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第5章

その3

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校舎裏。じめじめとした熱さに目眩がしそうだ。
頭が痛い‥冷や汗が止まらなくて、いろんな事を考えては止める。


ふと、何か気配を感じて、俺は背後へ振り返った。



「お前が、エル・クレヨンか?」


ガサリと揺れる草原
俺はその声に、びくりと体を震わせた。
冷や汗が頬を伝う。うまく、息が、できない


どうしてッ、ここにーー



「は、ッグレン・クロック‥」



「お前がエル・クレヨンかと聞いている」


威圧的な声。俺を睨むその態度が、いや、何もかも気に食わない。
どいつもこいつも、嫌になるよほんと


「そうだけど‥何か用?」

今は授業中だ。
転校初日ぐらい大人しくしとけっての‥

「‥いや、少し気になっただけだ」

ルーから俺の話でも聞いたのか?
殺し屋としては、ターゲットや雇い主の
周囲にいる人物は、把握しておきたいもんね。

避けていたはずのシナリオが進み出して行く。この男はそれがさぞ当たり前かのように涼しい顔をして、立ち去ろうとする。

俺はなんとなく、やりきれなくて、この澄ました顔を壊してやりたくなった。



「‥ねえ、君ってさー、

実の親が貴族に殺されたから、その復讐の為に貴族をターゲットとした殺し屋やってるんでしょー?」


「ッ、何故それを」


狙い通り、顔を歪めるその3くん。
まあ、妹の受け売りなんだけど


「はは、俺は君の事‥なんでも知ってるよ」

「お前、何者だッ」


何者‥
弱小貴族で、メンタル弱くて、
そのくせアルビノで‥

悪役令息の取り巻きだけど何か文句ある?


「本当に‥嫌になっちゃうよね。君の全てを知っていたらさ、へなちょこな俺でも君を


殺せるかな?ーー」


「なに‥?」


俺はこの学園に来て、
はじめて魔法を人に向ける


悪役の取り巻きらしい属性は毒ーー
こいつを消せば‥こいつさえ‥
そしたら、そしたらさ、幸せな未来が、戻ってくるのかな‥?


「ーー全てを解かせ




ポイズンワールドーーー」



途中で途切れる詠唱。

魔法を放つより先に、
首先に当てられたナイフと、
パカリと割れた相棒。

いつのまにか、俺は天を見上げていて。
情けない。カッコつけてこのザマだ。
だよな、やはりモブはモブ。
こんなの勝てるわけない。


「はは、やっぱり‥無理だよね」

「何のつもりかは知らないが、お前程度にこの俺は殺せない。」

「うん、分かってる。そんな事、‥分かってるよ」


ほんと、一言多いんだよ。




「ッ、」

熱いものが溢れ出してくる。
諦めた、君が幸せならそれでいいと
知ってる、ルー?
君とその1くんがラブラブすぎるって、馬鹿みたいな事が学園中の噂になってるんだよ
俺やっと、それを見て、聞いて‥バカップルめって笑えるようになったのに‥
もうすぐ、本当の君の親友になれるって、
色んな話ができるって思ってたのに
それなのに、なにが君を‥


「頼むからさ‥シオンとルーを傷つけないでよ‥俺を傷つければいいじゃん。お願いだよ、お願い‥」


彼のナイフに手を添えて、力を加える。
が、その前にスッとナイフをおろされた。


「ッ、やめろ‥、お前を殺す気はないッ」


「‥なんで‥どうして‥上手くいかないんだろうね‥く、う‥」


泣きたくないのに
止まらない

敵の前でボロ泣きとか、ありえないんだけど。


「お、おい‥何故泣く?意味が分からない‥本当に‥意味不明だ」


そう言って、泣き崩れる俺の上から退き、
その隣へ腰掛けるその3くん。

困ったように、ナイフを研ぎはじめた。
なんで‥早く行けよ。
横で凶器研ぐとか山姥かよ‥怖えし‥気まづいし、涙止まらないし


頼むから1人にしてくれないかな



「ふ‥グスッ」

「‥。」









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