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第四話
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しおりを挟むなんだかおかしい――。
そんな気持ちは消えずにいたが、それでも日々は過ぎていく。
あの後、セランはきちんとティアリーゼになにが起きたのかを報告した。
いつもはあんなに穏やかなティアリーゼが怒ったところを見たのはそれが初めてで。襲われたセランのことを心底心配してくれたのだった。
自分の力量を知ったことも伝えたが、ならばなおさら訓練を続けるべきだろうと提案された。
あのときはキッカが助けてくれた。だが、次はそうならないかもしれない。
そうなったことを考え、少しでもセランが恐ろしい目に遭わないよう、力を貸してくれると言う。
とはいえ、こうして訪れる時間は以前より少なくなるとのことだった。
本格的に鍛える必要がなくなったからかと思ったが、どうやら問題はティアリーゼの夫であるシュクルにあるらしい。
なんでも、シュクルはティアリーゼに構ってもらう時間が減ったことを猛抗議してきたらしかった。
もっと構え、と尻尾を振って文句を言う夫を放っておけず、ティアリーゼは申し訳なさそうに言ったものだ。
だが、セランはそれを快く受け入れた。むしろ、今までもっと気を遣うべきだったのだろう。いくらティアリーゼが優しくても、彼女は新婚である。やはり、夫と楽しい生活を送らせるべきだった。
そうしてセランは一人で過ごす時間が増えた。
キッカの言っていた通り、なるべく部屋で過ごし、どこかへ行くときは誰かに告げるか、あるいは同行を願った。
おかげで以前のようなことはなかったが、もともと行動的なセランである。
徐々に身動きの取れない日々を悶々と感じるようになっていた。
なかなかそのもどかしさを解消できずにいたある日――。
ついに、面白そうなことが起きた。
「お友達が来るの?」
「友達っつーか……同僚?」
キッカが言うには、ここから遥か遠い東の大陸から知り合いが来るとのことだった。
どうも貴重な鉱石を見つけたとのことで、わざわざこちらまでやってくるという。
「東って……木がたくさんあるところだよね。代わりに全然、砂がないとか」
「そうそう。面積のほとんどが森。木々に紛れて、妙なもんがごろごろしてる変なとこ」
「そうなの?」
「なんて言ってたっけな。昔の人間が住んでた建物やら、使ってた道具があちこちに落ちてるらしい。あと、普通の木とは違うもんでできた森もある」
「へえ……」
「お前、水晶って知ってる? なんでも、あれが木みたいに生えてるんだってさ」
「水晶……? 占いに使うあの小さい石だよね? あれが木と同じくらい大きくなるの?」
「らしいぜ」
(いつも見ていたあの小さな石は、石じゃなくて種だったのかな……?)
セランはナ・ズの大陸どころか、この砂漠を出たことさえない。
生まれてからずっとあの集落で過ごしていたこともあり、他の大陸の知識は伝え聞いたものしか知らなかった。
ときおり商人たちが面白おかしく話す、見知らぬ土地の物語。もっともらしく差し出される、見たことのない道具や飾りの数々。
そんなものに心奪われていた日々を思い出す。
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