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第6章

告白 

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‥‥


授業をサボって出てきたものの、昼間のリオンさんの態度を思い返して足取りが重くなる。

リオンさんがどこにいるのかはファイさんづてで把握済みだ。
あの天下のファイ•キングダムとメール仲間になるなんて不思議な感じだけど、
今のファイさんなら悪くない。

まあちょっと、特殊な顔文字を使ってくるのは感情が読めないのでやめてほしいけど‥

あと、返信が早すぎてびびる。
まさか数分毎に魔携帯を確認してるとか‥?やってそうだな‥あの人‥。


ガラス張りになっている裏庭園の入り口を開ける。
ふわりとハーブの匂いがして、不思議と心が落ち着いた。


ここは俺にとって特別な場所だ。


あの日初めて近くで見た空色の瞳。
本当に綺麗だと思った。
痛みも忘れて、それしか見えなくなってしまうほどに。

俺を変えてくれた人。
俺に寄り添ってくれた人。
俺に勇気をくれた人。


予感なんてものじゃなかった。
あの瞬間、この場所で、俺は貴方に恋をしたからーー。


自然に軽くなる足取りに頬が緩む。
早く‥貴方に会いたい
そしたらきっとこの不安な気持ちだって吹き飛んでしまう‥。


ふと数秒歩いた所、
ベンチのある場所で、誰かの話し声が聞こえてきて
俺は足を止める。


リオンさんッ!


と‥誰かもう一人‥?



「リオン、やめろ!そういうのは本当に好きな人にだけするんだ!」

「へえ‥そういう事言うんだ‥。シオンちゃんってほんと面白いよねー、食べちゃいたい‥」


どこかで聞いたことのある様な台詞、

少し足を進めて見えた光景に唖然と立ち尽くす。
ベンチの上、シオンに覆いかぶさるリオンさんの姿。

俺は驚いて、発しそうになる声を両手で押さえ込んだ。


なんだよ、これ、


頬を染め抵抗するような仕草をしているシオンと、
面白そうにシオンに顔を近づけるリオンさんに、
ルーの言葉が脳裏をよぎる。


『正しいシナリオーー』


なんで2人がここに‥
俺は震える足を必死で動かす。
進め。だめだ。やめろ。
ただ、魔法でこうなってるだけで‥
嘘だ。本当じゃない。
正反対の考えが頭の中でごちゃごちゃと飛び回る。


「ねえ‥じゃあさ、
シオンちゃんが代わりになってよ‥」

リオンさんが妖艶に微笑む。
違う。ただの洗脳、そうインプットされてるだけーー。


「り、リオン‥それで‥お前が遊ぶのをやめるなら‥いい、よ」

ッーー考えるな!シオンは俺の気持ちを知ってるんだからーー。

「ッ!!ぷはッ!ほんっと面白いよ君!」


ちゃんと流してくれるはずだ、


「な!?俺は本気でッ!?」

ほら、背負い投げとか‥さ、前リオンさんもやられたって言ってたし、


「俺も本気になっちゃうよ?シオンちゃん


‥嫌なら‥避けて‥」



信じて‥いいんだよね?



「リ、オン‥ーー。」


シオンーー




「それはアウトでしょ。」

何かが崩れ去ってしまう音。
俺はすかさず重なりそうな2人を引き離した。


「なに、してるの‥」


絞り出した一声は震えていて、
それが怒りなのか悲しみなのか、はたまたそれ以外なのか分からない。

「ッ、え、る」

シオンの気まづそうな表情に心が酷く冷えていくのを感じた。


あぁ‥最悪の気分だ


「‥はぁ‥また君か‥いい加減、うざいよほんと」

うるさいーー


今はリオンさんの声すら煩わく感じる。


「エル‥ごめん‥でも俺はッ」

うるさいーー


浮き立ってた自分が馬鹿みたいだ。
いや、本当の馬鹿。

ほんっとに、さ‥




「なに、してんだよッーー!?シオンっ!?ーー」

「ッ、」


こんなに大きな声を出したのはいつ以来だろうか。
シオンの胸ぐらを掴む両の腕を、他人事の様に見つめる。

どうしてこんな事が起きているのか想像すらしたくない。

嫌気がさす。全てに。


「ッ、ちょ、ちょっと、君ねッ、嫉妬してるのか知らないけどさー、これは俺とシオンちゃんの問題で、君には関係ないでしょ?は、また俺の事ストーカーしてたわけー?お邪魔虫のくせにシオンちゃんに怒るのはお門違いーー」

「うるさいッ!あんたには聞いてないだろッ!?黙っててください!!ーー」

「ッな!?うぐッ!?」


俺の腕をシオンから引き離そうとするリオンさんを払い退ける。
力の加減ができずに、勢いよく払ったせいで、
リオンさんはベンチの端で背中を打ってしまい、
苦しそうな声をあげた。

「お、おい、エルっ」

シオンが心配そうにリオンを見つめ、その反面怯えたように俺の様子を窺う。


は、まるで俺が悪役みたいじゃないか‥。
苛立ちと悲しみと、
いろんな感情が混ざって、気分が悪い。


恋愛とか友情とかそういう問題じゃないんだ。
シオンが何でこんなことをしているか、
どんな時でも俺の味方だって言ってくれたこの子がっ、
誰にっ、もし誰かにっ、こんな事をさせられてるのなら、そいつを許さないーー。


「さっさと答えて‥」

検討はついてるっ‥

「ッ、」

「シオン」

「俺は‥俺の好きにするって言った‥」

「‥それがこれ?」

「ッ、あぁ‥そうだよ」

「‥ルーに何か言われたの?」

「ッ、それ、は‥」

あからさまに顔を険しくするシオンに目を細める。
あたりーー。


「ッ、あいつッ!!ーー」


やっぱり‥また‥

ルーの体を乗っ取っている転生者っ
先ほどの奴の楽しんでるって顔。吐き気がする。
俺たちの事をなんだと思ってるんだッ

罪のない子を傷つけて、みんなの記憶を掻き乱してッ、挙句にこんなっ‥

馬鹿にするのも大概にしろッ‥

「ルーに‥いや、奴に言われてやったんだな?今すぐあいつの所にッ」

「エルッ、待って!?」

「離して‥シオン‥」


ぎゅっと握られた腕。
小さい身体が震えていて、俺は拳を握り締める。

どうして‥俺たちなんだよ‥どうして


「っ、ダメだ、ルーは‥強い‥エルじゃ勝てない‥」

「そんなのっ、やってみないとわからないでしょ‥」



「エルッ‥違うんだっ‥エル



俺が‥あいつの話に乗ったんだっ‥!」

「‥っ、は‥?」













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