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第七話
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しおりを挟むいつの間にかセランは眠ってしまっていた。
肩を揺さぶられて目を覚ますと、目の前には心配そうな顔をした女たちと質素な食事がある。
「ああ、よかった……。ずっと目を覚まさないからどうしたのかと思ったわ」
「大丈夫? 昨日、ひどい真似をされていたけど……」
「頬に泥が付いているわ。待ってね、今拭ってあげる」
まだ寝ぼけまなこだったセランを、周りにいた女たちが気にかけてくれた。
頬を擦られて、眠る前のことを思い出す。
(私、この人たちに絶対逃げようねって言ったんだった)
男たちが去り、女たちは絶望に打ちひしがれていた。
そんな中でセランは立ち上がり、全員にとつとつと語ったのである。
自分には目的があり、会いたい人がいる。こんなところで自分の値札が付けられるのを待っているのはごめんだと。
抵抗しない方がまだいい扱いをされるだろうと、セランの言葉に反対する女もいた。
そんな相手に対し、セランは声を荒げることなくやはり諭した。
本当にいい扱いというのは、自由に空の下を駆け回ること。金の鎖に繋がれて嬲られることではない。
ここにいる女たちの中でセランは幼い方だった。それが逆になにかを思わせたのだろう。
こんな子供――子供と思われるのは少々癪だったが、この際気にしないことにする――が諦めずに前を向こうとしている。ならば、ただ泣いて十日を過ごすのは間違っているのではないか。
そんな声はやがて広がり、女たちを勇気付けた。
どうすればいいのかを扉の向こうにいる見張りには聞こえないよう、こそこそと相談して過ごし、夜を明かす。
成り行きで中心人物になったセランもあちこちを回って話を聞き、少し休憩しようと壁にもたれたところでそのまま寝てしまったというわけだった。
「こんなときなのにぐっすり寝ちゃってたみたい。ごめんなさい」
「いいのよ、それだけあなたも疲れてたんでしょう?」
「……そうかも。まさか攫われると思ってなかったしね」
「とりあえずほら、これを食べて」
「ありがとう、いただくね」
商品が飢えないようにと与えられた食事は、お世辞にもおいしいとは言えないものだった。
少し酸味のあるパンに、しなびた野菜としばらく外に置いてあったのか、乾いた肉が挟まっている。しかも中身は笑ってしまうほど少ない。
それでも、なにもないよりはずっとよかった。
ここにいる誰よりも厳しい環境で生きてきたセランは、食べられるものがあるときに食べておくという考えが刻み込まれている。
女たちのほとんどが半分か、一口程度しか食べられなかったものを、唯一完食した。
汚れた木の椀に注がれた水も飲み干し、一息つく。
そうしてから、改めて明るい場所で女たちを見回した。
誰もが一様に疲れた顔をしており、目に生気がない。
昨日のセランの言葉で希望は抱いても、必要以上に期待はしていないというのが肌で感じ取れた。
十日、否、残り九日の運命を思い、ひどく緊張した空気が流れている。
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