希望を歌う悪の姫

花村 ネズリ

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噂の令嬢

倒れた王子

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「ラピス!?息子はどうなっているんだ!?」


王様の焦った声に
ハッと、私は現実に戻る。


歌い踊り終えた私は、脱力感に襲われ、その場に座り込んだ。

膨大な魔力を消費するこの魔法は、
発動者本人の体力をごっそりと持っていってしまいます。

それにしても‥あの記憶は‥



「アルベルト様ッ!!」


1人の少女が、倒れたアルベルト様に駆け寄る。

あれは、確か‥


アルベルト様の婚約者候補の、
リア・ハニース様。


紫色の髪に、濃いブルーアイ。
とても愛らしい容姿ですが、
彼女も幼いながらに、強い印象を受けます。



リア「貴女っ!アルベルト様に何したのよ!!」


キッと睨みつけてくる青に、ドキリと驚く。

ま、待ってくださいリア様。

その様な反応には、対処できる言葉を用意しておりませんの‥



リア「なんとか言いなさいよ!!?」

ああ!どうしましょう!

このままでは、わたくしがアルベルト様暗殺疑いの加害者等に仕立て上げられるのでは!?

い、急いで弁解を!!


「わ、わたくしは‥わたくし‥は」

声が震える。ああ、もう‥だめですわ

死刑?死刑ですか!?ああ!?






アル「ゔ‥、御父様‥僕は一体‥?」


突然、呻き声が上がる。
今にも王国の救急班に運ばれそうになっていた、アルベルト様のお声。



リア「アルベルト様!!意識がっ!!それにお声も!!本当に、本当に、よかったですわ!!」


リア様の意識が、目覚めたアルベルト様に移る
ほっ、ひとまず安心です‥。


アル「リア‥僕は一体‥そうだ。歌が‥綺麗な歌声が聞こえてそれで‥ゲホッ」

久々に出たであろうアルベルト様の声は、少し枯れていて、
やはり、私の魔力では、完全回復は難しいのですね‥。

ですが、この調子ならすぐに元の声に戻るはずです。

それよりも、アルベルト様のあの記憶。
原因はお母様のお言葉だったのですね。


誰にも相談できずお一人で抱えて‥
きっとあれが、アルベルト様に向けての最後のお言葉だったのでしょう。


ですが‥彼女も後悔してーー



「もう‥大丈夫です‥安らかにお眠りください‥王妃様‥」



スッと消えていく光。
それは、アルベルト様を一瞬包み込み、空へと消えていった。


わたくしは、きっと‥同情した目で彼を見つめていたのでしょう。

彼とふいに目があってしまい、慌てて逸らす。





アル「っ!君っ!ゲホッゴホッ!!」



王「もう無理に喋るな。まだ治ったばかりだ。ふぅ、焦らせよって‥。お前は本当に‥。だが、リアの言う通りじゃ。本当によかった!!」


アル「御父様‥」


王「はは!今日は最高の日になった!

さあ、皆よく聞け、これがクローリー家長女ラピスの力、治癒の舞だ。
今宵、この目でこの世の物とは思えぬ美しさと優しさを見た‥。素晴らしい力だ。
この中でも傷や病を抱えていた者も居たであろう。彼女には感謝の言葉でいっぱいだ。


ラピスよ、本当にありがとう。
後日また礼に行く。」


どこからともなく王様のお言葉に、沢山の拍手と歓声が贈られる。

いやですわ、また注目が‥


ラピス「いえ、王様の御命令とあらば、わたくしラピス・クローリーは、いつ何処へでも駆けつけますわ。

‥では、私の実力不足で、この様な格好でのご挨拶になり申し訳ございませんが、これにて失礼いたしますわ。」


王「もう帰るのか‥?ラピスもアルベルトと同い年と聞いた。しっかりしておるが、やはりまだまだ幼い。パーティー等珍しいだろうに、じっくり楽しんでいけばいいものを‥」

ラピス「わたくしもそうしたいのは山々なのですが、‥お恥ずかしながら、魔力消費が激しく体力の限界が‥。」

正直に言うと、治癒の舞を発動させたので、全身が麻痺して動きません。

ですが、王様の言うように、わたくしも美味しい食べ物や、友人との楽しい会話等経験して見たかったものです‥。


王「なんと‥それならば改めて言わせてくれ。息子の為に、そのような苦労を‥感謝する。お主は息子の、いや、王家の恩人だ。困った時は訪ねに来なさい。いつでも歓迎しよう。」

これで御母様、御父様の狙い通り、
クローリー家は、王族に借りを作りました。
そして、クローリー家は、貴族達が無視できない存在にまで上り詰めたでしょう。

私の役目は終わりです。


ラピス「‥はい。勿体なきお言葉ですわ、王様。」



こうして、わたくし初めてのきらめくパーティーデビューは、ドキドキの恋愛ストーリーも、熱い友情ストーリーも何事もなく、
静かに幕を閉じたのでございます。


これが、わたくしラピス 7歳の出来事です。

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