けられてるわけじゃないと思いたい……)
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「うー、悩む……」
「今日はたくさん話を聞かせて。キッカさんに話せない分も。そのために来たのよ」
「ありがとう、ティアリーゼ」
たくさん、と聞いてシュクルが一瞬顔をしかめたのが見えてしまった。
少し申し訳ない気持ちはあったが、甘えさせてもらうことにする――。
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